このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業界人の《ことば》から 第606回

創業家以外から初の新社長、アスクル立ち上げの4名にも名を連ねる

テプラは販売減、でもチャンスはピンチの中にこそある、キングジム新社長

2024年09月06日 08時00分更新

文● 大河原克行 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

今回のひとこと

「ペーパーレス化によってファイル需要が激減し、テプラは販売数が伸び悩んでいる。だが、ピンチはチャンスである。いままでの延長ではない、大きなビジョンを持つ成長戦略が必要である」

(キングジムの木村美代子次期社長)

アスクルの創業メンバーのひとり

 キングジムの新社長に、2024年9月19日付けで、木村美代子取締役常務執行役員が就任する。

 創業97年を迎えるキングジムにとって、創業家以外からの社長就任は、今回が初めてとなる。38歳で社長に就任し、32年間務めた宮本彰氏は、取締役会長に就く。

 宮本社長は「長年、商談相手としての付き合いがあった。しっかりとした考え方を持っており、理路整然としている。こんなに頭の切れる人は見たことがない。三顧の礼を尽くして迎え入れた逸材」と、木村次期社長を評する。

 木村次期社長は、1964年6月生まれ。1988年にプラスに入社し、1993年にアスクル事業推進室に配属。アスクルの創業メンバー4人のうちの1人だ。

 1999年にアスクルを分社化し、同社に移籍。2010年にはBtoC通販サイトの立ち上げのためにアスマルを設立して、代表取締役社長に就任し、LOHACO(ロハコ)を軌道に乗せた。2017年にはアスクル 取締役 CMO 執行役員 BtoC カンパニーライフクリエイション本部長兼バリュー・クリエーション・センター本部長に就任し、2021 年には、同社取締役ブランディング、デザインおよびサプライヤーリレーション担当に就いた。

 2022年9月に、キングジムに入社し、取締役常務執行役員に就任。現在、取締役 常務執行役員として、開発本部長兼CMOを務めている。

 また、ARE ホールディングス(旧アサヒホールディングス)および日本郵政の社外取締役も務めている。

 木村次期社長は、「歴史がある会社の社長としてバトンを渡され、身の引き締まる思いである。高い志を持ってしっかりと前に進めていく」と力強く語る。

「行くぜ!KJ(キングジム)」プロジェクト

 キングジムは、2027年6月期を最終年度とする第11次中期経営計画をスタートした。

 この中期経営計画は、木村次期社長がリーダーとなり、若手社員や女性社員も参加した「行くぜ!KJ(キングジム)」プロジェクトによって策定したものだ。

 自ら策定し、自ら実行する第11次中期経営計画は、木村次期社長の経営者としての最初の通信簿になるのは明らかだ。

 新たな中期経営計画のベースにあるのは危機感だ。

 2024年6月に終了した第10次中期経営計画は、目標の売上高480億円に対して、実績は395億円となり、達成率は82.4%。また、経常利益は34億円の目標に対して、実績は1億円となり、達成率はわずか3.8%と大幅な未達となった。

 「ペーパーレス化によってファイルの需要が激減し、ファイルタイトルを作成するテプラは、販売数が伸び悩んでいる。コロナ禍での巣ごもり需要が落ち着いたことで、グループ会社の多くが目標未達となった。また、円安進行に加えて、原材料費や物流費の高騰の影響も受けた。価格改定も追いつかなかった」と、計画未達の要因を振り返る。

 その上で、「いままでの延長ではない、大きなビジョンを持つ成長戦略が必要である。ピンチはチャンスである。時代の変化をチャンスと捉え、独創的なクリエティブ集団であり続け、新たな成長に挑む」との姿勢を示した。

 第11次中期経営計画で掲げた経営指標は、2027年6月期の売上高が520億円、経常利益は28億円、経常利益率で5.4%、ROEは8.0%だ。

 「キングジムの強みは、時代に適応して、変化や革新ができることである。経営理念で掲げている『独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する』ことを実践し、お客様にワクワクするものを提供していく」と意気込む。

 キングジムは1927年に創業。創業者の宮本英太郎氏は、どのハガキも、住所氏名欄の大きさがほぼ同じであることに着目し、その部分を切り抜いて顧客名簿として管理できる「人名簿」を開発して、特許を取得。ファイルがなかった時代に、ファイルの走りともいえる商品を投入してキングジムの歴史が始まった。

 書類を紐で閉じていた時代には、丈夫で、書類が汚れにくいキングファイルを商品化。オフィスに紙があふれ、雑然としていた時代には、テプラを発売して、モノにラベルを貼り、情報を表示するというオフィスの文化を創り出した。また、重たいPCを持ち運んでいた時代には、デジタルメモ「ポメラ」を発売した。「議事録をとるためだけにパソコンを用意したくない」という社員の声をもとに、文字入力に特化したデジタルメモとして生まれた商品だ。

 このように時代の変化を捉えて、ヒット商品を連打してきたのが、キングジムの特徴である。

いまは、国内においては少子高齢化による生産年齢人口の減少が課題となり、フレキシブルな働き方への変化や、DXの加速によるペーパーレスの進展、サステナビリティが重視される世の中へと変わり、ESG経営が不可欠となるなど、大きな社会変化がみられている。「いまこそ、社会の変化に適応する大胆な変革が必要である」と、木村次期社長はピンチをチャンスに変える考えだ。

そして、「キングジムは、もっと危機感を持ち、スピードをあげ、バイタリティを持っていかなければならない。文具業界だけを見るのではなく、もっと広く社会を見て、お客様に対して新たな価値を創造していくことが必要である。キングジムならばできる」と断言する。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ