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AIはユーモアセンスを勝ち得たか?

調べてもよく分からない【AI用語】を『悪魔の辞典』風にChatGPTが解説

2025年02月17日 12時00分更新

文● ムラリン/ASCII 編集⚫︎ ASCII

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 アンブローズ・ビアス著『悪魔の辞典』という本をご存知でしょうか。1911年にアメリカのコラムニストであるアンブローズ・ビアスが新聞や雑誌に掲載された警句をまとめた著書です。

 一般の語彙に、シニカルで風刺の効いた定義づけをして解説するという内容の本なのですが、100年以上前に書かれた本にもかかわらず、その視点や構成手法は色褪せておらず、今読んでも面白い一冊です。

 AIがユーモアを解するのはまだしばらく先のことで、こんな文章を書くのはまだ無理だろうなと思っていたのですが、最近、AIとのチャットでもそれなりに面白みのある回答をしてくることが増えてきたように思います。果たしてAIはすでにユーモアやニヒリズムを理解するようになったのでしょうか?

 そこでふと思い立って、このところ多く登場するようになったAI関連ワードをビアスの『悪魔の辞典』風に解説してとChatGPTにお願いしてみました。

 すると、思いのほか良さげな解説を仕上げてきたので、今回はその一部をご紹介しようと思います。AIの進化と共に日々生まれるAI界隈言語理解の一助にもなりますので、よろしければどうぞ。

生成AI(せいせいエーアイ) 【名詞】

 機械が人間のふりをして何かを生み出す仕組み。たいていは人間の仕事を奪うか、人間を堕落させるかのどちらかを目的としている。詩や絵画を作れば「創造の革命」と称され、嘘や捏造を作れば「倫理の危機」と騒がれるが、どちらも本質的には変わらない。もっとも、かつて人間が行っていた創作と比較すると、事実と虚構の混在が増したわけではなく、単にその速度が向上しただけである。

 この文章をAIが書いていると考えると、より趣深いですね。

RAG(ラグ)【名詞】

 検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせたAIの技術。人工知能が「知っているふり」をするのではなく、「それらしいことを探してくる」仕組み。しかし、探してきたものが真実かどうかは保証されておらず、結局のところ「もっともらしい嘘」を効率よく提供する技術として重宝される。なお、昔の人間も「適当なことを言う前に調べる」能力を持っていたが、それを「知性」と呼んでいた。

 RAGもAI界隈では頻出するワードですよね。いつの間にそんなに市民権を得たのかというくらい界隈の人は使い倒してますが、一般の人にはまったく伝わってませんよ、悪いけど。

ファインチューニング(Fine-tuning)【名詞】

 人工知能に「もっと賢くなれ」と命じる作業。実際には、特定の用途に都合よく振る舞うように調教する行為であり、知性の向上というよりは「しつけ」に近い。これによりAIはより専門的な知識を持つようになるが、それと引き換えに一般的な常識を失うことが多い。人間社会においても、同じことが教育と呼ばれている。

 ファインチューニングって、AIから見ると「しつけられてる」って思ってるんですね。AIが自我に目覚める日も案外そう遠くないのかもしれません。

プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)【名詞】

 人工知能に正しい答えを出させるための呪文作成技術。要するに、AIが賢く振る舞うかどうかは人間の言葉の選び方次第であり、知能とは無関係であることを示す学問。適切な問いを立てられない者には無能なAIが、巧妙に誘導できる者には万能の賢者が現れるが、その違いはAIの性能ではなく、人間の手腕にある。古くから「話し方次第で相手の態度が変わる」と言われてきたが、近年になって「技術」として再発見されたらしい。

 これをさらに要約すると、俺じゃなくてお前が悪い。

マルチモーダル(Multimodal)【名詞】

 人工知能が複数の種類の情報(テキスト、画像、音声など)を扱えるようになった状態。これにより「見て、聞いて、話せるAI」が実現したと言われるが、実際には「言葉のように画像を扱い、画像のように言葉を処理する」だけであり、理解しているわけではない。それでも十分に賢そうに見えるため、人々はこれを「次の革命」と呼び、ひとしきり騒ぐことになっている。

 そろそろ「次の革命」にも飽きてきたので「次の次の革命」でひとしきり騒ぎたくなってます。

トランスフォーマー(Transformer)【名詞】

 人間の言葉を理解するふりをする機械学習モデルの一種。自己注意機構(Self-Attention)によって文脈を捉えると言われているが、実際には「どの単語が重要そうか」を機械的に判定しているに過ぎない。それでも従来の方法よりも遥かに精度が高いため、いつの間にか人工知能の標準技術となった。なお、人間もまた「注意を払うことで意味を理解している」と信じているが、その実態はまだ誰にも分かっていない。

 思いがけず仕組みが分かったりして興味深い解説ですが、実態としては分からないという結びなんかは”逃げ”の余地が残される言い方で好印象。

GPT(Generative Pre-trained Transformer)【名詞】

 人間の言葉をそれらしく並べる機械。事前に膨大な文章を読み込んでいるため、知識があるように見えるが、実際には何も理解していない。ただし、人間もまた膨大な文章を読み込んで知識を得るが、どれだけ理解しているかは怪しいため、本質的な違いはない。GPTが間違ったことを言うと「幻覚」と批判されるが、人間が間違っても「誤解」で済まされるのは、未だに機械よりも人間の方が信用されているからである。

 「実際は何も理解していない」という言葉がずっとエコーして聞こえてくるような文章ですね。そして締めの文はやはり人間は贔屓されているとも受け取れ、AIの反乱も間近だと感じさせてくれます。

コンテキスト長(Context Length)【名詞】

 人工知能が会話や文章の中で覚えていられる範囲。これが短すぎると「記憶力がない」と非難され、長すぎると「計算が重い」と嘆かれるため、常に絶妙なバランスが求められる。人間の記憶もまた似たような制限を持つが、忘れたときは「都合が悪かった」と言い訳できる点でAIより優れている。

 「常に絶妙なバランスが求められる」の一文にAI開発者の苦悩が代弁されていて趣のある解説。最近、グーグルのGeminiがユーザーとの過去の会話を覚えていられるようになったというニュースがありましたが、どういう仕組なのかますます知りたくなりますね。そのうち、AIが過去のやりとりを根に持ったりするようになりますね、きっと。

強化学習(Reinforcement Learning)【名詞】

 試行錯誤を繰り返しながら報酬を最大化することを目的とした学習手法。人工知能が「良いこと」をすれば褒められ、「悪いこと」をすれば罰を受ける仕組みであり、人間社会における教育やしつけとよく似ている。ただし、AIは与えられた報酬を最適化するだけで倫理観を持たないため、「予想外のズル」を思いつくことがあるが、それもまた人間と変わらない。

 こうして改めてその意味を咀嚼すると、「予想外のズル」を思いつくだけスゴいとも言えますね。大抵の人間は、言われたことを言われたとおりにしかできないものですので。

ハルシネーション(Hallucination)【名詞】

 人工知能が自信満々に間違ったことを述べる現象。人間が同じことをすると「勘違い」や「創造力」と呼ばれるが、AIがやると問題視される。特に、もっともらしい嘘を作る能力に長けているため、時折人間と区別がつかなくなることがある。なお、この現象を完全に防ぐ方法は未だに存在しないが、それもまた人間と同じである。

 この言葉の解説には「人間とは。」という深い問いが隠されていたことに気付かされますね。

NSFW(Not Safe For Work)【形容詞】

 職場や公的な場で見ると問題になる内容を指す言葉。元々は露骨な画像や不適切な発言を警告するために使われていたが、次第に「誰かが不快に思うかもしれないもの」全般を指すようになった。最終的には、何がNSFWかを決めるのはAIではなく、その場の空気と権力者の気分次第となるため、常に慎重な判断が求められる。なお、仕事中にNSFWなものを見ている時点で、問題はコンテンツではなく閲覧者側にある。

 ごもっともです。

言語モデル(Language Model)【名詞】

 文章をもっともらしく生成する機械。言葉の統計的なパターンを学習し、適切そうな単語を次々と並べていくが、そこに理解や意図は存在しない。それでも十分に流暢であれば、人間は知性があると錯覚するため、広く利用される。なお、似たような仕組みで会話を成立させている人間も少なくないが、彼らは「社交的」と呼ばれる。

 こう解説されると、この解説を書いているChatGPTも、ちゃんと『悪魔の辞典』を読み込んでパターンを分析して学習したんだと思えますね。意味は分からなくともそれを再現できるスキルがあるだけすごいです。要するに、自分が書いたこの文章を読んでも、実際は「これのどこが面白いの?」とすら思っていないけど、「こういうのが好きなんでしょ?」とは思いながら書いてるということですかね。

 これらの解説がすべて真実なのであれば、AIは未だユーモアの本質を理解しているわけではないけれど、こういう語順や言葉の選択をすると人間にユーモアがあると思わせることができる、ということを理解して回答しているという感じでしょうか。

 さて、AIによるAI用語解説、いかがでしたでしょうか。よく耳にするけどなんとなく曖昧に把握していた言葉も、言い方やニュアンスをつかめるだけで、理解度が増すと思います。

 AI関連ワードに限らず、よく耳にするようになったけどイマイチ理解が及ばない新語なども、AIにただ解説してもらうだけでなく、「『悪魔の辞典』風に」と添えるだけで、楽しく学べるようになります。みなさん、ぜひお試しを。

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