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OpenAIが重大な岐路に立たされている

2024年08月06日 16時10分更新

文● 田口和裕

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 8月6日(現地時間)、OpenAIのGreg Brockman氏が、年末までの長期休暇を取得すると発表した。同日、共同創業者のJohn Schulman氏がAnthropicへの移籍を表明。さらにPeter Deng氏もOpenAIからの退社が報じられた。これに先立つ8月5日には、OpenAIの共同創業者イーロン・マスク氏がサム・アルトマンCEOらに対する訴訟を再開したことが明らかになった。OpenAIの内部で何が起きているのだろうか。

Greg Brockman氏には復帰の目も

 Greg Brockman氏は、2015年のOpenAI設立時からの共同創業者の一人であり、当初はCTOとして技術面でのリーダーシップを発揮してきた。

 2023年11月にサム・アルトマンCEOが一時解任された際には、Brockman氏も一旦OpenAIを去ったが、その後アルトマン氏と共に復帰。その際、社長兼取締役会議長の座に就いている。

 投稿によればこの休暇は「OpenAIを9年前に共同創業して以来、初めてリラックスする時間」だという。しかし「ミッションはまだ完了していない。私たちにはまだ安全なAGI(汎用人工知能)を構築する必要がある」とも述べており、今のところOpenAIを離れる気はなさそうだ。

John Schulman氏はAnthropicでアライメントの研究へ

 強化学習の分野で重要な貢献をしてきたJohn Schulman氏は、OpenAIの共同創業者の一人であり、直近ではチーフサイエンティストとして在籍していた。

 声明によると、氏はAIアライメント(AIの安全性と人間の価値観との整合性確保に関する研究)への取り組みを深め、より直接的な技術業務に戻るためにAnthropicへの移籍を決意したという。

 氏は「OpenAIがAIアライメントに注力しないことが(移籍の)原因ではありません。むしろ、会社のリーダーたちはこの分野への投資に非常に熱心でした」とも述べている。

 さらに、「OpenAIは私がいなくても繁栄し続けるでしょう」と述べ、特にポストトレーニングチームとアライメントチームが優秀な人材とリーダーシップの下にあることを評価している。

Deng氏に関しては情報が少ない

 プロダクト担当副社長(VP of Product)を務めていたPeter Deng氏は2023年に入社したばかりの比較的新しい幹部であり、主に製品戦略と開発を統括する重要な役割を担っていた。

 氏は、OpenAIに加わる前にメタ、Uber、Airtableなど、シリコンバレーの大手テック企業で製品開発のリーダーシップを発揮してきた経歴を持つ。特にメタ在籍時にはInstagramやメッセンジャーなどの主要製品の開発に携わり、ユーザー体験の向上に貢献したことで知られている。

 OpenAIでのDeng氏の具体的な成果や、退社の理由については公式な発表がなく、詳細は明らかになっていない。また、Deng氏自身もSNSなどで退社について公的なコメントを発表していない。

 Deng氏の退社は、Greg BrockmanやJohn Schulmanらの離脱と同時期に報じられたが、三者の決定が直接関連しているかどうかは不明だ。

AIの安全性や倫理で意見の相違か

 OpenAIでは、今回の3人の退社以前にも主要メンバーの退社が相次いでいた。

 2023年11月、スーパーアライメントチームのリーダーであったIlya Sutskever氏が退社を発表。氏は共同創業者の一人であり、長年にわたってOpenAIの技術開発を主導してきた人物だった。

 同じく11月には同チームの主要メンバーであるJan Leike氏も退社を表明。12月には、世界的に著名なAI研究者であるAndrej Karpathy氏もOpenAIを去った。

 さらに、AI安全性や倫理の分野で重要な役割を果たしていたDaniel Kokotajlo氏とCullen O'Keefe氏も、2023年中に退社している。

 これらの相次ぐ退社は、特にAIの安全性や倫理に関わる研究者や技術者の間で目立っている。各個人の退社理由は様々だが、AI開発の急速な進展と、それに伴う倫理的・社会的課題への対応方法について、組織内で意見の相違があった可能性が指摘されている。

マスク氏、再びアルトマン氏を提訴

 そして2024年8月5日(現地時間)には、OpenAIの共同創業者の一人イーロン・マスク氏がOpenAIとサム・アルトマンCEOに対する訴訟を再開したことがロイターによって報じられた。

 訴訟の内容は、OpenAIがマイクロソフトに対して付与したAIモデル使用ライセンスの無効化を求めるもの。マスク氏は、このライセンス契約がOpenAIとマイクロソフトのパートナーシップの範囲を逸脱していると主張している。

 マスク氏は訴状で、OpenAIが利益と商業的利益を公共の利益よりも優先させていると非難。特にアルトマン氏が「物語を覆し、この技術を一般に販売することで利益を得ようとしている」と批判している。

 この訴訟は、マスク氏が2024年2月に提起し、6月に理由を説明せずに取り下げた訴訟と類似している。今回の提訴は、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に行なわれた。

OpenAIは重大な岐路に立っている

 一連の退社劇とマスク氏による訴訟再開は、OpenAIが重大な岐路に立たされていることを示唆している。

 研究者たちの相次ぐ退社は、創業時の理念であるAI安全性やアライメントへの注力が、急速な技術発展と商業的成功の追求の中で揺らいでいる可能性があることを示している。

 マイクロソフトとの緊密な提携関係も、OpenAIの方向性に大きな影響を与えていると考えられる。マスク氏の訴訟は、OpenAIが利益優先主義に傾いているという懸念を明確に示している。

 OpenAIは今、AI技術の急速な発展と商業的成功の追求、そしてAI安全性への取り組みという、相反する要求のバランスを取ることを迫られている。

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