【前編】東映アニメーション 平山理志プロデューサーインタビュー
なぜ『ガールズバンドクライ』は貧乏になった日本で怒り続ける女の子が主人公なのか?――平山理志Pに聞く
2024年08月03日 15時00分更新
昔のアニメは当たり前に「負の感情」を描いていた
僕らも「ぬるい」ことはできない
―― 仁菜がいつも何かと戦っているようなマインドで描かれていて、そこが興味深かったです。背景や意図などはありますか?
平山 今のアニメ作品では、普通の人が抱える負の感情に焦点を当てることがあまりありません。僕は花田さんのシナリオを読んで、その点にも惹かれたのです。仁菜に限らず、若いときはさまざまなものに対して腹を立てるじゃないですか。「みんな死ね」とか普通に思ったりします。
僕が子どもの頃は、そんな普通の人が持つ当たり前の負の感情を当たり前に描くアニメ作品がたくさんありました。たとえば富野由悠季監督や高橋良輔監督も描いています。なら、僕らも「ぬるい」描き方はできないなと。
せっかくオリジナル作品を作るのなら、観た人が単に楽しかっただけでなく、何かグサッときたり、「今後どうやって生きていこうかな」みたいなことまで考えたりできるような作品を作りたいのです。
『ラブライブ!』のときは、観た人たちが明日を生きる活力をもらって元気になってくれれば良いな、という思いですごく明るい話にしたのですが、今回は世の中が暗い方向に変わってしまったので、仁菜たちの感情のエネルギーに共鳴してもらうなど、違う形で背中を押してあげられるような話になったら良いなと。
「東京の家賃払える?」リアリティーを追求したら川崎になった
―― 仁菜が住む舞台を川崎に設定した理由は?
平山 バンドもので女の子が上京するお話にすることは最初に決めていたので、まずは東京23区内で舞台を考えていたのですが、どこもピンと来なかったのです。
そこで横浜にも何回か足を運んだものの、華やかでロックバンドとは何か違うなと。そんなとき偶然読んだのが『ルポ 川崎』(磯部涼/サイゾー)という本でした。川崎の臨海部に不良少年たちがいる背景や、ラップという音楽表現によって上を目指していく、といったことが描かれていて興味深かったのです。
音楽を手がかりに這い上がるというのはこの作品に合っているかもしれないと思い、主要スタッフで行ってみたところ、JR川崎駅を降りた途端、「音楽のまち・かわさき」という垂れ幕がバーンと。
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ルポ 川崎磯部 涼サイゾー
―― なんと!
平山 しかも駅前にはストリートミュージシャンがたくさんいて、楽器屋さんもいっぱいある。音楽活動がしやすい環境なのです。住環境も良くて、緑も多いですし、結構住みやすい街で、これは色々ピッタリだと思いました。みんなも一発で「ここだ、ここにしよう!」って。
―― 桃香が仁菜に「家賃いくら?」と聞くシーン、あれもリアルでした。
平山 家賃の安い場所があるというのはすごく良いなと。多摩川を渡ると家賃の相場が変わるのです。2020年当時、川崎の不動産屋さんに行くと、3万円台からマンションに住めました。
これならお金のない若い女の子でもギリギリ暮らせます。上京してバンドをやる女の子にすごくリアリティーを持たせられる街だと思ったのです。
花田さんが書いてくださった第1話のシナリオには、桃香が仁菜に「家賃いくら?」「どうやって暮らすの?」と聞くシーンがあって僕も感動しました。知らない街に来て一人暮らしする仁菜の心細い様子とか、上京したときのリアリティーがものすごく伝わってきて。
地に足がついた話にする、地に足がめり込んだぐらいの感じで作るためには、土地というリアリティーが必要だと思いました。
多国籍な川崎の今を反映したルパ
―― 実際の場所を描くことで、地に足のついたリアリティーを出したのですね。
平山 川崎を舞台にした理由はもう1つあります。現在は国籍も多様になってきていますので、それも描かなくてはと思いました。
現在、日本の人口に占める外国人の比率は5%弱です。しかも減ることなく、むしろ増えています。その一方で日本人は減っていますから、このパーセンテージはどんどん上昇するわけです。今は旅行客として外国人を多く見かけますが、今後は地域に根付く方々も増えていくでしょう。
実際、川崎の沿岸部は外国の方が目立つ多国籍な街でした。であれば、ハーフの子がバンドメンバーにいてもおかしくありません。
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