桂文枝にGeminiが弟子入りした「桂文Gemi」プロジェクトの裏側も
吉本興業はエンタメに生成AIどう活用している? 日本の笑いを“リアルタイム通訳”する未来
2025年05月09日 14時00分更新
「落語×AI」の新たなエンタメ創出の舞台裏
セッションの後半には、「桂文Gemiプロジェクト」の舞台裏についても語られた。6代目 桂文枝さんが、自身の創作落語を学習したGeminiを弟子にとり、二人三脚で落語を創出するというプロジェクトだ。約2か月の準備期間を得て、2024年10月のGoogleイベントで完成した落語が披露された。
今回のプロジェクトで、Google Cloudは、文枝師匠がGeminiと落語を創るための基盤作りを担当。FANYは、それ以外の演出や進行といった、いかに良い高座ができるかをプロデュースした。
Google Researchでパートナーシップを担当する加山博規氏は、「我々のポリシーは、AIは人間のやっていることを置き換えるものではなく、人のやることを後押しするもの。今回も文枝師匠が新しいお笑いを生み出せるようにGeminiを整えた」と説明。
FANYのプラットフォーム事業部 プロデューサーである田中爽太氏は、「AIと伝統的な落語が交わる、シンプルにキャッチーな取り組み。社内でも生成AIがなかなか広がっていない。それを、お笑いのトップである文枝師匠が挑戦することで、社外はもちろん、意外にも社内でも大きな反響があった。文枝師匠が、落語を広げようと注力してきたことが、メッセージとして現れた」と語る。
お笑いとテクノロジーの専門家によるコラボレーションで実現した本プロジェクト。文枝師匠が「どんなことを話せば、人は笑うと思いますか?」と質問し、Geminiが「その人の性格、年齢、状況、文化的な背景などによって大きく異なります。周りの人を笑わせるために、自分自身も楽しみながら、ユーモアを磨いていきましょう」と回答するところから始まった。これに文枝さんは、「そんなことは前からわかってる」と言い返したという。
こうして、文枝師匠が「桂文Gemi(かつらぶんじぇみ)」と名付けたAI弟子と、対話を繰り返しながら、落語を創作していく。仕組みとしては、RAGは用いずに、文枝師匠の過去の高座などを学習させ、後はプロンプトを工夫することで桂文Gemiを生み出した。文枝師匠が楽しみながら落語を創れるような弟子の設定を作り込んだという。
ただ、すんなりと新作落語は生まれず、途中でテーマ選定からやり直す事態に陥ったという。前に進むきっかけをつくったのもGeminiだった。当日は各界のリーダーが参加することから、Geminiが「リーダーシップ」を落語の軸に据えたらどうかと提案。今までにない落語になると、そこからどんどん話が膨らんでいった。
Googleの加山氏は、「特に刺激的だと感じたのは、文枝師匠が落語を創る時にどういうことをやって、どういうことをお弟子さんに頼まれているかがクリアになり、そこでAIが何を支援できるかがをGeminiと対話しながら定義づけられたこと」と振り返る。
FANYの田中氏は、「我々はエンタメ企業であるため、エンジニアの皆さんと比べてAIを活かしきれていない部分がある。桂文Gemiのように盛り上げることはできるので、今後も、やりましょうと言ってくれる企業とコラボレーションしていきたい」と呼びかけた。














