人生の達人はBARにいる 第5回

パレスホテル東京 ラウンジバー プリヴェ

実力派バーテンダーが教えるリーダーの心得「部下が自由に育つのが理想」

文●オシミリン(LOVEWalker編集部)

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宮下彰さん

 たくさんの人が訪れ、さまざまな悩み相談に答えてきたであろう丸の内のバーテンダーの方に、あなたに代わって相談を投げかける本連載「人生の達人はBARにいる」。

 今回は、皇居外苑にほど近いパレスホテル東京の「ラウンジバー プリヴェ」を訪れました。店内からの眺めがよく、バーテンダーが提供するカクテルはもちろん、ランチやデザートなども楽しめます。「ラウンジバー プリヴェ」でバーテンダーとして働く宮下彰さんにお話を伺っていきます。

部下が自分から学べるような環境づくりを意識

 今回のお悩みはこちら。

リーダーとしてみんなを引っ張っていくにはどうしたらいいでしょう?


 昇進してチームリーダーになりました。ですが、うまくチームをまとめられず、空回っています。どうすれば周囲に頼られ、うまくみんなを引っ張っていくことができるのでしょうか? バーテンダーさんがリーダーとして実践していることなど教えてください。

──学生でも社会人でも、リーダーという立場になることはあるかと思いますが、立ち居振る舞いは難しいですよね。宮下さんはどんなことがリーダーとして大切だと思われますか?

宮下さん「やはりコミュニケーションの活性化が1番大切だと思います。リーダー研修などを受ける機会もありますが、そういった研修のなかでも、コミュニケーションに関する部分が一番印象に残ります」

──具体的に、どのようにコミュニケーションをとれば良いのでしょうか?

宮下さん「リーダー研修の中でとても印象に残ったことが“7歳離れると分かり合えない”という話でした。7歳の差があると、価値観などが全く違ってきてしまって、合わないと感じてしまうそうです。それを無理に合わせてもうまくはいかないと思うんです。

 合わせるのではなく、まず自分の価値観を明確にさせつつ、相手の価値観を知ってお互いに理解し合うことが大事だと思います」

──自分の価値観もしっかり持つ、というのはリーダーとしては大切なことかもしれませんね。

宮下さん「そうですね。もちろんお互いのことを理解し合わなければ良い環境は作れないと思うので、若手スタッフも発言しやすい雰囲気を作ることは心がけています。なるべくポジティブに物事を進めていくことが大事だと考えています」

──ポジティブな雰囲気があると、思っていることを発言しやすいというのはありそうです。

宮下さん「はい、なので何か伝えるべきことがあっても、あまりマイナスな発言はしないようにしています。例えば、スタッフの接客の態度があまり良くなかったとき、良くない点をただ注意するだけではマイナスな雰囲気だけが印象に残って、本当に伝えたいことがきちんと伝わらないのではないでしょうか。

 なので、そういったスタッフには“良い接客”というのを自分で実際に体感してもらうことが大事だと思っています。例えば他のホテルで素晴らしい接客をしているホテルへお客さんとして行ってみることを勧めてみたり。頭ごなしに注意するよりも、良い接客を体感することで自然と価値観をアップデートしてもらうことができるのではないかと思います」

──なるほど、頭ごなしに注意するのではなく、本人が自分で学べるように意識されているんですね。

宮下さん「部下が“自由に育つ”というのが私の理想です。口で注意するだけでなく、良い接客を見て感じてもらうというのも1つの方法だと思っています。

 それから、営業中に店内を回ってテーブルの状況を見ている“フリ”もよくしますね」

──“フリ”というと…?

宮下さん「私が店内を回り始めると、スタッフが自分から、お代わりを聞きに行かないといけないのでは、お皿を下げないといけないのでは、と考え始めるんです。そこでスタッフが自分から動いた時には、『よく気が付いたね、ありがとう』と褒めるようにしています。上司が直接指示しなくても、部下が自分で考えて動けるような環境づくりがリーダーとして大切なのではないでしょうか」

 頭ごなしに指導するのではなく、部下が自主的に考えるきっかけだけ作って、自由に育っていってくれるような環境を作る。宮下さんのようなバーテンダーのお仕事に限らず、あらゆる場面で役に立ちそうなアドバイスをいただくことができました!

カクテルコンペでの受賞歴多数の確かな実力

 宮下さんがバーテンダーの道を志したのは、ホテルの専門学校に通っていた学生時代。入学当時は、バーテンダーという仕事に興味はなく、ハウスキーピングの仕事を目指していました。当時演劇をやっており、演劇の脚本を書く上でさまざまな人の人生に触れられて想像力を広げられる仕事を考えた時に、ハウスキーピングがピッタリなのではと考えていたと言います。

 学校の実習で訪れたパレスホテルのラウンジバーで、宮下さんはバーの仕事に初めて触れることになります。当初は、バーテンダーに対して“ただカッコつけてお酒を出している”“チャラい”、というようなイメージを持っていたそう。ですが、初めて生でバーテンダーの仕事を目にして、無駄な動きがなく洗練され、丁寧な接客をする様子に驚き、一気に憧れを持ったと言います。

 学生時代の実習をきっかけにバーテンダーを志し、今の建物ではなく10階建てだった旧パレスホテル時代の2005年にパレスホテルに入社し、メインバーとなるロイヤル バーに配属された宮下さん。約4年間務め、パレスホテルの改装が始まるタイミングで池袋のホテルメトロポリタンへ出向となり、レストラン業務やバーテンダーとしての業務などを行います。その後、パレスホテルの建て替えが完了し、2012年にパレスホテル東京に戻ったそうです。

宮下さん

カクテルを作る宮下さん

 そんな宮下さん、数多くのカクテルコンペティションでの受賞歴があります。バーテンダーとして働き始めた頃はコンペへ出場したことはありませんでしたが、出向先のホテルメトロポリタンがコンペに参加する文化が強いバーだったことから、自身も参加するようになったといいます。

 そして、最初に参加したコンペでいきなり準優勝。カクテルを味と技術の2部門で審査され、味の評価はトップだったそう。しかし、技術ではなんと下から2番目の評価だったとか! 「コンペにはコンペのルールがあり、それに沿って点を取りに行かなければなりませんが、当初はそれができていませんでした。ホテルメトロポリタン時代の上司にカクテルコンペを研究されている方がいて、いろいろと指導してもらうようになり、大きな学びとなりましたね」と話します。

 その後実力を伸ばしていき、さまざまな賞を受賞。一番大きな賞は2014年の「サントリー ザ・カクテルアワード」でのウイスキー部門最優秀賞受賞です。「コンペでの経験を重ねると、バーテンダーとしての引き出しも多くなっていきます。コンペの出場で得た学びをパレスホテル東京のスタッフたちにも伝えていきたいですね」と話してくれました。

 宮下さんにとって、バーテンダーとしての仕事の1番の魅力は「自分で商品を作り上げることができる」ということだそう。お客様の味の好みや、アルコールの強さなど微妙な匙加減を、お客様と接しながら自分で直接感じ取って反映して提供することができるというのが、バーテンダーならではの楽しみであり、やりがいだと感じているとのこと。

 また、宮下さんは「パレスホテル東京」という場所にも強い思いを持っています。「パレスホテル東京のバーというのは、日本のバーの礎を築いたと言われるほどの場所なんです。パレスホテル東京の伝統を受け継ぐカクテルの1つマティーニの真骨頂は、キリッと冷たい口あたりと鋭角に研ぎ澄まされた冷涼感と言われていますが、初代チーフ・バーテンダーの今井 清が生み出したドライマティーニはお客様の好みを会話や飲み方で推し量り、誰が口をつけても完璧なカクテルを提供していました。多様性があり、多くの人を惹きつけるマティーニを完璧につくることから、いつしか“ミスター・マティーニ”と呼ばれるようになったんです。このような伝統あるバーの歴史を受け継いでいく一員となれることを誇りに思っています」と話します。

 実は、旧パレスホテル時代からのバーテンダーで、唯一現場で働き続けているのが宮下さんなんだとか。「パレスホテルの歴史を伝えていくことは使命だと思っています。パレスホテルでなければ、バーテンダーの仕事はしたいとは思わないくらいです」と、強い思いを教えてくれました。

都心の景色と皇居外苑の緑が融合する美しい風景

 パレスホテル愛の強い宮下さんが現在働く「ラウンジバー プリヴェ」の、「プリヴェ」とは、フランス語で「プライベート」のこと。「充実したプライベートタイムをお過ごしいただく」というのが、お店のコンセプトだそう。「お客様に良い時間を過ごしていただくために、空間づくりや接客、そして料理やカクテルの美味しさや美しさにスタッフ一同こだわりを持っています」と宮下さんは話します。

ラウンジバー プリヴェ

ラウンジバー プリヴェの入り口

 また、プリヴェは大きな窓から見渡せる景色も印象的。皇居外苑のほど近くということで、都会の景色と自然豊かな景色が融合した唯一無二の美しい景色を見ることができます 。

ラウンジバー プリヴェ

大きな窓から素晴らしい景色を眺められます

ラウンジバー プリヴェ

テーブル席もカウンター席もあるラウンジバー プリヴェ。夜は昼間とは違った雰囲気を楽しむことができます

 また、敷居が高く感じられることもあるバーという場所について、初心者はどうすればよいか、宮下さんに聞いてみました。すると、「敷居の高さがあるからこそ、格式の高さが守られているという部分もあるかとは思っています。一歩踏み出してみればホテルバーという違った世界を見ることができるはずです。プリヴェの場合、昼間はラウンジ営業としてアフタヌーンティーやデザートなどの提供もしていて、少し敷居は下がると思います。バーテンダーは昼間にも接客していますので、まずは昼に来てプリヴェを知っていただければ、夜も来ていただきやすいのではないでしょうか」と教えてくれました。

 夜のバー営業は緊張してしまう、という方は、まずは皇居外苑と都心の風景も楽しめる昼間に、訪れてみるのが良さそうです!

花が開くように爽やかで美しい香りのカクテル

 今回も恒例の、相談者にオススメのカクテルをお作りいただきました。おすすめいただいたのは、「ブルーミング」。

ブルーミング

今回いただくのはこちら

 こちらの「ブルーミング」は、2022年にパレスホテル東京が開業10周年を記念して作られたカクテルです 。

 早速いただいてみると、すっきりとした味わいでとっても飲みやすいカクテル。そして、何よりも香りのよさが印象的です。パレスホテル東京オリジナルの日本酒「壱ノ壱ノ壱」をベースに、柚子や桜のリキュールを加えていて、華やかな和の香りが楽しめます。

 また、和の香りだけでなく、「リレ ブラン」というハーブなどを漬け込んだ白ワインも使用していて、和と洋の繊細なハーモニーを味わうことができます。和の要素だけではなく、洋の要素も取り入れたことは、宮下さんのこだわりの1つだったそう。「パレスホテル東京は日本の文化のもとに、海外のテイストも取り入れて今の姿があるので、それをこの一杯で表現しました」と話します。

「ブルーミング」に使用されているお酒

「ブルーミング」に使用されているお酒。一番右がパレスホテル東京オリジナル「壱ノ壱ノ壱」。パレスホテル東京の住所が「丸の内1-1-1」というところからこの名前が付いたそう

カクテル作り

「ブルーミング」は底に沈むピンク色もかわいらしく、印象的。最後にゆっくりと桜のリキュールを注ぐことでこの見た目になります

 花が開くことを意味する「ブルーミング」という名前は、いついらしていただいても、スタッフ一同花を開かせて待っています、という意味でつけたそう。宮下さんをはじめ、パレスホテル東京の皆さんの素晴らしい接客のもと「ブルーミング」を飲めば、きっとリーダーとして花を開かせるための一歩を踏み出す勇気をもらえるはずです!

宮下さん

リーダーとしての環境づくりのアドバイスをくださった宮下さん。ありがとうございました!

 次回もバーテンダーさんの名回答と、美味しいカクテルに期待です!


パレスホテル東京 ラウンジバー プリヴェ
住所:東京都千代田区丸の内1-1-1 6F
営業時間:11:30~23:30 (L.O.)
定休日:なし
電話番号:03-3211-5319


文 / オシミリン(LoveWalker編集部)

大阪生まれ。
趣味は読書と写真を撮ること、おいしいものを食べておいしいお酒を飲むこと。