世界最大級の蓄電施設はアウディのEV8700台分
風力発電は風の影響により出力変動が発生します。そこが自然エネルギーの難しいところです。
次に訪れたのは、天塩郡豊富町にある国内最大規模、世界でも最大級の蓄電池設備を誇る変電・蓄電施設、北海道北部風力送電の北豊富変電所。風力発電で得た電力を、一旦リチウムイオン電池に蓄える世界最大級のバッテリーシステム(720MWh)です。たとえるならアウディの電気自動車e-tronの約8700台に相当します。
蓄電施設は9つのウインドファーム(合計127基の風車)とつながっており、合計127基の風力が生み出される電力540MW(メガワット/54万kW)のうち、現在は300MW(30万kW)を北海道電力に安定的に供給しています。今夏、北海道電力のピーク電力は400万kWだったので、約8%分が賄えるというわけです。
施設内はリチウム電池のセルがズラリ。「燃えたらどうするんですか?」と尋ねると、二酸化炭素で消火するそうで、近くには大量の緑色のボンベ(通称ミドボン)がありました。なお、リチウム電池の耐用年数は約20年だそう。
施設ができたのは約2年前。周りを見渡すと土地はいっぱいありますし、建屋は平屋なので2階建てにするなど、もっと作ればいいのにと思うのですが、現時点でこれ以上の開発はしない模様。
というのも、ここでも再生可能エネルギーの電力は余り気味という声が聞かれました。「もっと皆様が再生エネルギーを使ってくだされば……」と関係者は語ります。
風力発電はどこでもできるものではない
このようにポテンシャルのある風力発電。菅 義偉首相も在任中、「洋上風力産業ビジョン」として、2040年までに原発30~45基分に相当する30~45GW(ギガワット)(=3000万~4500万kW)の導入を目指す考えを打ち出しました(参考資料:PDF)。
ですが、日本全国どこでも建てればスグに電気になる、というわけにはいきません。経済産業省は福島沖で600億円を投じて、浮体式洋上発電事業を行ないましたが、稼働率が採算ラインに乗らず失敗、撤退となりました。
つまり、いくら巨費をかけたところで、条件の合う場所でなければ、電力は生み出せないのです。風力発電の場合、その地域が北海道と東北地方に偏在しているのです。
北海道の電気自動車事情
電気を多く消費してほしいのなら、電気自動車が好適では? と思うところです。アウディ旭川に行き、その事情を尋ねてみました。
そこで知ったのは「北海道は日本で最も電気自動車が普及していない」という事実。たしかに旭川の街で、我々以外で電気自動車の姿を見かけることはありませんでした。理由を店長に聞くと「お客様から、航続距離が400km程度では足りない」という声が最も多いとのこと。北海道の場合は、距離がとても重要なのだそうです。
ネットでは「寒くなるとリチウムイオンバッテリーの特性上、航続距離が落ちる」と言われており、実際、航続距離は2~3割ほど低下する模様。さらに航続距離が短いので敬遠される、というわけです。
航続距離が足りなければ、急速充電器を増やすしかありません。アウディジャパンも、ディーラーに超急速充電器を設置するなどしていますが、それとて十分な数ではありません。
ちなみに北海道のクルマは、四輪駆動であることが前提だそうで、四駆の電気自動車が少ないのも普及率低迷の要因ではないか、とのこと。アウディで四駆の電気自動車はQ8かe-tron GTという、1000~1500万円もするフラグシップモデルしかありません。今後のラインアップ拡充に期待しましょう。
話は逸れますが、旭川店で売れている車種はQ6、A6より上のハイエンドモデルとのこと。逆に都心部で人気のA1やQ2といったコンパクトモデルは苦戦しているとのことでした。この点も土地柄なのでしょう。
余った電力は足りないところへ
そんな単純な問題ではない
生産地で余っている電気。ならば消費量の多い場所へ送ればよいのでは? と考えるのが自然なこと。まして化石燃料高騰などによる電力代値上げの昨今、再生可能エネルギーからの供給量を増やせば、電気代は抑えられるのでは、とさえ思うわけです。ですが、現時点ではそう思うようにはいきません。
北海道再生可能エネルギー振興機構 鈴木亨 理事長に話を聞くと、北海道と本州の間を結ぶ電源ネットワーク「北海道・本州間連系設備」で流せる電力容量は900MW(90万kW)しかないとのこと。
経済産業省資源エネルギー庁の資料によると、増設の予定はあるようで、2027年には120万kWに増やすとのこと。ほかの地域でも増強の計画があるそうです。ですが、それとてまったく足りないのが実情です。
偉い人たちも理解しているようで、北海道~東北~東京の電力線を800万kWまでの増強をはじめとして、日本全体で送電網の拡充を考えているようです。このプランは長期方針であり、具体的にいつまでに、という決め事はありません。いわゆる努力目標みたいなものです(参考資料 経済産業省:PDF)。
電力を道外へ伝える手段も少なければ、道内で消費しきれないにもかかわらず、北海道には1000件以上の風力発電施設建設予定(申請)があると、北星学園大学 経済学部 経済学科 藤井 康平専任講師は語ります。
それらをすべて建設し、発電できたとしたら200万kWをゆうに超えるだろうとも。それゆえ、道外へ送電しないのはもったいない話です。一方で「こうした申請の中には、いささか不明瞭なものがある。発電所が新たな雇用となるのかも注視したい」と、別の問題も危惧をされていました。
これは北海道に限らず、九州でも起こっているといいます。九州は全国の太陽光発電の2割を占めるほど太陽光発電が活発。それゆえ、晴れて発電量が増える日は、送配電会社が発電事業者に供給を止めるよう指示を出す「出力制御」が行なわれました。
再生エネルギーと電気自動車の普及はインフラ次第
よく「電気自動車は環境に優しいというけれど、結局化石燃料から得た電力で動いている」という論を目にします。あわせて「再生エネルギーは安定しない」という論もあります。ですが、それらは技術的に克服しつつあるように思いました。
次なる問題は、風力で得た電力をクルマに充電する経路が乏しいのです。インフラの整備は、民間企業では限界があり、そこは資源エネルギー庁がキチンと舵をとってもらいところです。同庁のカーボンニュートラルに対する姿勢を注視したいと思います。
資源エネルギー庁のマスタープランによると、その費用は概算で8兆円とのこと。おそらく上振れをすることでしょう。大きなイベントもいいですが、もうちょっと公費をここに投入しては……と思ったのは、私だけでしょうか。
