横浜の未来を担う子どもたちを応援! 「よこはま子ども国際平和プログラム」活動レポート 第4回

ピースメッセンジャーはアーティスト

文●兵頭 律子

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 みなさんは「よこはま子ども国際平和プログラム」をご存じですか?

 こちらは、毎年約4万人(令和6年度は約4万2千人!)の横浜市内の小中学生が、

〇「国際平和のために自分にできること」について主張する「よこはま子ども国際平和スピーチコンテスト」に参加

〇校内選考、区予選を突破して、市本選で市長賞を受賞した4名の「よこはま子どもピースメッセンジャー」が、ピースメッセージや市長メッセージ、ユニセフ募金をニューヨーク国連本部等に直接届ける

 といった活動で構成されるプログラムで、1986(昭和61)年から実施しています(途中名称等変更)。壮大なプログラムをこんなに長く続けているなんて、横浜ってやっぱり特別です。

 この連載は、本プログラムの担当者(教育委員会事務局 兵頭)がお届けする、子どもたちの「活動レポート」。 第4回は令和5年度よこはま子どもピースメッセンジャーの1人、日吉台西中学校3年(当時)の「佐々木春樺さん」の成長物語です。

前回の記事はこちら

ピースメッセンジャーはスティービー・ワンダーに会えるのか?
https://lovewalker.jp/elem/000/004/218/4218960/

記事の一覧はこちら
https://lovewalker.jp/special/3001117/

雨のマンハッタン

 「雨、降ってよかった。すごくいい。」そう言いながら、夢中で街の写真を撮るのは、ピースメッセンジャーの一人、佐々木春樺さん。ニューヨーク派遣5日目は、雨。引率者としては、「雨か。移動が大変だな。街も薄暗いし。ピースメッセンジャーたち、元気に一日活動してくれるかな。」とため息をついていたところで、意外な一言に救われました。

 実は、佐々木さんは、15歳にして個展も開催するほどのアーティスト。主に、紙粘土を使った立体造形を制作していて、大好きな“金魚”をはじめ、自分と同じくらいの大きさの作品も制作しています。

 そんな佐々木さんのフィルターを通すと、雨の降る肌寒い10月のマンハッタンは、まさに“アート”。彼女の一言を聞いてからは、薄暗い街が急に素敵に見え始め、今日という一日が楽しみになりました。

作品名:THE 金魚

 佐々木さんが、スピーチコンテストで主張したのは、「お節介」について。海外から日本に来た留学生たちを自宅に招いて食事を振る舞うなど、“お節介”を焼いていた祖母のように、世界を平和にするためには、近くにいる人を大切にすることから始めたい。そんな思いをスピーチしました。

・「お節介を広めれば」佐々木春樺さん

 彼女のスピーチでは、内容だけでなく、表情、発声、抑揚等のスピーチ技術の高さにも感心させられます。さらに、驚かされるのは、完璧な手話をつけているということ。なぜ、手話? コンテストでは、わからなかったその理由は…

何になりたいか、ではなく、何をしたいか

 派遣3日目、国連機関のユニセフ本部を訪問し、ジェンダー平等プログラムアソシエイトディレクターのローレン・ランブル氏、平和構築プログラムオフィサーの深瀬 理子氏と会談を行いました。佐々木さんの心に響いたのは、ランブル氏のから教えてもらった一つの“マジック”(世界中の子どもたちの暮らしをよくするための魔法のような手段を、ランブル氏はこう表現しました)。それは「学校へ行くこと」。子どもが学校に行くと、居場所や友達ができるのはもちろん、教育を受けることで、人生の選択をすることができるようになるのだ、と。貧困や住んでいる国の状況の影響で、学校に行きたくても行くことができない子どもたちが世界にはたくさんいること、そのような課題を解決するために、ユニセフがさまざまな活動を行っていることを聞き、佐々木さんは、「何不自由なく学校に行っている自分がありがたい状況にあること。しかし、それに”ありがたさ”を感じているだけではいけないということに気づきました。」と感想を述べています。

 深瀬氏は広島のご出身で、中学生の時に広島の“平和大使”として“よこはま子どもピースメッセンジャー”と同じように海外派遣を経験されたそうです。そのころから、“世界平和”をライフテーマとして生きてきた。どうすれば世界を平和にできるのだろう、そう考え続けてきた結果、今、ここ(UNICEF)で仕事をしている。将来、“何になりたいか、どこで働きたいか”ということ以上に、人生を通して”何がしたいか“を考えて生きることが大切。そう伝えてくださいました。このメッセージは、将来を夢見る子どもたちだけでなく、引率していた大人たちにとっても、自分の職業人生を振り返るきっかけとなった気がします。

 会談の最後に、横浜市立学校で行ったユニセフ募金(総額9,488,092円)の目録をお渡しし、ローレンさんからは、⾧い間、横浜市で行われている平和への取組に対して、感謝の言葉をいただきました。

国際連合児童基金(ユニセフ)本部 ローレン・ランブル氏 深瀬 理子氏と。一番左が佐々木さん

気持ちでコミュニケーションをとること

 派遣5,6日目は、国連国際学校(UNIS)体験入学。UNISとは、国連職員の親を持つ子どもたちが多く通っている学校です。当然のことながら、授業はすべてが英語で、さまざまな国籍やルーツをもつ子どもたちが一緒に授業を受けています。第2外国語として、日本語を選択することもできます。ピースメッセンジャーたちは、日本語の授業に“ネイティブスピーカー”として参加。日本に興味をもち、日本語を学んでいる子どもたちがNYの学校にたくさんいることを知り、彼らの表情はなんだか誇らしげです。

 UNISでの体験授業の2日間はあっという間に過ぎていきました。緊張感のある会談から学ぶこととは違って、同年代の子どもたちとの生身の交流から学ぶことは、言葉だけでは表現できない特別な感覚のよう。UNISからの帰り道、4人の興奮は止まりません。

 「UNISのみんなでサッカーをする中で、差別のない世界ってこういう感じなのかと感動し、これほど過ごしやすいのならば、早く差別のない世界になって欲しいと思いました。言葉が通じないこともありましたが、お互いに理解したい気持ちを持つことで、伝わり、わかりあえることに気づきました。」(佐々木さんの言葉)

2日間共に過ごしたバディーたちと。日本にルーツをもち、日本語が堪能な子どもたちが、バディーとしてサポートしてくれました。左から3番目が佐々木さん

活動を終えて

 「ニュースで聞くこと。誰かから教わったもの。それが突然、形となって目の前に現れるという不思議な数日間でした。これまで実感がわかなかったものを見つめ、向き合ったことは、絶対に自分を成⾧させたと思います。これをどう伝え、いかしていくか。これこそが私に課せられた大きなものだと思います。UNISで見た景色のように、すべての人が互いの個性や良さを認め合えるような世界にするために、自分にできることを全力で成し遂げたいです。」(佐々木さんの言葉)

自由の女神のあるリバティ島に向かう船上で。島田さん、大柳先生と

 芸術的な感覚の鋭さだけでなく、人の気持ちに対する感度も高く、人がしてほしいことにすぐに気づいて行動に移す佐々木さん。明るく、優しく、自分らしく。まさに、“お節介”の達人です。スピーチで行った手話。それは、スピーチを聞いてくれている人たちの中には、もしかしたら、手話を必要としている人もいるかもしれない、そう気づいた佐々木さんの素敵な“お節介”だったのだと、NY派遣での1週間を終える頃に、やっと気づいた私でした。

2022年開催の個展にて。作品たちに囲まれて。今後も個展を開催予定

 今回で、令和5年度よこはま子どもピースメッセンジャー4名についてのレポートは終了です。次回以降は、2024年10月に派遣予定の“令和6年度よこはま子どもピースメッセンジャー”についてレポートする予定です。これからも、横浜の子どもたちのチャレンジに、応援をよろしくお願いします!

見事に大役を果たした“令和5年度よこはま子どもピースメッセンジャー”の4名。左から、佐々木さん、島田さん、吉田さん、大野さん。おつかれさまでした

<お知らせ>

「よこはま子ども国際平和プログラム」に取り組む子どもたちの様子を動画で配信しています。『どうしても今セカイへ伝えたい』。スピーチコンテストに出場する前に、各学校で真剣に取り組む子どもたちの声や表情を是非ご覧ください!

文:兵頭律子

自由の女神ミュージアムで。自由の女神顔部分(実物大)とともに。横浜市教育委員会事務局 主任指導主事。横浜市立中学校英語科教員として長く勤務し、令和元年度より教育委員会事務局勤務。令和5年度より、よこはま子ども国際平和プログラム担当として、スピーチコンテストの企画運営、ピースメッセンジャー国連本部派遣等に従事。NY派遣の引率を終えてから、以前ハマっていた美術館巡りを再開しようと構想中