◆CD-ROM時代までのカーナビは何かと不便だった
今でこそスマホでも使えるカーナビゲーションシステム、通称カーナビ。昔のカーナビはというと、CD-ROMに地図データが入っていました。全国の道路情報を網羅するにはあまりにも容量が足らなさすぎて、地域ごとに分かれていたり、目的によって複数枚のCD-ROMを入れ替える必要がありました。
その後、DVDカーナビの登場によって大容量のデータが扱えるようになり、情報量に余裕がでてきて地図の内容もより緻密になりました。
ただ、どうしても日々更新されていく道路事情に追いつかず、ことあるごとに買い替えないといけなかったのです。そしてもう1つ、カーナビ自体が車に装備されていたこともあって、出かける前に車の中で目的地やルートを調べないといけませんでした。クルマに乗り込んでから目的地を入力し、ルートを確認して案内開始と、スマホナビ全盛の今からは考えられませんね。
できるなら家の中で事前に調べておいたほうが、家族もクルマに乗ってから微妙な時間を過ごさなくていいのに……と、なんとも言えないもどかしさもありました。
そういう意味では、1995年に登場したハンディナビゲーションシステム「コロンブス GPX-5」は、本体とモニター、GPSが一体化したポータブルナビゲーションの元祖であり、車の外で持ち出せたり、歩きながら自分の位置を確認できるといった便利さがありました。
◆ソニー「NV-XYZ77」はカーナビの「車内に固定」という概念を変えた
そして2004年、ソニーは画期的とも言えるカーナビゲーションを発売します。6.5V型の液晶ディスプレーと30GBのHDDを搭載した、モニター一体型モデル「NV-XYZ77」が登場したのです。なお読み方は、“エックスワイゼット”ではなく“ジィーゼット”と発音します。
付属のカーステーションとGPSアンテナをダッシュボードに設置して、シガーライター電源をソケットに差し込むだけの簡単に取り付け。本体はいつでもカーステーションから取り外して、別のステーションに取り付けられる手軽さで、クルマからクルマへと移動もできます。
ホームステーションに乗せて、自宅でドライブの計画も立てられるというフレキシブルさが秀逸でした。当時のほとんどのカーナビゲーションは、1台のクルマに固定されていたことを考えると、これはかなり画期的でした。
ルートガイド中に特定の交差点に近づくとリアルな3D動画を表示して(XYZモーションストリートガイド)、進む方向を直感的に把握でき、タッチパネルとワイヤレスリモコンの2つの操作が可能で、自分の使いやすい方法でコントロールできるなど、カーナビゲーションとしてもとても優秀だったのです。
ホームステーションはPCと接続できることが最高に便利で、PCにダウンロードした地図データを本体のHDDに転送することで、地図更新が自宅でできました。しかも、必要な地図データを都道府県ごとにダウンロードできるのでとても経済的。ディスク媒体ではこうはいきませんでした。
そしてなんと言ってもうれしかったのは、PCに保存したコンテンツを本体のHDDに転送できること。対応するファイル形式は、音楽ファイルがATRAC3/ATRAC3plus/MP3、動画ファイルがMPEG-1/MPEG-2/MPEG-4、静止画がJPEG/TIFF/Bitmap/PNG/GIF。MP3やMPEG-4が扱えるので、当時としては大容量だった30GBというハードディスクにデータを詰め込んで、車の中でただのナビゲーションでは終わらず、大量の音楽や動画、写真などを見られるのはとても有意義でした。
別売のDVDプレーヤーを接続すれば、「NV-XYZ77」の画面でDVDビデオを楽しめたり、コンパクトフラッシュカード型の通信カードを差し込めば、メールやウェブ閲覧までできるというオプション機能も充実。これが便利なのかという話は置いておいても、持ち運びできてかつ使い道の幅が広くて、ガジェット好きには相当突き刺さるカーナビだったのです!
◆構成は先祖返りしたがHDDは移動できた「NV-XYZ777EX」
その翌年2005年には、「NV-XYZ777EX」が発売。モニター一体型がコンセプトだと思っていたら、一転してモニター部と1DINサイズの本体(カーユニット部)という、すっかり普通のカーナビと変わらない構成に逆戻りしてしまいました。
それじゃ持ち運びできる楽しみがなくなってしまうじゃないか! と憤りたくなる気持ちもありましたけど、やたらスタイリッシュかつ洗練された見た目と、HDDユニットは移動できるという便利さはちゃんと兼ね備えて、これがまた自分のカーナビライフの最高のパートナーとなりました。
先代の一体型ゆえの巨大なユニットではなく、モニターは完全に独立したことでより薄く、そして金属の質感のあるフレームデザインがなんとも洗練されていてカッコいい! 当時のソニーのテレビ(ブラビア)のスタイリッシュなデザインと似たものがあり、6.5型ワイドVGA液晶ディスプレーは車内のインテリアとマッチして、満足度はかなり高いものでした。
もちろんタッチパネルを採用して、画面に指で特定の形をなぞると地図が拡大・縮小するといった全部で8つのジェスチャーコマンドが使えたり、よく使う機能をアイコンとして表示するXYZツールバーなど、車載用としていかに使いやすくできるかということが考えられていました。
3DCGで交差点をナビゲーションする「XYZモーションストリートガイド」については、最上位モデルの「NV-XYZ777EX」には従来比で2倍となる全国1万ヵ所の3DCG表示の交差点データを収録していました。
◆飛躍的な進化を堪能できた最後のモデルかも
肝心のデータの持ち運びはというと、本体からHDDコアユニット部を取り外すことができます。ようするに、モニターはなくなったけど、データの入ったHDDユニットだけを分離して、自宅に持ち込んでPCと接続できるようになったということです。
やることはだいたい同じというか、地図データや音楽、動画、写真データを転送できます。内蔵HDDの容量は30GBと変わらずなのが惜しいところで、数年使っていると物足りなくなってきて、自力で大容量のHDDを買ってきて、分解・換装してコンテンツをこれでもかと貯めこんでいました。
こんなに長く一緒に付き合ったことはないんじゃないか? というくらいには、長らくカーライフのお供となっていました。逆に言えばこれよりもあとに、画期的なカーナビがソニーから発売されなかったのですが……。
今となっては、スマートフォンも普通にカーナビゲーション代わりになれば、サブスクでいつでも好みの音楽も動画も観られるという、とてもいい時代になりました。 でもあの頃の、飛躍的に便利さを享受できた体験というかあのワクワクした気持ちは今も宝物だなとシミジミと思います。
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