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“体験”に特化した「Experience Agent」の狙い、エージェント間連携を目指す取り組みの理由

LangChain提携は“マルチAIエージェント時代”への布石、Qualtrics AI担当幹部が語る

2025年04月07日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 Qualtrics(クアルトリクス)が2025年3月下旬、米国で年次カンファレンス「X4: The Experience Management Summit 2025」を開催した。

 今年の同イベントで発表したのは「Experience Agent」。大手ITベンダーがこぞってAIエージェントの新機能を発表する中では“予想どおり”とも言えるが、「他社とは根本的に異なるアプローチをとっている」という。さらに、生成AIアプリの開発フレームワークであるLangChainと提携し、オープンなAIエージェントシステムを推進することも明らかにした。

 Qualtricsは、Experience AgentやLangChain提携で何を実現しようとしているのか。QualtricsでAIの取り組みを率いる、AI担当プレジデントのガーディープ・ポール氏に話を聞いた。

Qualtrics AI担当プレジデントのガーディープ・ポール(Gurdeep Pall)氏

Experience Agent:顧客や従業員の「体験」に特化したAIエージェント

――あなたがQualtrics初の“AI戦略プレジデント”として加わってから、もうすぐ1年になります。これまでの取り組みを振り返っていただけますか?

ポール氏:この11カ月間、世界で起きている(AIに関する)急速な変化も考慮しながら、どのようにして自分が持つ業界知識をQualtricsで役立てるか、そしてQualtricsのミッションに忠実な製品をどうやって作り出すかを課題にしてきました。外の世界で何が起きているのかをしっかりと追いながら、Qualtricsが取るべき自然なステップを見つける――。このことにフォーカスしてきました。

 その成果が、今回のイベントで発表したExperience Agentです。昨年発表した「Qualtrics Assist」から、戦略を大きく進めたかたちとなります。

――Experience Agentはどんなものなのでしょうか。

ポール氏:Experience Agentは、顧客や従業員に素晴らしい体験を提供することを支援する、「体験(experience)」に特化したAIエージェントのセットです。

 顧客体験の改善を例に挙げましょう。顧客にサービスへの評価(フィードバック)をお願いするオンラインアンケートはよく提供されていますが、通常、そのフィードバックは集計や分析などを経て、後から改善の取り組みに活用されます。たとえ顧客が入力した評価が悪くても、その場では何も改善されません。

 一方でExperience Agentは、顧客がフィードバックを記入している間に何か問題があると分かると、その場で顧客に対して改善策の提案が可能なのです。これにより(他社のAIエージェントのように)タスクを自動化するだけでなく、顧客との信頼を構築し、関係を深めていくループを完成させて、人間の体験を向上させます。

 この例のように、Experience Agentは、顧客や従業員の意見を聞く、理解する、(問題解決を)支援する、行動する、パーソナライズする、ビジネスを最適化するといった能力を持ちます。導入企業は、これらの機能から必要なものを選んで使うことができます。

Experience Agentは「トランザクションを処理するだけでなく関係を構築する」「データを分析するだけでなく影響をもたらすアクションを実行する」「インサイトを提供するだけでなくあらゆる対応に信頼感を持たせる」(画像は公式ブログより

LangChainとの提携は「他社とは異なるアプローチ」の実践のひとつ

――今回はExperience Agentとともに、LangChainとの提携も発表しました。この提携の狙いや意義を教えてください。

ポール氏:ひと言で表現するならば「マルチAIエージェント時代に向けた、Qualtricsならではのアクション」ということになります。

 これまでの市場の動きを見てみましょう。AIエージェントがトレンドになっていますが、(他社が提示するAIエージェントの)ほとんどが生成AIを使い、それに十分な推論能力を持たせ、(自律的に)行動できるようにするというアプローチです。実際、そのアプローチで、経費の申請と承認、チケットの処理など、多くのタスクが解決(自動処理)できます。

 さらに(ほかの)大手ITベンダーは、自社のプラットフォームでAIエージェントを構築するようメッセージを打ち出しています。ある種のベンダーロックインを進めようとしていると言ってもよいはずです。

 こうした動きに対して、Qualtricsはいくつかの点で異なるアプローチを取っています。

 1つ目は、目的とするものが「トランザクション」か「体験」かの違いです。たとえば、フロントオフィス業務を行う“顧客対応AIエージェント”を構築すると仮定しましょう。Qualtricsは、Experience Agentを通じて「顧客がどのような『体験』をするのか」までを考えます。そのためエージェントは、顧客が何かにつまづいていて、支援を求めているときにも行動できます。

 こうしたアプローチは、(顧客対応をトランザクションととらえるような)他社のAIエージェントに欠けている視点です。Qualtricsのように、顧客体験を得意とし、それを理解できるデータや経験を持つベンダーはごくわずかしかいません。

――なるほど。もうひとつはなんですか。

ポール氏:Qualtricsでは、マルチAIエージェントのスタックで「特定のレイヤー」にフォーカスしています。これが2つめの特徴です。

 AIエージェントのアーキテクチャは今後、モノリシックなAIエージェントからマルチAIエージェントに移行すると考えています。1つのAIエージェントアプリケーションでも、その内部では複数の特化型AIエージェントが協調して動作する、そういうアーキテクチャです。ECサイトを例にとると、決済エージェント、在庫管理エージェント、レコメンドエージェント、パーソナライズエージェント――といった、異なる役割を担うエージェントどうしが協調しあうイメージですね。

 そうしたマルチAIエージェントの世界で、QualtricsのExperience Agentは、顧客対応の「体験」部分を担います。そのためには(ほかの機能を提供するAIエージェントと)ゆるやかに連携した、オープンな世界を目指すべきです。

 そこでLangChainと提携し、共同でこのオープンな世界を作りだしていきます。具体的には、Qualtrics自身がオープンソースのアプローチをとるということ(Agent ExperienceはLangGraphを使用している)、そして共同で(オープンな)エージェントプロトコルの開発と普及を進めていくこと、この2つが提携の骨子です。

 最終的に目指すものは、一度構築したエージェントは、マルチエージェントの世界でどんな相手(エージェント)とも連携できるような世界です。実際、顧客企業は(Salesforceの)Agentforceを使って構築したエージェントアプリに、われわれのExperience Agentを連携させたいと考えています。(われわれベンダーは)こうしたことが効果的にできるようにしなければなりません。

 Qualtricsは、今後ほかの大手ベンダーにも参加を呼びかけ、オープンな世界を目指して進化させていきたいと考えています。SaaSプレイヤーはもちろん、IaaSプレイヤーなど立場が異なる企業とも議論を進めていきます。

――なぜLangChainと組むことを選んだのでしょうか?

ポール氏:LangChainはエージェントのオーケストレーションフレームワーク「LangGraph」、LLMアプリケーション開発支援の「LangSmith」などの技術を持ち、市場でも牽引力のあるオープンなプラットフォームです。GitHubでは10万以上のスターがついており、コミュニティはとても活発です。われわれのようにLangGraphを使用している企業、使用を検討している企業も多いと見ています。

 理由をもうひとつ挙げるとすれば、われわれはAWS(Amazon Web Services)を多く活用しており、LangChainはAWSで利用できるという点もあります。

 なお、LangChainはCisco(シスコ)などと共に(AIエージェント同士の連携を目指す)「AGNTCY」という取り組みも進めています。われわれもLangChainから、それがどのような取り組みなのかの情報をもらっているところです。

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