8割のユーザー企業でOSSの利用ポリシーが未整備
OSSは“無料の道具”ではなく“公共財” IPAが調査分析したガバナンスやコミュニティ参画の現状
2025年05月13日 07時00分更新
情報処理推進機構(IPA)は、2025年4月25日、オープンソース(OSS)の概況と今後の方向性を示すことを目的に、2024年度の「オープンソース推進レポート」を公開した。
・2024年度オープンソース推進レポート「日本におけるオープンソース戦略形成に向けた現状と展望」
https://www.ipa.go.jp/digital/kaihatsu/oss/report2024/index.html
IPAは、本レポートの公開にあたり、世界ではオープンソースが公共インフラの一部として制度化されているのに対して、「日本は『国家戦略』としての明確な枠組みは存在せず、民間・行政・コミュニティの間で役割と責任の所在が曖昧なまま、個別的な取り組みにとどまっている」と指摘する。
レポート内では、「2024年度ソフトウェア動向調査」のオープンソースに関する設問から、ガバナンスやコミュニティ参画などの現状を紹介している。同調査は、ソフトウェアやシステム開発に携わる情報システム部門の意思決定層を対象に、2024年12月から2025年2月にかけて実施。対象の799社のうち、ユーザー企業が82.8%を占めている。
まず、OSSに関する「ポリシーの制定」の現状についてだ。調査において、「OSSの利用」にポリシーを設けているベンダー企業は約半数に達した。一方、ユーザー企業では「利用ポリシーが存在しない」「わからない」が合わせて8割を超えている。
ベンダー側ではポリシーの必要性が浸透し、ユーザー企業ではその逆という構図は、コミティティへの情報やコードの提供、自社のOSS公開におけるポリシー制定においても同様であった。IPAは、「今後、発注側がOSSに意識的に取り組めるかどうかはひとつのポイントになる」と指摘する。
続いては、「OSPO」の設置状況だ。OSPOとは、オープンソースの管理や戦略策定などを担う部署(オープンソースプログラムオフィス)を指す。
調査では、OSPOを設置している企業はわずか2%にとどまり、検討中の企業も1.1%という結果だった。IPAでは、OSPOと呼ばないまでも、OSSのイニシアチブを持つ組織が様々なレベルで存在するため、「何をもってOSPOと捉えるか」が曖昧になっている可能性があるとしつつ、その認知や理解について詳細な調査が必要と分析している。
自社で開発したソフトウェアのオープンソース化の状況は、「積極的に/一部オープンソース化している」と回答したベンダーが約2割で、今後の拡大が期待される状況だ。一方のユーザー企業は、大多数がオープンソース化に取り組んでいないという結果になった。
OSSコミュニティへの参画状況は、会社としてOSSのプロジェクトに参画したり、貢献活動をしたりする企業は、全体でわずか2.6%にとどまった。OSSにコミットする取り組みは、ここでも少数であり、「OSSコミュニティへの貢献が個人の趣味的活動の範疇になりがちなのは既知の課題」と、IPAは述べる。
最後に、OSS利用時の課題だ。ベンダー、ユーザー企業共に、「メンテナンスや運用に不安がある」「会社にルールやポリシーが存在しない」「商用サポートがない」といった“理解不足からくる不安”が上位に並んだ。
今回の調査結果からは、多くの企業がオープンソースを活用する一方で、ガバナンス面が未整備である現状が浮き彫りになっている。IPAでは、OSPOや利用ポリシー整備の遅れ/認知不足は、「オープンソースコミュニティとの連携を遠ざけ、結果として技術力や開発スピードの停滞を招く可能性がある」と指摘。企業の体制構築を後押しするためには、行政機関がポリシー制定のガイドラインを整備することや、OSPO設置を支援するための事例紹介・ツール提供をすることが有効と述べている。
また、本レポートでは、上記調査結果の他にも、オープンソースエコシステムの課題や世界のOSSに関する政策、日本が取り組むべき推進策についてもまとめている。IPAは、オープンソースを「公共財」として捉え、「技術的主権の確保と共創社会の実現に向けた国家的戦略」を構築すべきと提言。「OSSは“無料の道具”ではなく、私たち全員が担い手となるべき、“社会的な資産”である」と強調している。
