“貧困”という身近に潜む社会問題に正面から向き合った有料放送の挑戦に驚嘆
6月10日に「第14回衛星放送協会オリジナル番組アワード」の最優秀賞が発表され、番組部門 ドラマでは「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」(WOWOWプライム)が受賞した。
同番組は、東洋経済オンラインでの連載が1億5000万PVを突破した中村淳彦による書籍「東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか」をドラマ化したもの。経済誌の契約編集者・雁矢摩子(趣里)が、相棒の風俗ライター・﨑田祐二(三浦貴大)と共に貧困女性たちを取材し、自らの目線や体感を通して、社会の矛盾や貧困問題の巧妙な仕組みを浮き彫りにする社会派ドラマだ。
シングルマザーの摩子(趣里)は、離婚を機に経済誌の契約編集者に復職し、“女性の貧困”をテーマにした連載を担当することに。だが、紹介されたフリーライター・祐二(三浦貴大)の取材態度にいらだち、衝突してしまう。そんな中、国立大学医学部に通うため風俗で働く広田優花(田辺桃子)へのインタビュー記事が炎上。摩子は祐二の反対を押し切り謝罪と記事の削除を優花に申し出るが、本人からの思わぬ言葉に自身の浅はかさと偏見を痛感する、というストーリー。
肉親の介護や、親からの性的虐待、パワハラ・モラハラ被害、再雇用の実状、戸籍と就学の問題などさまざまなケースを取り上げつつ、摩子が取材する中で、自身も貧困が他人事でないと気付く、という展開を見せるのだが、1話分の時間が30分ということもあり、せりふや展開、心理描写に至るまで全てが芯を食った、一つも“遊び”のない構成がリアリズムをもたらし、現代の闇を正面から浮き彫りにしている。
中でも、風俗やパパ活、再雇用の実状、戸籍と就学の問題など、地上波では扱いにくいテーマにもしっかりと向き合うことで、有料放送の強みや社会的意義を示した挑戦がすばらしい。社会からこぼれ落ちてしまった“貧困女子”たちへ「必ず道はある」と暗にエールを贈っているようにも感じられるのは、筆者だけだろうか。
同書がベストセラーとなった2019年からコロナ禍を経て制作されたこのドラマは、より貧困が進んだ現在の生々しい実状と、弱者に厳しい現代社会の一面を見つめると共に、有料放送の矜持とアイデンティティーにも敬意を表したい力作だ。