高層ビルや歴史的建造物など、丸の内の建築群を現場のレポートを交えながら紹介する連載「丸の内建築ツアー」。今回はすでに解体されており、「手すり」のみが残されている「東京銀行協会ビル」を紹介していきます。
歴史的建造物「東京銀行協会ビル (旧東京銀行集会所)」の誕生
1916年の丸の内エリアが「一丁倫敦」と呼ばれたレンガ造のオフィスビル街から、「一丁紐育」と呼ばれる鉄筋コンクリート造のオフィスビル街に生まれ変わる時代に、松井貴太郎による設計の「東京銀行集会所」が竣工しました。2階建てのモダンルネサンス様式の煉瓦造近代建築物で、東京銀行協会の集会施設として利用されていました。
建物コーナー部分の塔や青銅色の屋根、レンガや田の字窓がレトロな雰囲気を出し、イギリスのヴィクトリアン・カントリーハウスのイメージを持つ優美な建築として知られていました。
1回目の再開発で超高層ビルに組み込まれた歴史的建造物
東京銀行協会の集会施設として、第二次世界大戦も乗り越え、竣工から70年ほど経った1985年頃、老朽化やスペース不足などの理由から建て替え計画が始まります。そして建て替え計画が世の中に公表されると、文化庁や日本建築学会などから保存要望がなされ、完全なスクラップ&ビルドが当たり前だったバブル期には珍しく、1989年に皇居沿いや建物内部の保存が決定しました。ちなみに丸の内エリアでは、超高層ビルへの建て替えで初めて歴史的建造物を保存する動きになり、これ以降、日清生命館+大手町野村ビルや第一生命館+DNタワー21や日本工業俱楽部会館+三菱UFJ信託銀行本店ビルなど、丸の内エリアに次々と歴史的建造物と超高層ビルが融合した歴史のハイブリッド建築が誕生していくことになります。
1990年9月に既存建築物解体着手、1991年4月に着工、1993年9月に旧東京銀行集会所を組み込んだ「東京銀行協会ビルヂング」が竣工します。地上20階、地下4階、高さ88.2mの超高層オフィスビルの皇居に面した西側から南側にかけて、レンガ風の外観が現れ、丸の内に歴史的建造物の保存活用と土地の高度利用の両立が図られた新たなスタイルの超高層ビルが生まれました。
2回目の再開発で消えた歴史的建造物
歴史的建造物+超高層ビルという新たな流れを生んだ「東京銀行協会ビルヂング」ですが、2014年11月に「みずほ銀行前本店ビル」、「銀行会館」、「東京銀行協会ビル」を一体的に建て替える「(仮称)丸の内 1-3 計画」が浮上します。
東京銀行協会ビルの東側に建っていた「みずほ銀行前本店ビル」は、建築家・村野藤吾設計の地上15階、地下5階、高さ69mのオフィスビルで、赤褐色の鏡面仕上げの御影石張りとした外壁や仲通りに面する東面や南面に設けられた縦型のスリット窓、北側の永代通り側にあった道灌堀を避けるかのように設けられた低層部のキャンチした独特なデザインが特徴のビルでした。
「みずほ銀行前本店ビル」、「銀行会館」、「東京銀行協会ビル」と、歴史的建造物や独特な外観デザインのビルや昭和の高度経済成長期のビルは解体され、新築される超高層ビルは2018年1月15日に着工、2020年9月30日に竣工しました。
新たに竣工したビルは、地上29階、地下4階、高さ149.70mの超高層オフィスビルと地上10階、地下4階、高さ56.65mの商業施設が入る低層棟から構成される「みずほ丸の内タワー・銀行会館・丸の内テラス」となり、全面ガラス張りの近未来的な外観に、新たに地下歩行者ネットワークの構築や「丸テラ広場」や「和田倉小径」などの広場空間が整備されました。
再開発によって最新鋭の超高層オフィスビルに生まれ変わりましたが、以前のような歴史の重みを感じられる建物は消えてしまい、唯一、皇居側の車寄せ出入口に東京銀行協会ビルヂングの窓にあった「手すり」のみが移築、保存。静かに鎮座していました。
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