遠藤諭のプログラミング+日記 第185回
「AI」を使い尽くせ!――電子回路であれインターネット回線であれ使い尽くした者が勝者となった
DeepSeekショックと中国ITの歴史が教えるAIの未来
2025年04月29日 09時00分更新
2025年の現在、日本はAI分野で何ができるのだろうか?
2回にわたる記事の最後は、"サッポロバレー"の育ての親として知られる北海道大学の青木由直教授の『中国パソコンの旅』という本について触れていた。
「『中国パソコンの旅』(エム・アイ・エー刊)は、当時の各地のパソコンの現場を訪ねた貴重なレポートだ。そこには、国家的にコンピュータ教育にかなりの投資が行われていると記されている。あらためて見返すと、この14年前の本の表紙には《電脳大国を目指す中国の素顔》という言葉が踊っていた」。
"14年前"というのは、『中国パソコンの旅』が刊行された1987年のことだ。中国が、いまから約40年も前に「電脳大国」を目指していたとは驚きである。青木氏によると中国には"百年樹人"という言葉があるそうだ。これは「十年樹木、百年樹人」という諺の一部で、木を育てるには10年、人を育てるには100年かかるという意味である。つまり、腰を据えて人材育成に取り組もうという考え方なのだ。
つまるところ、その「人」こそが、現代の中国IT分野を支える礎となっている。今回のセミナー「生成AI革命4―中国発AIがもたらすパラダイムシフトの可能性」で高口氏が語られた内容からも、まさにそのことを実感した。冒頭で「印象的だったのは《中国発AIの躍進を支えているのは"人"である》ということだ」と述べたとおりである。
それでは、2025年の現在、日本はAI分野で何ができるのだろうか?
エンジニアや研究者の数が大きな要素となるため、米国と中国が当面はAI分野を牽引していくだろう。しかし、AI開発は転換点を迎えていると指摘されている。モデルを提供することが、ビジネスで優位に立つための絶対条件とは言い切れない。日本をはじめ、北欧・東欧のゲームスタジオのような企業にもチャンスがあるのではないだろうか。AIはゲーム的なサービスコンテンツとしての性質を持っていたりするからだ。
日本におけるAI分野のこれからについて考えるとき、人材が「適切」に育成され、企業が「よい環境」で事業展開できるかどうかが、大きな分かれ道となるだろう。
しかし、2001年の記事では、人々がコンピューターやネットに熱中していった様子にも注目すべきではないだろうか。中国のエレクトロニクスの大躍進は、そうした社会全体からの後押しなしには実現し得なかった。それがあってはじめて、聯想などの企業が育ったのだ。つまり、人々やAI以外の分野の企業が、AIを使い尽くすことが重要なのである。
学問、芸術、エンタメ、生活、社会など、あらゆる分野においてAIを活用する。もちろん、そのためにはクリアすべき条件がいくつもあるだろう。しかし、日本の産業は、1980年前後に家電やAV機器にICやマイコンを組み込みまくることをやったことがある。その結果として日本は「電子立国」となったのだ。この分野では、電子回路であれインターネット回線であれ、それらを使い尽くした者が勝者となってきたのである。AIも同じはずである。
遠藤諭(えんどうさとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員。MITテクノロジーレビュー日本版 アドバイザー。ZEN大学 客員教授。ZEN大学 コンテンツ産業史アーカイブ研究センター研究員。プログラマを経て1985年に株式会社アスキー入社。月刊アスキー編集長、株式会社アスキー取締役などを経て、2013年より現職。趣味は、カレーと錯視と文具作り。2018、2019年に日本基礎心理学会の「錯視・錯聴コンテスト」で2年連続入賞。その錯視を利用したアニメーションフローティングペンを作っている。著書に、『計算機屋かく戦えり』(アスキー)、『頭のいい人が変えた10の世界 NHK ITホワイトボックス』(共著、講談社)など。
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