管理職になりたがらず、優秀な社員ほど早く辞め、積極的に組織貢献をする社員も減っている――。昨今、こうした若手・中堅社員を取り巻く問題が積み重なり、管理職不足が深刻化しているという。
リクルートマネジメントソリューションズ(リクルートMS)は、「若手・中堅社員の管理職志向と離職」に関する説明会を実施。最新の調査・研究を基にした現状分析と、管理者不足の予防策について共有した。
リクルートMSの主任研究員である小松苑子氏は、「管理職不足の問題を解決するためには、“成長欲求のある社員の離職(リアルな退職)”や、“仕事を広げない中堅社員(静かな退職)”をいかに予防して、今の人材を活かし、管理職を充足させていくかを考える必要がある」と説明する。
「3年目」と「5~7年目」に離職意向が高まる理由
説明会の前半では、リクルートMSの主任研究員の内藤淳氏から、以下の3つの調査・研究を基に、若手・中堅社員の「管理職志向」や「離職」の現状について説明された。
・「若手・中堅社員の組織適応に関する現状把握調査」:入社1~12年目の2110名を対象に2025年2月実施
・「中堅社員の成長経験に関する実態調査」:入社5~19年目までの650名を対象に2024年3月実施
・「若年・中堅就業者の自発的な離職・離職意向に関する研究」:社会人1年目から8年目までの1108名を対象に2024年8月実施
リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 HR Analytics & Technology Lab 主任研究員 内藤淳氏 / 統括部HRDサービス推進部 トレーニングプログラム開発グループ 主任研究員 小松苑子氏
まずは、若手・中堅社員の「管理職志向」の現状だ。入社1年目から12年目の社員に「管理職を目指したいか」を尋ねたところ、「目指す気持ちがない」という社員が約65%と多数派となった。やはり管理職志向は高いとは言えず、調査では、高度な専門職を目指す「エキスパート職志向」や職務等級などのランクアップを目指す「昇級志向」と比べても低い傾向が見てとれた。
この管理職志向を年次別にみると、入社3年目から7年目にかけて低下してき、8年目以降から上昇しているという。
続いて、若手・中堅社員の「リアルな退職」に対する意識だ。
入社1年目から12年目の社員における離職意向は、「3年目」および「5年目から7年目」の2つの時期に高まっていることが明らかになった。この2つの時期に何が生じているのか。
直近の1年間における“成長につながった経験”の有無から分析すると、3年目は、「自身の企画・アイディアを提案・実行した経験」「大きな業績やプロジェクト成果の責任を負う経験」「チームやプロジェクトをマネジメントする経験」といった成長につながる経験が急拡大する時期だという。その逆で、5年目から7年目は、これらの経験が停滞する時期だ。
また、“自分起点”で仕事の範囲や役割、責任を広げる「拡張的ジョブクラフティング」の行動が、離職意向が高まる3年目、5年目から7年目において消極的になるという傾向も見られる。
これらの調査結果から入社3年目は、仕事の領域が急拡大して、「仕事についていくのに精一杯になりやすい」時期といえる。仕事の全体を見通せずに、自身でハンドルが握れず、様々な不満が高まり、結果、退職率も高くなると推測される。周囲から本格的な独り立ちを求められる時期でもあり、調査結果からは上司が意図して関わりを弱めている可能性も見られ、キャリアビジョンも描きづらくなる。
一方の5年目から7年目は、仕事の負荷は上がるものの、これまでのように仕事の領域は広がらず、「同じ仕事を繰り返していると感じやすい」時期となる。この時期に待っているだけでは成長機会は得られず、社内でキャリアの展望も抱けないという“停滞の壁”にぶつかり、離職意向が高まる。
こうした要因もあり、7年目までは管理職志向も下がり続けるが、8年目が転換点となる。この8年目は多くの企業で、係長などの準管理職的な立場への「昇格」を検討するタイミングとなり、「評価や昇進について周囲との差がつき始める」時期である。昇格者は明確な役割が与えられ、「この会社で上を目指そう」という気持ちが定まっていくことが、管理職志向が高まる理由だという。ただ、「その前に停滞期があるというのが非常にもったいない」と内藤氏。
もうひとつリアルな退職に関わるのが、若手・中堅社員の「キャリア意識」だ。入社5年目から19年目の社員に「キャリア開発のためであれば今の会社にこだわらない」か尋ねると、否定派(27%)と比べて肯定派(37%)の方が多くなっている。調査では特に、キャリア形成意欲が高く、職務遂行能力が高い層ほど、望むようなキャリア発達の見通しが持てずに転職していく。
時代の変化と「リアルな退職」「静かな退職」による負の連鎖
最後に、積極的に組織貢献をしない、つまり組織への適用が低い「静かな退職」についての社員の分析結果だ。
1年目から12年目の社員を、働く上で生活やプライベートを第一に考える「生活重視型」とやりがいさえあれば仕事に打ち込む「仕事重視型」に価値観で分類すると、生活重視型の組織への適用状況が軒並みが低くかったという。
さらにここに、キャリアの考え方の違いである、将来の目標をキャリア形成の軸とする「目標志向型」と今できること軸とする「現在起点型」を組み込むと、「現在起点型」×「生活重視型」が離職意向が高く、組織への適用状況も著しく低くなっている。
上述のような背景でリアルな退職が進行する一方で、離職しない中堅社員も、「生活を重視」し、「目指す将来像が描けない」場合に、ワークエンゲージメントが低い状態のまま仕事を広げず、静かな退職に陥っていく。
内藤氏は、「終身雇用制度の崩壊、人材の流動化、多様な働き方の浸透により、所属会社で昇進していくことがビジネスパーソンのロードマップではなくなった。そこに2つの退職『リアルな退職』と『静かな退職』が重なることで、管理職を担って欲しい社員が不足する」と考察する。
その結果企業は、管理職の兼務で対応したり、準備が不十分な状態で昇進させたりという“対処療法的な打ち手”を講じるが、管理職の負担が増え、「苦労している管理職になりたくない」と思う若手・中堅社員が増えていく。このような負の連鎖が、管理不足問題の構造だという。















