中規模企業の課題に対し「Elements Cloud」プラットフォームと「Co-Security」サービスを展開
「ミッドマーケットのセキュリティ水準を引き上げる」WithSecure暫定CEOが戦略語る
2024年05月28日 13時15分更新
「サイバーセキュリティ市場の大きな問題は、もともと“大手企業(セキュリティベンダー)が大手企業(エンタープライズ顧客)のために考えて作った”仕組みになっていること。ミッドマーケットの顧客は、あまり良い選択肢がないままで“置き去り”にされている」
フィンランドの法人向けセキュリティベンダーWithSecure(ウィズセキュア)で今年(2024年)4月から暫定CEOを務めるアンティ・コスケラ氏が、2024年5月27日、ヘルシンキにある本社で日本メディアのインタビューに応じ、WithSecureとして中規模企業向けのミッドマーケット市場に注力する理由や、そのための製品/サービス戦略などを説明した。
「セキュリティに対する自信を失っている」ミッドマーケットに注力
2022年のF-Secureとの分社化を経て、現在のWithSecureは「ミッドマーケットの顧客企業にフォーカスしている」とコスケラ氏は説明する。同社が定義するミッドマーケット企業とは「従業員数が200~2000名程度」という規模の企業だ。こうしたミッドマーケット企業では、1人のセキュリティ担当者がすべてを見ているケースも少なくないという。
コスケラ氏は、そうしたミッドマーケットの企業が「現在、デジタルな世界における(自社のサイバーセキュリティに対する)“自信”を少し喪失してしまっている」と指摘する。
ミッドマーケットの企業は、しばしばデジタルなサプライチェーンに組み込まれ、価値の高い情報も持つために、ランサムウェアなどの攻撃ターゲットにもなりうる。しかし、大規模な企業(エンタープライズ)とは違って、ミッドマーケット企業ではサイバーセキュリティ人材を多く雇用することはできず、少数のセキュリティ/IT担当者が対応に当たっているのが実情だ。
こうしたミッドマーケット企業に対して、モジュール型のクラウドプラットフォーム「WithSecure Element Cloud」を統合基盤として、エンドポイント保護(EPP)やEDRといったセキュリティ製品(SaaS)を提供するのが、現在のWithSecureの中心的なビジネスである。「小規模、中規模の企業であっても、優良なサイバーセキュリティにアクセスできるようにしたい」と、コスケラ氏は戦略のその狙いを説明する。
WithSecureの年間売上は1億4280万ユーロ(2023年)規模だが、中でもWithSecure Element Cloudのビジネスは順調に伸びており、2024年第1四半期(Q1)のARR(年間経常収益)は前年同期比で10%の増加となった。また、2023年Q4には分社化後初めての黒字化を果たし、2024年Q1においてもそれを維持している。
なおWithSecureでは、ミッドマーケットへのフォーカスを強めるために、セキュリティコンサルティングのビジネス組織を切り離し、“独立採算”のかたちで運営している。コスケラ氏は、コンサルティングのビジネスは大規模企業が顧客の中心であり、ミッドマーケット向けビジネスとはシナジーが低いと、組織的に独立させた理由を説明した。
生成AIを活用した「Luminen」もミッドマーケット向け戦略のひとつ
ミッドマーケット向け製品としてWithSecureが重視するのが、「高度な自動化」と「“Co-Security”(共同セキュリティ)のサービス」である。いずれも、セキュリティ対策をよりシンプルで簡単なものにして、セキュリティ担当者の人手不足というミッドマーケット企業の悩みを解消することを目的としている。
「高度な自動化」については、統合プラットフォームに生成AIや機械学習の技術を組み込み、提供する。同社は今月、生成AIベースのアシスタント機能「WithSecure Luminen」をリリースしている。Luminenが多数のセキュリティイベントを要約し、対応優先度も付けながら推奨するアクションを具体的に提示することで、セキュリティ担当者の業務をサポートする。
もうひとつの「“Co-Security”サービス」は、人的リソースが不足しているミッドマーケットの顧客企業に対して、WithSecureによる人的な支援サービスを展開するものだ。たとえばEDRの運用においては、24時間×365日のモニタリングや判断が必要になるため、少人数のセキュリティ担当者だけではカバーできない。そこで、Element Cloudというプラットフォームを中心に据えてWithSecureのエキスパートが支援するかたちだ。
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コスケラ氏は、今後もミッドマーケットをターゲットに、Element Cloudプラットフォームで提供するSaaS製品やサービスを拡充していく方針を説明した。WithSecureでは5月28日から年次イベント「SPHERE24」を開催するが、その場でも新たな発表を予定しているという。
「ミッドマーケットにおけるサイバーセキュリティを正しい水準まで引き上げ、ミッドマーケットの顧客企業が期待する“サイバーセキュリティの民主化”を図っていきたい」