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リクルートMSが調査から紐解く、“若手・中堅社員”の管理者志向

退職が増える「3年目」「5~7年目」社員 退職と“静かな退職”への予防策

2025年09月03日 09時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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管理者不足の予防策①:成長経験デザイン

 ここまでの調査結果・考察を踏まえて、小松氏からは、管理職不足解消に向けた2つの予防策が語られた。

 ひとつ目の予防策は、経験を停滞させず、持続的な成長を促すための「成長経験デザイン」である。

 ここで社員個人に求められるのが、前述した拡張的ジョブクラフティングを推進する「ジョブクラフター」になることだ。ジョブクラフターは、仕事の意味を主体的に創造する人であり、やらされ仕事ではなく、自身が意義を感じられる仕事をする人である。ジョブクラフターな社員は、前半の調査においても、離職意識が低く、キャリア発達の見通しを持っている。「用意された経験に影響を受ける受動的な姿勢から、能動的に自らの仕事を捉え直し、解釈・意味付けすることが重要となる」(小松氏)

ジョブクラフターになる(社員個人)

 一方で組織に求められるのが、若手・中堅社員に対する支援を「段階的」にデザインすることだ。調査の考察にあったよう、若手社員の独り立ちする時期(3年目)に支援・介入を突然止めるのではなく、徐々に見守りに移行していく。そして、中堅期(5年目以降)には、成長経験に必要な支援を適度に行う。「チャレンジャブルな仕事に燃え尽きないよう、適度に支援して、見守ることを推奨する」と小松氏。

 管理職を意識した成長経験の「前倒し」も有効である。昇進時やその直前にいきなり管理職適応の準備をするのではなく、前手からなだらかに経験を積めるようステップを設ける。ひとつ上のステージの業務を経験できる機会を設ける形だ。実際に、前半の調査においても、リーダーとしての経験を得た後に管理職志向が高まる傾向があるという。

成長経験の「前倒し」

 また調査では、「担当業務の忙しさ」「ワークライフバランスの維持」「担当業務への責任感」が、拡張的ジョブクラフティングの足かせになっていることも分かっている。これを解消するために、「仕事を広げて成長できる」環境や制度を仕組み化することも重要だ。例えば、社内副業制度やプラスαの業務成果の評価・報酬制度などが挙げられる。昨今では、社内業務をオークション制にしたり、部内責任者が社員の移籍をオファーするフリーエージェント制度を設ける企業も存在するという。

管理者不足の予防策②:管理職への前適応

 2つ目の予防策は、「管理職への前適応」だ。前適応とは、生物のある形質が、進化の過程で本来とは違う役割として転用されることを指す。人材育成でいうと、社員の持っている潜在的な能力や影響力を、新たな環境(ここでいうと管理職)を与えることで引き出す取り組みとなる。

 この前適応で社員個人に求められるのは、「キャリアに向き合う柔軟な姿勢」だ。見聞する情報だけで管理職を「自分には不向き」「やりたくない」と判断せずに、管理職の業務を体験するなどして、見極めることが大切だという。実際に過去の調査でも、昇進前に管理職になりたくなかった人の半数以上が、昇進後にはポジティブな気持ちに変化している。

 一方、組織側は、管理職業務を「リ・デザイン」すべきだという。これは、管理職の業務を中堅社員に積極的に渡したり、中堅社員と一緒に改善・開発する取り組みであり、「管理職の業務負荷の軽減」「マネジメント経験の創出」の一石二鳥を狙える。ある企業では、グループリーダーが管理職の評価業務をプレ経験することで、管理職が忙しくて浅い評価になっていた課題も解決したという。

管理職業務のリ・デザインの事例

 加えて、若手・中堅社員の「キャリアの考え方」や「価値観」にフィットした動機づけも重要である。前半の調査でも、キャリアの考え方(目標指向型・現在起点型)や価値観(仕事重視・生活重視)で管理職志向に差が生まれていた。対話を通じてそれらを見極めながら、管理職で働くイメージを醸成する必要がある。小松氏は、以下のように象限ごとの管理職になりたい理由・なたりたくない理由と有効な対話例を挙げ、「どれが良い悪いではなく、多様な価値観が受容される現代では、個人の持つ考え方や合った動機付けが求められる」と語った。

■目標志向型×仕事重視
(管理職になりたい理由/なりたくない理由):成長や将来のステップ/目指す人が職場にいない
(対話例):成長意欲があるため、ロールモデルを示す

■目標志向型×生活重視:
(管理職になりたい理由/なりたくない理由):成長や将来のステップ/費用対効果
(対話例):費用対効果の面で安心材料となる情報を伝える

■現在起点型×仕事重視:
(管理職になりたい理由/なりたくない理由):成長や将来のステップ/(他と比べて特徴はなし)
(対話例):成長意欲があるため、意義ややりがいを示す

■現在起点型×生活重視:
(管理職になりたい理由/なりたくない理由):高い報酬/責任・プライベートとの両立・費用対効果
(対話例):具体的な働き方など安心材料となる情報を伝える

 最後に、成長を促す経験に必要な3つの要素についても触れられた。「Assessment(評価・測定)」、「Challenge(困難を伴う課題)」、「Support(支援)」であり、アメリカのリーダーシップ開発機関も、これらの要素があらゆる経験に寄与すると提唱している。

 Assessmentとは、個人が置かれている状況や現在の強み・弱み・能力などに関するデータを受けとれる機会。Challengeとは、個人が慣れ親しんだやり方や居心地の良い場所から一歩踏み出さざるを得ない課題。Supportとは、学習や成長のための努力が価値のあるものだというメッセージを得られることだ。

名古屋スバル自動車の女性中堅社員の管理職登用施策に3つの要素をデザインした事例

 最後に小松氏は、ここまでの予防策を取ることで、若手・中堅社員が仕事を広げながら、次のポジションへの準備ができ、キャリア発達の見通しもたって、結果、管理職が充足すると強調する。「個と組織を生かし、双方にとって前向きな経験創出と昇進・昇格・配置を叶えることが、中長期的には、個人のキャリアと組織の人的資本の活用の両方に効いてくる」と締めくくった。

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