エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩 第22回

普段は入れない横浜・山下ふ頭の4号上屋で開催中のアート・イベント「アート・スクイグル」は参加型の一緒に楽しむお祭りだ

文●写真●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 初開催となる現代アートフェスティバル「Art Squiggle Yokohama 2024(アートスクイグルヨコハマ 2024)」が2024年7月19日、横浜・山下ふ頭にて開幕した(〜9月1日。45日間)。「Squiggle(スクイグル)」という言葉は「まがりくねった/不規則な/曲線」という意味を持つ。アーティスト、コレクティブなど総勢16組による作品が展示され、その内8組が本イベントのための新作だ。会場は普段は入れない山下ふ頭の「4号上屋」。巨大な躯体を支えるトラス構造の建築は、昭和の建築技術の粋を集めた圧倒的なスケール感の内部空間を持ち、日本の高度経済成長を支えてきた時代のアイコンであり、現代アートとの共鳴が刺激的。筆者も、この特別な空間で展開するアートの現場の内覧会(2024年7月18日)に駆けつけた。

山下ふ頭・4号上屋の会場

筆者

 「Squiggle(スクイグル)」という言葉は、直線的でなく予測不能な動きや形状を表すことから、アーティストが創作活動中に経験する迷いや試行錯誤のプロセスを象徴しているといい、コンセプトは「やわらかな試行錯誤」。作品自体だけでなく、アーティストの制作過程に注目し、発想の原点や素材なども展示されている。また、同様に観客も参加型で受け身ではない能動的なかかわりが持てるように、ワークショップや制作への参加が多く用意され、各アーティストの資料を自由に持って行って自分で「アーティスト・ノート」を製本できるようにされている。

 公式サイトには「アートを形にするということは、決して一直線に進まない道のりです。そして、このことは私たちの日々の試みにも当てはまるのではないでしょうか。迷ったり、立ち止まったり、失敗をすることは、誰もがたどる人生の道筋であり、自身の個性を磨き上げていくプロセスとも言えるはずです。「Art Squiggle」は、「スクイグル」をコンセプトとした体験を通じて、アートが私たちと共に歩む存在だと来場者に感じていただくことを目指しています」と説明されている。

 展覧会やアートフェス自体、鑑賞者も基本能動的に参加しているものだが、今回の展示では、より強く、制作者や観客、さらには、空間デザイン、什器まで見えやすくして、結果としての作品と同時に、その「営み」を見せたいということが分かりやすい。会場外のテントでの音楽イベント「Sound Squiggle」や移動型ミュージアムMOBIUM(モビウム)もその狙いに沿ったものだ。複数の書店がセレクトした書籍100冊が読めるライブラリーやラウンジなど、コミュニケーションや休息の場所にも力が入っている。

内覧会にて。主催の株式会社マイナビ執行役員の落合和之氏(写真中央)、同イベントプランニング部部長・細野ゆりか氏(左から2人目)、ディレクターの株式会社MAGUSの戸倉里奈氏(左端)、空間設計のDAYS.西尾健史氏(右から2人目)、グラフィックや什器デザインなどアートディレクションの山口萌子氏(右端)

内覧会当日の夜、オープニングレセプションの様子。会場外のテント会場で。写真は公式写真より。沖野修也(KYOTO JAZZ MASSIVE/KYOTO JAZZ SEXTET)

DJ SARASA

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会場の様子

 アートスクイグル実行委員会によると見どころは以下の5点。

見所1:来場者がつくる「音や振動で動く自動演奏楽器」ワークショップ
見所2:体験型ワークショップ「アイロンビーズで作るピクセルアート体験」
見所3:会場内最大規模Japan Photo Award 受賞者 川谷光平インスタレーション
見所4:西尾健史・山口萌子によるアーティストヴィジョンに寄り添った空間設計
見所5:手作りソーセージ「HAIROLE」などのフード&ドリンクキッチンカー出店

■参加アーティストと作品

山田愛《流転する世界で》(2024)

 2020年から制作している〈円相〉シリーズを大きなスケールのインスタレーションにするという2年近く構想していたプラン。実際に会場に砂を敷き石を並べている。山田は江戸時代に創業し約300年続く石材店に生まれ、現在は父が7代目で。「実際にお墓の聖地として使用された玉砂利をいただき、何度も洗って、汚れを拭いて、本来の美しさを取り戻した石を無心で円形に据えていく、という作品です」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1992年京都府生まれ。社寺建築や墓石を手がける石材店に生まれ育つ。2017年、東京藝術大学大学院美術研究科先端藝術表現専攻修了。石やドローイングを用いたインスタレーションを主な手法とし、根源的な地点へ誘う鑑賞体験を目指す。主な展示に、「瀬戸内国際芸術祭2019」(高見島、香川、2019)、「第26回岡本太郎現代芸術賞」(川崎市岡本太郎美術館、神奈川、2023)、「ARTISTS’ FAIR KYOTO」(京都新聞社ビル地下、京都、2024)など。

河野未彩《HUE MOMENTS》(2024)

 光=色と、そこから生まれる影、変化する色相という現象自体をコンセプトにした作品。赤緑青を基礎とした光源を設置し、シンプルなオブジェクトに多方向から光を当てる。同じ瞬間はほとんど生じない。「三原色の光と影は大学時代の2005年からプロジェクトのテーマにしていました」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1982年神奈川県生まれ。視覚ディレクター/グラフィックアーティスト。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、現象や女性像に着目した色彩快楽的な作品を多数手がける。多色の影をつくる照明「RGB_Light」は、日米特許取得から製品化までを実現。

GROUP《港/Manicured Cactuses》(2024)

 建築コレクティブ・GROUPは、サボテンを見つめることで、テーブルや棚の一部として採用し、新しい家具の構造物としてサボテンを提案している。「かつて日本の玄関口であった港という場所に絡めてどんな話ができるか思いを巡らせました。サボテンも16世紀に渡来品として港を介して日本に伝わりました」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:建築プロジェクトを通して、異なる専門性を持つ人々が仮設的かつ継続的に共同できる場の構築を目指し、建築設計・リサーチ・施工をする建築コレクティブ。 「海老名芸術高速」(2021)「新宿ホワイトハウスの庭の改修」(2021)「Involvement/Rain/Water passage」(金沢21世紀美術館、石川、2023)「手入れ/Repair 」(WHITEHOUSE、東京、2021)など。

小林健太《smudge》(2013)、《Tokyo Débris》(2022)、《Nihilistic glitter,Broken Mirror》(2021)

 「展示会場からインスパイアされて自然と湧いてきたテーマは『スタジオ』です。実際はスタジオを持っていなくて、パソコンの中の仮想空間を想像上のスタジオとして見せたいと考え、作品を整然と並べるというより、雑然とアイデアが散らばっている感じにしています」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1992年神奈川県生まれ。写真家、アーティスト。立体、パフォーマンス、CG、VR、NFT、ファッションなどメディアを横断しながら写真表現を拡張する。主なグループ展は、「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」(水戸芸術館、茨城、2018)、「COMING OF AGE」 (パリ、フォンダシオン・ルイ・ヴィトン、2022年)など。サンフランシスコアジア美術館に作品が収蔵されている。

宇留野圭《17の部屋・耳鳴り》(2021)、《26の部屋》(2023)、《9の部屋》(2023)、《Good Night》(2023)

 「新作ではないですけど、複数の作品を集めてインスタレーションとして新たな空間をつくります。通底するテーマがありながらも作品ごとに少しづつ内容が変化しているので、それらをまとめて見せることでひとつの世界観をが提示できたらいいな」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1993年岐阜県生まれ。2023年、名古屋芸術大学 大学院美術研究科修了。部屋や洗面台などの身近なモチーフを元に、機械の構造を用いた立体作品や舞台装置の様なインスタレーション作品を制作している。2023年、 ARTIST’S FAIR KYOTO 2023 マイナビART AWARD 最優秀賞受賞。主な個展に「予期せぬ接続」(FOC、石川、2024)、「KEY WAY」(BankART Under35)(BankART Station、神奈川、2023)など。

沼田侑香《Surfing the Net to the Moon》(2024)

 「そんなときに偶然アイロンビーズをおもちゃ売り場で見つけ、大きな作品を作ったら絵になるんじゃないか?と考えました」「集大成というか、今までやってきたことを全て詰め込みたいと考えています。今回のモチーフは、小学生のときのパソコンの授業で使用していたWindows XP」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1992年千葉県生まれ。2019~2020年ウィーン美術アカデミーに留学。2022年、東京藝術大学大学院修了。アイロンビーズを用いて描くイメージはピクセル画を連想させ、新次元における表現方法を展開する。「Sapporo Parallel Museum」(北海道)、「USHIKU REDESIGN PROJECT」(千葉)など、プロジェクトベースの展覧会や地域活性プロジェクトにも参加している。

中島佑太《今日の遊び場》(2024)

 「《今日の遊び場》という今回の作品は、石を砕き砂に変える作業を過程を手作業によって行い、砂場を作るワークショップです」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1985年群馬県生まれ。2008年東京藝術大学美術学部卒業卒業。大学卒業以後、一貫してワークショップを用いた活動を続けているアーティスト。ルールやタブー、当たり前だと考えられていることなどに関心を持ち、遊びや旅といった軽やかなテーマを通してその書き換えを試みている。近年は、保育施設で活動を拡張し、子どもたちやその周りにいる大人たちとの関わりから見えてくる社会の問題や課題をリサーチしながら、芸術と遊びの融合を模索している。

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 会場を入ってすぐの中心部に広がるスペースは、建築、テクノロジー、ジェンダー、アーカイブ、働くこと、絵本など、さまざまなテーマに紐づく本を集めたライブラリーになっている。選者は個性あふれる6つの書店とORDINARY BOOKS、アートスクイグル実行員会。それぞれの視点でイベントテーマ「スクイグル」を解釈しながら選書した。本を読んだり、話し合ったりする家具も多く用意され、個性的な空間になっている。

光岡幸一《Hyahbling Star》(2024)

 「山下ふ頭に下見に来たとき、倉庫の内部も広々して良いなと思ったのですが、むしろ、そこから外に出た瞬間の光景のほうが印象的でした。船のある海の風景や、鵜や鴨、ウミネコなんかの鳥がたくさん飛んでいて、なんだかこっちもいいなという気持ちになったんです」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1990年愛知県生まれ。名前は、字がすべて左右対称になる様にと祖父がつけてくれて、読みは母が考えてくれた。(ゆきかずになる可能性もあった。) 宇多田ヒカルのPVを作りたいという、ただその一心で美大を目指し、唯一受かった建築科に入学し、いろいろあって今は美術家を名乗っている。矢野顕子が歌うみたいに、ランジャタイが漫才をするみたいに、自分も何かをつくっていきたい。一番最初に縄文土器をつくった人はどんな人だったんだろうか?

川谷光平《Installation model,2024》

 いくつかの新作のほか、パーソナルワークやクライアントワークで撮影し、とうじは選ばなかったアザー写真や資料写真を含む膨大なカットのなかから選び直した写真が並ぶ。「普段であれば選ばない少し不完全に感じるものも『スクイグル』というテーマにのっとり、視点を変えることで作品になり得ることに面白味を感じています」(アーティスト・ノートより)。

プロフィール:1992年島根県生まれ。 東京を拠点に活動する写真家。近い距離感から色鮮やかに被写体を捉える独自の作風が国内外から注目を集める。2019年、JAPAN PHOTO AWARD シャーロット・コットン賞受賞。2021年、Kassel Dummy Award 2020で日本人初の最優秀賞を受賞した作品『Tofu-Knife』を出版。グループ展「BOOK_SPACES、2023」(Museum für Photographie Braunschweig、ドイツ)に参加。

移動型ミュージアムMOBIUM(モビウム)

 大型バスをベースとする、移動を主体とした表現の場。MOBIUMの制作プロジェクト「YOKOHAMA HACK CAMP」の一環で行われるワークショップとして、今回は、山下ふ頭の風や日光などの環境情報にフォーカスし、横浜の民話をもとに外界の環境音や風などの振動によって動作して音を物理的に発生させる自動演奏楽器の制作を行う。 参加者には使用ツールキットとして、STEM教育などで使用されているM5StickC(音や振動に反応する専用プログラムをあらかじめ書き込んだもの)を渡し、イベント会場で作品を制作する。作品がワークショップ内で完成しない場合は、2週間の猶予期間を設けて自宅で作品として完成させた後に、MOBIUMバス内外で展示される。

■フードトラック&オフィシャルドリンクバー

 アルコールでは、横浜市内で最も長い歴史を持つローカルビアカンパニーの「横浜ビール」や、90年の歴史を持つ台湾最大のビール・ブランドの「台湾ビール」がラインナップされている。「横浜ビール」からは飲みやすいIPAや柑橘の香りが爽やかなピルスナーなどビール各種が、「台湾ビール」からは台湾でも大人気の「マンゴー(香郁芒果)」、「パイナップル(甘甜鳳梨)」をはじめとした台湾フルーツ果汁がたっぷり入ったフルーツビールが楽しめる。

 筆者は日本で一番小さな、一番海に近い自然派ワインの都市型蒸留所「YOKOHAMA WINERY」の「Cidre フジリンゴ」を飲んだ。酸味が酷暑に気持ちいい。

■週末限定開催のSound Squiggle(サウンド・スクイグル)

 開催期間中の7月27日(土)・28日(日)と8月10日(土)・11日(日)、来場者は展示への入場チケットのみで、注目のアーティストが出演する「Sound Squiggle(サウンド・スクイグル)」のライブ・DJセットに参加出来る。横浜港を臨む開放的な屋外スペースに設置された大型テント「スクイグルパーク」内で、音楽を楽しめる。4日間のミュージックパフォーマンスに参加するアーティストラインナップは公式サイトで確認を。

ラインナップhttps://artsquiggle.com/music

■「Art Squiggle Yokohama 2024」開催概要

【タイトル】
Art Squiggle Yokohama 2024 (アートスクイグルヨコハマ 2024 )

【サブタイトル】
やわらかな試行錯誤 — 芸術とわたしたちを感じる45日間 —

【会期日時】
2024年7⽉19⽇〜9⽉1⽇(45日間開催)
平日・日・祝日 11:00-20:00(19:15 最終入場)/金・土  11:00-21:00(20:15 最終入場)
※8月5日は11:00-21:00(20:15 最終入場)となる。

【開催地】
横浜山下ふ頭(神奈川県横浜市中区山下町)
※電車:みなとみらい線元町・中華街駅4番出口より徒歩15分
※バス:ベイサイドブルー 山下ふ頭、終点下車

【入場料】※前売り:来場日前日23:59までの購入が対象。

・一般前売り 2,200円/当⽇ 2,400円
・⼤学⽣、⾼校⽣ 1,500円
・横浜市⺠割 前売り 2,000円/当⽇ 2,200円
※中学⽣以下無料(入場時に受付にて学生証提示)。大学生、高校生は入場時に受付にて学生証提示。
※障がい者⼿帳を持っている人と介護の⽅1名は無料。
※横浜市⺠割:横浜市内在住者(入場時に受付にて要証明)は⼀般料⾦より200円割引。

【チケット販売】
ArtStickerにて販売中
販売URL https://artsticker.page.link/ART_SQUIGGLE_YOKOHAMA_2024

【公式サイト】
https://artsquiggle.com/

【公式SNS】
Instagram @artsquiggle_official