液晶パネルのクリーンルームを流用した
生産開始から5周年を迎えたシャープ製マスクの歴史を振り返ってみよう。
シャープ製マスクは、2020年初頭の新型コロナウイルスの感染拡大に伴って発生したマスクの供給不足のなかで、異業種である電機大手の新たな取り組みとして、社会的にも大きな注目を集めたものだった。
2020年2月中旬に、日本政府からの生産要請を受けたシャープは、2月28日に不織布マスクの生産を行うことを決定。生産設備を導入し、液晶パネルの生産を行っていた三重工場内のクリーンルームで生産。チリやホコリなどが極端に少ない清潔な環境で、3月24日から生産を開始した。
まずは、3月31日から日本政府向けに出荷を開始し、生産体制を整えた4月21日午前10時から、同社ECサイト「COCORO STORE」を通じて、マスクの一般販売を開始することにした。
風が吹けば桶屋が儲かる、ではマスクが売れたらシャープはどうなる?
だが、このとき、シャープ製マスクへの注目ぶりを示す象徴的な出来事が起きた。
販売方法を先着順としたことや、申し込み時にはCOCORO MEMBERSへの事前登録が必要だったため、販売サイトや登録サイトにアクセスが集中。つながらない状況が終日続き、この日は誰一人として購入できない状況になってしまったのだ。
さらに、これを自社データセンターで運用していたため、同一プラットフォームで運用していた同社サイトの閲覧や、各種クラウドサービスにも影響が波及。シャープのAIoT家電の一部製品では、クラウドサービスが利用できなくなるといった事態に陥った。
シャープでは、販売の延期を決定。販売方法を週1回の抽選方式に変更したり、体制や技術面からの見直しに着手したりといった対策を行い、4月27日午前0時から、改めて受け付けを開始した。第1回目の締め切りとなった同日23時59分までの応募人数は470万6385人に達した。
4月28日に抽選結果を発表。当初は、マスク50枚入りを3万箱用意するとしていたが、増産を行って4万箱を用意。それでも当選倍率は約118倍と驚くべき水準となった。その後も増産を進めたが、当選倍率が100倍を切ったのは、11回目となった7月8日の抽選販売のときであり、それ以降もしばらくは高い水準で倍率が推移していった。
現在も累計5億枚に迫る出荷数に伸び続けていた
2020年9月23日には、女性や子供に最適な小さめサイズを追加。2020年12月1日には、毎月自宅にマスクが届く「マスク定期便サービス」も開始している。
2020年11月6日には累計生産枚数が1億枚に到達し、さらに、2021年3月25日には累計生産枚数が2億枚に到達した。
2021年6月2日には抗菌タイプを新たにラインアップに加えたほか、9月8日には立体形状の「クリスタルマスク」を発売し、2022年12月19日には同製品に新色追加。2023年5月15日には同製品にバイカラーモデルを追加した。
2024年7月22日には、「COCORO STORE」への不正アクセスによる改ざん事象が検知されたことで、同サイトでの販売を全面的に停止。マスクの抽選販売も7月17日を最後に停止した。11月13日には、同サイトを再開する一方で、それにあわせて、11月15日にはマスクの抽選販売を終了することを発表。現在では、すべてのシャープ製マスクが同サイトで自由に購入できるようになっている。
累計出荷枚数は2022年1月に3億枚を達成。2023年5月には4億枚を達成しており、現時点では、約4億8000万枚の出荷実績に達している。
シャープ製マスクは、生産開始から5年を経過しても、引き続き生産を続けており、いまの根強いファンに支えられている。

















