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“マッキー”のゼブラが「デジタル仮想空間にカク技術」を発表! MRヘッドセットで体験した

2025年02月20日 12時00分更新

文● 山本 敦 編集●ASCII

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 日本の筆記具メーカーの「ゼブラ」が、専用デジタルペンを使って仮想空間に文字やイラストを書いたり、描いたイラストからAIを使って、立体オブジェクトやビデオを生成する技術などをまとめた独自のプラットフォーム「kaku lab.(カクラボ)」を発表しました。2月20日からビジネスパートナーを募ります。筆者もゼブラ本社で“空中に絵を描く体験”に触れてきましたのでレポートします。

ゼブラ

筆記具メーカーのゼブラが仮想空間に「カク」体験を、生成AIの技術とまとめてプラットフォーム化した「kaku lab.(カクラボ)」を発表しました。

カク体験を先進のデジタル技術と組み合わせて変える

 ゼブラホールディングス(以下、ゼブラ)は1897年に創業した老舗の筆記具メーカーです。油性マーカーの「ハイマッキー」や、ボールペンとシャープペンを組み合わせた「シャーボ」に代表される、同社の筆記具は多くの日本人にとってなじみ深いと思います。

 同社は創業から128年間に渡り「カク(書く)をエンタテインメントにする」という企業理念を掲げながら、書くことを革新するため、新しいデジタル技術を同社の製品とサービスに採り入れることにも力を入れてきました。

 社内に起ち上がった新規研究開発室では、今日まで約3年をかけて「カクラボ」を構想段階から形にしてきました。カクラボに関連するデジタル文具やソフトウェアの開発には、協力企業としてNTマイクロシステムズとインタラクティブラボラトリーも参加しています。

ゼブラ

カクラボは仮想空間の中でイラストを書いたり、立体デザインができるデジタルプラットフォームです

 カクラボは「カクを拡張する新しい手書き体験」をキーワードに掲げるプラットフォームです。今回の発表時点ではBtoBtoC向けの技術を公開しました。今後はカクラボに興味を持ったパートナー企業にSDK(開発キット)を提供する準備に入ります。その後、順次コンシューマーが関連する製品やサービスを体験できる段階に進むことが期待されています。

紙とデジタル空間にも書ける「T-Pen」を開発

 ゼブラの新規研究開発室 室長である岩間卓吾氏は「昨今は『カク』機会そのものが減少している。ゼブラは筆記具メーカーとして、カクという行為は創造性を育むという信念から、カクラボを通じてカクことの楽しさをあらためて多くの人々に訴えかけたい」と語気を強めます。

 同社はカクラボを「リアルタイム3D visual 生成プラットフォーム」と呼んでいます。書く行為を起点として、仮想空間技術や生成AIを活用しながらユーザーが創造性を育み、学びを得たり、あるいはビジネスに役立てられるプラットフォームを構築することが当面の目標地点になります。

 ゼブラ独自のプラットフォームには3つの要素技術があります。

 1つは「カク」ために独自のツールを開発しました。ゼブラが得意とする筆記具をベースに、紙にも、仮想空間にも書ける新しい筆記具「T-Pen」です。

ゼブラ

ゼブラが筆記具メーカーとしての知見を活かして開発した「T-Pen」

 後述する仮想空間のキャンパスにデジタルデータを「カク」ため、T-Penには複数の加速度・ジャイロ・コンパスにより構成する9軸センサーや、筆圧を検知するセンサーなどを内蔵しています。

 T-Penをパソコン、モバイル端末、MR/VRヘッドセットなどにBluetoothで接続し、デバイス上に再現されるデジタル空間にカクことができます。ボールペン、またはシャープペンとして紙に書こともできます。

 本体の長さは146mm、質量は19.6g。USB充電対応のバッテリーを搭載していながら、筆記具とほぼ変わらない軽さとホールド感を実現することに、T-Penの開発チームは腐心してきたそうです。筆者も実物を手に持ってみましたが、軽さだけでなくペンとしての質感が高く、デザインも魅力的でした。

ゼブラ

シャープペンとして紙に書くこともできます

MRヘッドセットで没入する仮想空間キャンパス

 2つめの基幹テクノロジーは、T-Penでカクためのキャンパスをつくる仮想空間コンピューティング技術「kakuXR」です。さらに3つめとして、空間に書いた文字やラフスケッチから美しいイラストや動画、3Dオブジェクトを生成するAIエンジンの「kakuAI」があります。

ゼブラ

仮想空間のキャンパスに書いた絵を、生成AIで立体オブジェに変換する機能を実現します

 それぞれの技術は2月20日の発表時点ではまだ開発途中です。kakuXRのアプリケーションを提供する既存のXR/VRプラットフォームと、そのデバイスはまだ決まっていません。kakuAIも複数の生成AIモデルの組み合わせにより、画像を生成するだけでなく、将来はテキストや音声など異なるモダリティを扱えるエンジンになることを発表しましたが、現時点ではベースになるAIモデルやLLMを定義していません。ゼブラの岩間氏は、今回の技術発表から得られた反響を見ながら検討を深める方針を示しています。

 筆者は都内のゼブラ本社でカクラボを試遊しました。今回用意されたデモンストレーション環境ではXRデバイスにMeta Quest 3を使いました。T-Penで描いたラフスケッチを立体オブジェクトに変換するまでの創作を体験しましたが、今回のデモにはStable Diffusionなど複数の生成AIモデルを組み合わせた生成AIプラットフォームが用意されていました。

ゼブラ

Meta Quest 3とT-Penの組み合わせでカクラボのデモンストレーションを体験しました

ゼブラ

ペンの種類や色の切り替え操作のために左手のジェスチャーも使います

 右手にT-Penを持ちながら、左手によるハンドジェスチャーを組み合わせてkakuXRの空間にイラストを描きます。ペンの色や太さなど筆記具のセッティングは、同じ画面の中に浮かぶタブレット型のコントロールパネルに触れながら直感的に選択操作ができます。コントロールパネルから3D生成を選択すると、約数十秒でラフスケッチが立体化されました。

 今回のデモではT-Penとヘッドセットを、kakuXRのソフトウェアを走らせているパソコンに接続した環境で体験したため、ペン先が遅延するなどの課題はまだありましたが、これから楽しい体験が生まれる可能性は十分に感じられました。

ゼブラ

kakuXRの空間を無限のキャンパスに見立てて、T-Penで文字やイラストを描き込みます

ゼブラ

ヘッドセットの専用リモコンではなく「ペンでカク」感覚がとても心地よく新鮮でした

“ゼブラらしさ”を追求してほしい

 ゼブラでは「カク」という体験を起点にして、仮想空間の中で「AI家庭教師」に勉強を教えてもらったり、サウンドやビデオをミックスした創作環境なども提案できるとしています。T-Penには筆圧を感知するセンサも搭載しているので、たとえばkakuXR空間を通して身体や脳の健康状態を遠隔計測する医療サービスにも発展できる可能性があります。

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カクラボの中でユーザーをヘルプしてくれるエージェント「マッキー君」を開発中

 ゼブラは筆記具メーカーとして、これまでにもデジタルペンの未来に向けた可能性をあらゆる形で模索してきました。そのひとつはデジタルペンで書く行為を脳科学分野の知見と結び付ける研究でした。字の書き方で脳の健康状態を把握したり、認知症の克服、記憶の定着率向上など様々な視点から10年間に渡る研究開発を独自に進めてきたそうです。岩間氏も「あらゆる筆記具を開発してきたゼブラが強みが活かせる領域のひとつにしたい」と語っています。

 XR/VRヘッドセットを使ってデジタル空間に「書く体験」を実現しているアプリやサービスはすでにあります。先行するライバルと相対して、ゼブラがカクラボを成功させるためには独自の強み際立たせることが必要です。ゲームに使うことを想定したヘッドセットの専用リモコン、あるいはハンドジェスチャーだけで空間に書くよりも、ゼブラのT-Penは仮想空間と紙にカク体験の距離を縮めてくれる親しみやすさが感じられるデバイスです。

ゼブラ

 仮想空間のキャンパスにとても緻密な線で絵を描いたり、毛筆によるリアルな書道が楽しめたり、何より「カク」ことの解像度と自然な筆記感を一点突破で追求すれば、カクラボがとてもユニークなプラットフォームになると筆者は思います。

筆者紹介――山本 敦
 オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。

 

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