瞳ゆゆによる挑戦の物語、元タカラジェンヌが宝塚OGの未来を切り拓くべく奮闘
宝塚音楽学校の受験生へのサポートやOGのセカンドキャリア支援を行っている「株式会社Que seran pasaran(ケセランパサラン)」。その代表取締役社長を務めるのは、自身も元タカラジェンヌであり、退団後はフリーアナウンサーとしても活躍する瞳ゆゆさんだ。2024年には新たに宝塚OGだけでなく広く芸能人材に特化した企業への転職支援もスタート。そんな瞳さんがアナウンサーになった経緯や、なぜ受験生やOGを支援する会社を立ち上げたのかなど、そのライフシフトにまつわるストーリーをお届けする。
すべての画像を見る場合はこちら宝塚退団後はすぐにフリーアナウンサーの道へ、そして受験生支援の会社を起業
1986年生まれの瞳ゆゆさんは、2004年に90期生として宝塚歌劇団に入団し、花組に配属。2012年に退団した翌年からは、事務所に所属してフリーアナウンサーとしての活動をスタートさせている。退団から間髪入れずのキャリアチェンジだが、アナウンサーという仕事を選んだのはなぜだったのだろうか。
「宝塚在団中、CSの宝塚専門チャンネル『TAKARAZUKA SKY STAGE』のニュース進行役として活動していたことがきっかけです。そして、退団公演でニュース番組の取材が入った際、リポーターの仕事ぶりを見て『こういう道もあるのか!』とアナウンサーを目指すことに。退団後、すぐに上京してアナウンススクールに通ったのですが、自分には訛りはないと思っていたものの、福岡県出身なのでしっかり訛りがあって苦労しました(笑)。基本的にはもう心配ないのですが、不安になったら今でもアクセント辞典を引くようにしています」
瞳さんがレギュラー出演していたのは、競馬や経済、医療など専門的な番組がほとんど。そのため、0から基本的な知識を入れるだけでも苦労したという。
「どんな分野でも基本を覚えたうえで、さらに深掘りが必要。競馬の場合、その日に出走する全馬のレース歴を見て、強みや懸念点を出して中継に臨みます。経済は日々動いているので疑問が出たら書き留めて、番組にその話題が出たら『エイヤー!』と聞いてみたりも。的外れな質問をしていないか、番組の流れを壊さないかいつもビクビクしていました(笑)」
「元宝塚のアナウンサー」ではなく、「アナウンサーの瞳ゆゆって、元宝塚だったんだ!」と思われるようになるまでは、アナウンサー一本でやっていくと決めていた瞳さん。活動を続けていくうちに手応えを感じてきた彼女は、次のステップに踏み出すべく起業を決意する。
「フリーアナウンサーは事務所には入っているけど、局には勤めていません。これからのライフイベントを考えた時に、妊娠・出産をしても変わらず働き続けられる環境を作っておこうと思ったんです」
2018年、「株式会社Que seran pasaran」を設立した瞳さんはまず、宝塚受験の情報格差をなくすためのオンラインスクール「Grant sienne(グラント ジェンヌ)」をスタート。続いて、2020年に宝塚OGのセカンドキャリアをサポートする「宝塚OGサポーターズクラブ」を立ち上げた。
「小さいお子さまを持つ保護者の方への講演で『あなたは宝塚を受験するときに退団後のことを考えていましたか?』と質問されたことがきっかけです。宝塚歌劇団には、在団中に退団後について相談できる人や場所がありません。退団時に『自分に何ができるのかわからない、何をやりたいかわからない、そもそもどんな仕事があるのか分からない』という人がほとんどなのです」
退団後は、先輩に倣ってそのまま舞台の道に進むかタレントになるか、資格を取得してヨガやピラティスなどのインストラクターになる人が多いとか。退団後の人生設計に悩むOGが多い現状を「すごくもったいない」と感じた瞳さんは、何とか改善できないかと考えた。
「私自身、ここまで試行錯誤してきた経験から、セカンドキャリアについて相談できる場所として『宝塚OGサポーターズクラブ』を立ち上げ、まずはOGがやってみたいことをサポートできる環境を作りました。最初は、芸能系のお仕事や企業のPRのお仕事を紹介したほか、ヘアアクセサリーのお店を出したり、企業研修なども行ないました」
また、宝塚歌劇団の舞台はチケットが全く取れないほど人気があるにもかかわらず、宝塚音楽学校受験生が減少していることに危機感を覚えたことも理由の一つだという。
「2002年に私が受験した頃は約1000人だった受験生が、2024年には400人台に減少。受験生は中高生が中心で、中高生が中心の受験生にとって、親の理解は欠かせません。宝塚の平均在団年数は約8年(Que seran pasaran調べ)で、退団時の年齢はおおむね25~29歳。講演で退団後のことについて質問されたように、その後の人生のほうがはるかに長いのです。現役生だけでなくOGの活躍にも憧れを持ってもらうことで、古巣である宝塚にはいつまでも人気職業であってほしいなと」
宝塚OGのみならず広く舞台俳優、芸能人材のセカンドキャリアをサポート
そして、2024年「宝塚OGサポーターズクラブ」ではOG支援の新しい取り組みとして、芸能人材に特化した転職支援サービス「Grant carriere(グラントキャリア)」もスタートさせた。宝塚OGだけでなく、広く舞台俳優への一般企業への転職支援を行っている。
「私たち芸能人材のポテンシャルの高さを評価してくださり、某ラグジュアリーブランドやIT企業などで活躍している人材がいることを知ったことがきっかけです。これまで企業で働くことには高いハードルがありました。学歴も職歴もなく、履歴書に書ける内容がないからです。勇気を持ってエージェントに登録しても、『紹介できる企業はない』と突き返されたり、『営業一択、受付一択』と選択肢がなかったり…」
一般的な転職エージェントでは舞台経験の価値を理解しがたいのは事実。「数回の面談では、私たちの強みや得意なことはわからないのは当然」と瞳さんは語る。
「その点、私は舞台俳優出身です。その人がどんな生活をしてきたか、どんな努力をしてきたか、何ができるのかはよく分かるので、一人ひとり丁寧にキャリアカウンセリングを行っています」
起業に関する専門知識は特になかったが、困難に直面するたびに先輩経営者に相談しながら進めてきたという瞳さん。気にかけてくれる先輩が多く、いつも強く背中を押してくれることに感謝しているそうだ。
「『Grant carriere』はまだ始まったばかりで軌道に乗っているとは言えませんが、転職サポートをした方からの紹介を通じて、少しずつ認知度が上がってきています。私たち舞台俳優は自分にとても厳しくて、〝できない〟ということが許せないんです。その舞台俳優として培った〝やり抜く力〟を高く評価いただいているのではないでしょうか」
転職後に納得して働いてもらうため、企業や職種について時間をかけて一緒に選び、時には十数回にも面談を重ねたケースもある。そんななかで印象的だった転職のエピソードを聞いてみた。
「ラグジュアリートップブランドのクライアントアドバイザーに転職された方は、1000人中1~2人しか得られないと言われるS評価を受け、就職を決められました。その企業からは、周囲を支える力、みんなが気づかない些細な仕事も率先して担う細やかさ、成長への努力などが高く評価されています」
また、「Grant carriere」利用者からの「芸能界は全人生かけて全力を注げる場合はいいが、女性特有のライフステージを考えると企業への転職は現実的かつ前向きな選択肢だった」という、転職に対して新たな可能性を見出した姿も印象的だったそうだ。転職支援という事業を進めるなかで、内定した時の喜びの声や笑顔を見るのがとても幸せだという瞳さん。もっと広く同社の転職支援、芸能人材の企業への転職を一般的にしたいと邁進している。
「まずは芸能人材の魅力を発信し、企業へ誠実にアピールしながら、地道に候補者を送り届けることが大切だと考えています。『芸能で頑張ったからこそ、次のステージはステップアップ』という意識を広め、就職を最終手段ではなく前向きな選択肢として捉えてほしいです。『Grant carriere』を通じて、『次のキャリアが見えるから安心』『だから芸能の仕事を頑張れた』と思ってもらえたり、『宝塚受験を決めたきっかけになった』と言われるような存在になりたいです」
いずれはOG仕事名鑑も作ってみたいという瞳さん。会社の名前であるQue seran pasaran(ケセランパサラン)とは、出会うと幸せになるといわれる植物の種に由来している。
「この会社に関わってくださる方が、幸せになるようにとの思いを込めてつけたので頑張らないと! 私は思いついたことを次々と試すタイプで、要領がいいとは言えませんが、起業して6年目でようやく点と点がつながり始めました。それでもまだ打ちたい点がたくさんあるので、これからも引き続き挑戦していきたいですね」

フリーアナウンサーと代表取締役社長という二足の草鞋を履く瞳さん。「起業したてのころはアナウンサーの仕事が週4、5回入っていたので、その合間に会社の仕事をするという感じでした。今は会社の仕事の時間のほうが多いので、アナウンサーの仕事が気分転換になっています」
インタビューの最後に、これから新しいチャレンジやライフシフトをしたいと考えている女性に向けてメッセージをもらった。
「やりたいと思ったことは、すぐに始めたほうがいいです。計画を練って練って完璧な状態で仕事を始めようと思ったらいつまでも始められないし、どれだけ準備しても失敗する時は失敗します。それに、大きな失敗さえしなければ、小さな失敗はたくさんして、その度に修正していけばいいんです。いきなり大きなことをしなくても、自分のペースで細く長く続けていけば、いつの間にか形になってくるので、もっと気楽に、一歩が難しければ半歩でも進んでみてください!」
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