1937年4月26日、16時30分、スペイン北部の町ゲルニカ(Guernica)に突如として爆撃機による空爆が行われました。大量の爆弾と焼夷弾が3時間以上に渡り投下されました。逃げ惑う住民への機銃掃射も含む無差別爆撃により、町の70%が破壊され多くの人命が奪われた、一般市民を狙った人類史上最初の惨劇として歴史に刻まれています。
スペイン出身の画家パブロ・ピカソはパリで故国に突如降りかかったこの惨禍を新聞で知ります。怒りに震えた画家は、制作依頼を受けていたパリ万博でスペイン共和国パビリオンの壁を飾る壁画を急遽変更し、「ゲルニカ」を急ぎ描き上げました。
ピカソは後にこんな強い言葉を残しています。
「芸術家をなんとお思いか。画家なら目、音楽家なら耳、詩人であれば心に抒情、ボクサーなら筋肉のほかになにももたない愚か者とでもお思いか。それはとんでもないかんちがい。芸術家はそれだけでなく政治的な存在でもあり、世の中の悲しみ、情熱、あるいは歓びにもつねに関心を抱き、ただその印象にそって自らをかたちづくっている。他人に興味をもたずにすませるはずもない。日々これほど広く深く接する暮らしそのものから、始めた無関心を装って、自らを切り離すことなどできるはずもない。いや、絵はアパートを飾るために描かれるのではない。絵は戦争の道具です。」(『ピカソの戦争《ゲルニカ》の真実』より。)
戦争の惨禍を伝えるピカソ最高傑作「ゲルニカ」は縦・約3.5m、横・約7.8mもの巨大なキャンバスに、業火に苦しみもがく人々や動物が表現されています。派手な色は用いず、モノクロームで統一された画面は犠牲者に対する鎮魂歌のようです。
パリ万博で公開されたのち「ゲルニカ」はイギリス、ノルウェーなどヨーロッパ各国を巡回し多くの人に戦争の悲惨さを伝えました。しかし故国スペインは独裁者フランコが支配していたため、ピカソはスペインでの公開を頑なに拒みました。
「ゲルニカ」は1939年5月にアメリカへ送られ、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴでの展覧会に出展されます。同年9月に第二次世界大戦が勃発したことでヨーロッパには戻さず、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に保管されることになりました。
その後紆余曲折を経て、民主化が実現したスペインに「ゲルニカ」が返還されたのは1981年のことです。「故国の土を踏んだ最後の亡命者」としてプラド美術館所蔵となり、現在は1992年にはマドリード市内に開館した国立ソフィア王妃芸術センターの目玉作品として恒久展示されています。
「ゲルニカ」はこれまで多くの美術館から貸出しの依頼がありましたが、一度も他館、他国へ貸し出されたことはなく、今後も実現は難しいでしょう。実物を観るにはスペインに行くしかありません。しかし、ほぼ原寸大で精巧に陶板複製された「ゲルニカ」を丸の内でいつでも観ることが出来るのです!
ピカソの彫刻作品を多数収蔵している、箱根にある彫刻の森美術館で展示されていた「ゲルニカ」のほぼ原寸大の陶板複製作品が、2004 年に丸の内オアゾのオープンに際し建物のシンボルとして○○広場(おお広場)に設置されているのです。
丸の内オアゾにある「ゲルニカ」のほぼ原寸大複製作品は、大塚国際美術館で展示されている陶板(セラミック)絵画で有名な大塚オーミ陶業の制作・所蔵によるもので、著作権の煩雑なピカソの遺族から正式に許諾を受け作られたものです。
21世紀になった今でも、世界各地で戦争の悲劇が毎日繰り返されています。絵画により戦争の愚かさを伝えんとしたピカソの願いは今もなお実現されていません。丸の内の「ゲルニカ」の前で皆さんはどんな思いに駆られるでしょうか。圧倒的なスケールを誇る名画を前にして思索にふける時間もわたしたちには必要です。
丸の内オアゾ ○○広場
住所:東京都千代田区丸の内1-6-4 1F
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