スーパーコンピューターを使いたくなるシーンが一発で描画されて感動
――『ツインズひなひま』の中でAIはどのように使っていますか?
飯塚:全体を作ったというよりも部分的に使ったというのが正しくて、サポーティブAIという概念に連動しています。作品の根幹であるキャラクターや脚本などはもちろん人が作っていますし、キャラクターも先に手描きやCGで8割方作っています。
小澤:通常のアニメ制作で3Dモデルを手描き風にする作業をAIでしているだけですね。キャラクターの動きは3Dソフトのほうで作っているのですが、そのままだとポリゴンキャラクターみたいになってしまうので、それをAIを使ってセルルックにしてます。3Dソフトを使っている人ならわかると思うのですがレンダリングするというのが近いかも知れません。
飯塚:背景もベースとなるものは人が作っていて、それをアニメ背景のように加工したり、クリーンアップする部分の効率化の目的でAIを使いました。
――効率化という視点ではAIを使うことで時間は短縮できましたか
飯塚:人の手でしていたこと、色を塗ったり、線をクリーンアップするという部分は助けられました。
小澤:監督としてはリテイクが出しやすくなっていると思います。納品後に変更になったりカットされることが多々あるのですが、AIを通せば比較的ギリギリまで詰めてクオリティーアップにつながります。
Ultra-noob:本作でも背景のやり直しが結構あったのですが、1日以内でできたのでかなり活用できたという実感があります。
飯塚:背景は1カットあたり30~40枚作ったので1000枚以上は作りました。普通のアニメではそういうことはできないです。あと、アニメーターが時間をかけて作ったものにリテイクは出しづらいし、時間も掛かるのですが、AIだとチェック側も、もう少しこうできないかと言いやすい。人が描くのではなく、パラメーターなどを調整してレンダリングするのでリテイクをかけやすいということはあります。
――AIによるアニメのクオリティーはどのように感じられていますか?
飯塚氏:僕らとしてはテレビアニメとして通用するレベルにできたと考えています。ただAIは構造物に弱くて、例えば背景にイスを置くと、穴の部分がぐにゃぐにゃになってしまったり、どこかが潰れてしまったりするので、人の手で補完する必要があります。最終的にはすべての要素で人の手を加えて、AIで厳しい部分を補いました。
――AIでなければ難しかったところはありますか?
飯塚氏:作品の終盤に巨大な丸い穴の内側に落ちる滝が出てくるのですが、手描きでは厳しいし、CGでコストが高くついてしまう。これまでの手法ではどの方法でも大変でしたがAIでは一発で出力できました。
小澤氏:あの滝はCGで作るとたぶん2ヵ月くらい掛かります。まず海を作って、監督のチェックを通す時間があり、その後中に落ちていくように作るのにまた数日時間が掛かる。それが今回きれいな滝にできました。
飯塚氏:CGプロデューサーとして海を担当した経験があるのですが、これが大変なんです。海面のシミュレーションの演算にとんでもなく時間が掛かるし、スーパーコンピューターを借りたくなるくらいの計算量です。それがポチっと一発で出てきたのは本当に感動しました。
――他にAIで作ったシーンでここがすごいというところはありますか?
Ultra-noob氏:ぜひ見ていただきたいのは髪がなびくシーンです。我々しかできないような秘密の隠し味の変換をしていて、手描きではたいへんだというシーンができています。あと靴やカップ。昔だったらべた塗りのところに細かいディテールになっていて、AIならではという感じになっています。
飯塚氏:作品全編通して、髪の毛の揺れはすごいです。普通は専属の人がいるくらいたいへんな作業ですが、CGで作ったモデルを元にAIが書き出すというアプローチがうまくいきました。
















