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無法状態から一歩前進 フリーランスを守り、企業側も守るフリーランス新法

会社員こそ人ごとじゃない! 今すぐ知るべきフリーランス新法のポイント

2024年11月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: アドビ

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 契約トラブルで泣き寝入りすることの多い業務委託契約型のフリーランスを法的にバックアップしていくのが、11月に施行されたフリーランス新法だ。ここでは新法の整備にも関わってきたフリーランス協会 代表理事の平田 麻莉さんにフリーランス新法についてインタビュー。特に重要な取引条件の明示や契約書についてもレクチャーしてもらった。

報酬未払い、支払い遅延、一方的な契約解除にフリーランスは泣き寝入り

 2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、ギャランティの未払いや支払い遅延、減額などの契約トラブルからフリーランスを保護するとともに、フリーランスの就業環境を整備する法律になる。このフリーランス新法の成立に大きく貢献してきたのが、個人事業者や複業人材のためのインフラを整えてきた「一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」(以下、フリーランス協会)だ。

 代表理事である平田 麻莉さんがフリーランス協会を作った一番の理由は「フリーランスの環境整備」だった。そのため、協会としてはフリーランス向けの保険や福利厚生サービスも提供しているが、会員の声を実態調査で可視化して、政策提言していくのが本来の目的だという。「多様なフリーランスたちが日々感じている課題やニーズなど、小さな声を大きな声にして、政策決定の場に届けていきたかった」と平田氏は語る。実際、フリーランス協会では契約トラブル防ぐための法整備のほか、コロナ渦の持続化給付金の支給やインボイス制度の負担軽減措置、保活における不利の是正なども実現してきた。会社員と格差のある社会保障の向上についても提言を続けている。

 今回、説明してくれたフリーランス新法も同協会がリードしてきた提言の1つ。「今までフリーランスと企業の取引は『無法状態』でした」と平田氏は指摘する。業務を依頼する企業と、委託されるフリーランスの間に立場や力の差が称していることによって生じるホワイトスペースに法制度を持ち込んだ点が大きいという。

フリーランス協会 代表理事 平田 麻莉さん

 通常、フリーランスが企業の業務を請け負う場合は、業務委託契約(請負契約or準委任契約)を結ぶことになるのだが、既存の民法はお互いの関係が対等であることを前提に口約束での契約が成立してしまう。一方、下請事業者の保護を目的に独占禁止法を補完すべく作られた下請法は、資本金1000万円を超える企業のみが対象となるため、資本金を1000万円以下に抑えておきさえすれば守らなくて良いとされている。

 しかし、企業とフリーランスの関係は対等でないことの方がほとんどで、業務を委託する側の企業が立場的に強いことが多く、フリーランスは、これまで報酬未払い、支払い遅延、一方的な契約解除などに泣き寝入りするパターンが多かった。「特にクリエイティブ系の仕事は、予算の調整弁にされがちでした。泣き寝入りしてくれるだろうということで、他に支払った後の余りの予算で支払われることも多かった」と平田さんは語る。

フリーランスを守る取引内容の明示義務は発注者も守る

 こうした背景を受けてできたフリーランス新法は、「端的に言えば、下請法を薄く、広くかけたイメージ」(平田さん)だという。具体的には、契約書面やメール、チャット、SNSメッセージ等による取引条件の明示義務が企業側に課される。業務の内容、発注日、納品日、金額、支払期日などを明示して、業務委託をスタートさせる。発注時点で明確に決まっていない項目については、いつまでに決まる見込みかを明示する。著作権等の知財に関しても、発注者に譲渡させたい場合には予め業務内容の一部として明示しておく必要がある。「『面倒くさい』という方もいらっしゃいますが、これって普通ですよね(笑)。口約束だけで取引していた今までが甘かったわけで、口約束だからいくらでも反故にできるなどというビジネスをしている国なんて、先進国では日本くらいです」と平田さんは指摘する。

 契約トラブルはフリーランスにとっても大きな問題だった。フリーランス協会でも、報酬トラブルを解決するための弁護士費用を自己負担0円でカバーできる「フリーガル」という保険を有料会員全員に自動付帯で提供している。しかし、これが活用できないケースが、そもそも契約書や契約に関してやり取りしたメール等の証左が存在しないパターンだ。「契約書がないと、結局『言った』『言わない」の議論になってしまうので、弁護士も手の打ちようがない。だから、エビデンスは重要」と平田さんは語る。

 一方で、取引条件の明示は発注者側である企業を守るものでもある。たとえば、スケジュール通りに納品されなかったり、発注と異なるモノが納品されたり、気がついたらオプションとして料金が上乗せされて請求といった企業側のリスクもあったからだ。そのため、フリーランス新法では、お互いの条件が合意された上で、仕事をスタートさせることが求められている。

 「最初からギャラとかわからないよというのは、フリーランスを軽んじているということ。フリーランスのギャラを予算の調整弁として後回しにするような業界慣習をなくし、優先順位高く、予算に組み込んでおくことが当たり前になることを祈っています。今はフリーランスも奪い合いなので、新法で規定されているような商取引として最低限のルールを守れない企業は、いいフリーランスと仕事できなくなります」と平田さんは指摘する。

 この取引条件の明示は、フリーランス同士での契約でも必要。「フリーランスは複数集まってプロジェクトをこなすことも多く、発注元の『元締め』にあたる人が権力を握ってしまうパターンもあります。そこで未払いや条件が違うというトラブルにつながるケースも実態調査で散見されてきました」とのことで、お互いを守るために明示義務が課されることになるという。

 ちなみに、今回のフリーランス新法の対象となる取引は、いわゆる企業を相手にしたB2Bでの取引になる。「立場的に強い企業側に義務や禁止事項を課す法律なので、習い事の先生や美容師さん、ハウスキーパーなどの一般消費者との直接取引は対象になりません」と平田さんは説明してくれた。また、従業員がいる事業者は、法人化しているかどうかを問わず、新法を守る側の企業として扱われるという。

フリーランスにとって自らを守る契約書が重要

 では、実際のフリーランス受発注はどうなのか? 協会の白書にも載っているが、契約書をきちんと作成する人、箇条書きの文面でする人、電話を使って口頭で説明する人などさまざまだが、9割はメールを用いているという。下請法では書面が必要になるが、フリーランス新法ではメールでもOK。「ハードルが高くなるのはフリーランスにとってもマイナスなので、メールでも、チャットでもOKです」と平田さんは説明してくれる。

 とはいえ、フリーランスとして自分を守るためには、契約書を締結した方がよいに越したことはない。「知財や経費の扱い、暴排条項などいろいろ入れられるので安心」と平田さんは指摘する。ただ、発注者から渡された契約書にそのままサインというパターンの場合、契約書をきちんと読まないで、不利な条件をのまざるを得ないパターンもあるので、注意が必要。「Webサイトの仕事で、納期に遅れたら100万円の違約金が発生するという契約書を結ばされていたという詐欺まがいの話もあります。その意味でも、自分の契約書のフォーマットを持っておくのは有効です」と平田さんは語る。

 フリーランス協会でも、自身の契約書のひな形を無料で作れるサービス「契約書メーカー」を11月15日に提供開始する。「スマホやPCから簡単な質問に答えていくだけで、きちんと法律用語になった契約書が出力されます。フリーランスの相談窓口「フリーランス・トラブル110番」を政府から運営委託されている第二東京弁護士会の弁護士の先生たちに監修してもらって、フリーランスが不利にならない、かつ発注者も納得できる契約書を作れるよう配慮を重ねています」(平田さん)。

 今回のフリーランス新法について平田さんは「大きな一歩だと捉えています。口約束がなくなる。これがなくなると、トラブルはだいぶ減るし、解決までも速くなるはず」と平田さんは評価する。

人生100年時代、会社員もフリーランスも無関係ではいられない

 会員からの評価も上々だが、新法についての認知がまだまだ不足している点は課題。「『クライアントにわかってもらえる自信がない』とか、『新法の話をしただけで切られそう』と不安を感じていらっしゃる方もいます。発注者側に認知してもらう広報施策や、違反企業の公表や罰則などを着実に執行していくことが大切です」とのことで、新法の施行はまだまだ最初の一歩に過ぎないという。

 改善点もあるという。買い叩きや一方的な減額など、フリーランスに対する禁止事項が適用されるのが、期間が1ヵ月以上の取引だけに限定されているのだ。「短期間の取引を含まないでほしいというのは、経済界からの強い要請。経済団体側は最初は1年以上とか、半年以上という条件を通そうとしていたが、政府が行なったフリーランスの取引実態の調査結果などを鑑みた結果、1ヵ月になった。でも、私はそれすらない方が良いと思う。納期まで1ヵ月に満たない案件だからといって、一方的にギャラを減額して良いという道理はない」と平田さんは語る。

 現在、国内のフリーランス人口は約257万人(総務省統計)。ちょっと前の内閣官房の推計だと、統計には現れない兼業などを含めて462万人となっている。しかも、制度面や人口構成から考えると、このフリーランス人口は今後どんどん拡大するため、将来的には「自分は会社員だからフリーランスは他人事」で済まなくなってくる。

 「人生100年時代と言われ、労働寿命が延びている中、65歳以上は誰でもフリーランスになる可能性があります。会社は65歳以上の雇用は確保しませんが、70歳までの就労機会確保の努力義務があり、フリーランス(業務委託契約)に切り替えるオプションを厚労省が認めている。だから、社会保障制度まで含めたセーフティネットを早急に考えないと、路頭に迷う人も出てくる。ここはしっかりやっていかないと」と平田さんは語る。

契約書の作成や電子契約はAdobe Acrobatが便利!

 平田さんに聞くと、「経費もかかるので、フリーランスって基本的にはペーパーレス万歳の人が多い」とのことで、ペーパーレス化やデジタル化はかなり進んでいるとのこと。会社組織のように紙や捺印に縛られず、基本的にはノートパソコン1つでどこでも仕事できる身軽さが重要になるからだ。デジタル化した業務では契約書や企画書などではPDFを使うことが多く、「毎日なにかしら使っている日常的なもの」だという。

 こうしたフリーランスの方にオススメなのが、回数制限なしに電子契約が利用できる「Adobe Acrobat」だ。契約書や請求書など、押印が必要なあらゆる書類に利用でき、PDFの編集や共同作業も可能。書類の印刷、押印、郵送などいった手間のかかる作業を省いて、オンライン上で契約の締結までをスピーディに完結させることができる。11月15日にリリースされる「契約書メーカー」からダウンロードしたPDFでも簡単に電子署名を入力でき、デジタルの場合には収入印紙は不要となる。また、AcrobatはAdobe Creative Cloudのコンプリートプランでも利用できるので、契約しているにも関わらず、使っていないのはもったいない。

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