画像クレジット:AP Photo/Godofredo A. Vásquez
メタとスナップが相次いでスマートグラスを発表した。両社とも、拡張現実(AR)をスマートグラスの売りとしているが、マルチモーダルAIとシームレスにやり取りできることに意味がある。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
念のためにお伝えしておこう。時代は次の巨大消費者市場向けデバイス・カテゴリー「スマートグラス」に猛然と突き進んでいる。メタ(旧フェイスブック)は9月25日の開発者向けカンファレンスで、驚異の拡張現実(AR)メガネ「オライオン(Orion)」を発表した。 スナップ(Snap)は9月17日に、新型「スナップ・スペクタクルズ(Snap Spectacles)」を披露。グーグルは6月のグーグルIOでARメガネの発表を予告し、アップルも独自のモデルを開発していると噂されている。やれやれ。
メタとスナップは、そのメガネを報道陣の手元に(あるいは顔面に)用意した。そして両社は、長年待ち望まれたARのスペックがついに「モノ」になったことを証明した。 ただ、この今の状況で私が興味をひかれるのはARではない。人工知能(AI)である。
メタの新しいARメガネについて考えてみよう。この製品は現状ではプロトタイプに過ぎない。製造コストが1万ドルとも言われるほど高額だからだ。それでもメタはARメガネを公開した。装着する機会を得た人はすっかり魅せられた。ホログラフィックの機能はすこぶるカッコいい。ジェスチャーによるコントロールも言うことなしのようだ。そしておそらく最高なのは、やや厚ぼったいとはいえ、ほぼふつうのメガネに見えるということだ(ただし、私が言う「ふつうのメガネ」は、世間の一般的なメガネと異なるかもしれない)。このグラスの特徴に関心があるなら、ザ・ヴァージ(The Verge)のアレックス・ヒース副編集長がすばらしい体験レポートを書いているので参照してほしい。
しかし、中でも私が特に興味をそそられるのは、スマートグラスを使うことで、日常生活でAIとシームレスに対話できるようになるということだ。物理的な空間でデジタルの物体を見るよりもはるかに便利になると思う。もっと簡単に言えば、それは視覚効果ではなく、脳への働きかけである。
現状、チャットGPT(ChatGPT)やグーグルのジェミナイ(Gemini)などに質問をしたいときは、たいてい、スマホやノートPCを使わなくてはならない。もちろん、音声でも質問できるが、アンカーとしてその種のデバイスがやはり必要だ。とりわけ、目の前で見ているものについて尋ねたい場合はほぼ必須だろう。スマホのカメラがなくてはならない。この分野では、メタが先行している。ユーザーはすでに、「レイバン・メタ・スマートグラス」を使ってAIと対話できるようにしている。スクリーンの縛りがなくなると、かなりの解放感がある。やはり、スクリーンをじっと見つめ続けるのはしんどい。
数週間前にスナップの新型「スペクタクルズ」を使ってみたとき、居間でゴルフのグリーンをシミュレートできたことよりも、地平線をながめながら彼方に見える大型船についてスナップのAIエージェントに聞いたら、その船の名前と概要をおしえてくれたことに感動した。ザ・ヴァージの記事でヒース副編集長も同じような話をしている。メタのオライオンのデモで最も印象的だったのは、目の前に食材があったとき、それぞれ何なのか、どうすればそれを使ってスムージーを作れるか、をメガネが教えてくれたことだったという。
オライオンなどのスマートグラスの目玉機能は決してARピンポンゲームなどではない。存在しない球を手のひらで打ち返してどんな意味があるのか。しかし、マルチモーダルAIを使いこなせれば、スクリーンに張り付かなくても、周囲の環境をもっとよく理解し、対話し、そこからさらに情報を得られるようになるらしい。すばらしいではないか。
そして、その機能が訴えるべき特徴であることは実はずっと変わっていない。少なくとも、私はそう考えている。2013年に、私はワイアード(Wired)で「グーグル・グラス(Google Glass)」について記事を書いた。当時、この誕生したばかりの顔面装着コンピューターの革命的だった点は、「グーグル・ナウ(アップルのシリ=Siriへのグーグルの当時の対抗馬)」を使い、スマホを介さずにその状況に合った情報を提供できることだった。
グーグル・グラス全般については、はっきりいいとも悪いとも言えなかったが、「あなたは顔に装着するグーグル・ナウを本当に気に入るだろう」と書いた。今もその考えは変わっていない。
複雑な指示を受けたり、スクリーンに触れたりすることなく、この世界でさまざまな用をこなすのを手伝うアシスタントは、コンピューティングの新たなトレンドの先駆けになるだろう。グーグルが今夏に披露した一般未公開のAIエージェント、「プロジェクト・アストラ(Project Astra)」のデモは、スマホ上で興奮をもって迎えられたが、本格的に盛り上がりを見せたのは、アストラがスマートグラス上で動作を開始してからだった。
数年前、ARヘッドセットの開発を進めていた新興企業のマジック・リープ(Magic Leap)の担当者が、デジタルの花束のようなバーチャルのオブジェクトを物理的な空間に置いて、他の人もそれを見られるというのはすごいことなんだ、と私に力説した。なるほど、そうかもしれない。たしかに、「ポケモンGO」は大人気だった。だが、スマートグラスを真の意味で役立つ道具にするには、ARのギミックではなく生成AIが欠かせない。
音声、動画、画像、テキストを理解できるマルチモーダルAIと、ユーザーが見ているものを見て、聞いているものを聞くことができるメガネを組み合わせることで、スマホ登場時がそうであったように、人と世界とのかかわり方は大きく変わるだろう。
最後に余談だが、「オライオン」(日本ではオリオンと呼ばれる)はギリシャ神話に登場する偉大な狩人である(そしてもちろん、空にのぼる星座でもある)。オリオンの物語には諸説あるが、よく知られているのは、オリオンがキオス島の王の娘を酒に酔って暴行したため、王がオリオンを失明させたというエピソードである。 オリオンは昇る太陽を眺めることで、ついに視力を取り戻した。
ドラマチックな話だが、メガネの商品名としてはうまいとは言えないかもしれない。