在りし日の城郭をARで復元できるユーザックシステムの「ええR」
生きたお城を復元したい 開発者が語る「城郭AR」の舞台裏
提供: ユーザックシステム
絵図や写真、古文書、学芸員の話、発掘調査などで城を復元
オオタニ:新聞取材の記事では、西播磨の山城のAR化も手がけているとか。
本岡:明石城は1城だけのアプリなのですが、「西播磨の山城へGO」というARアプリでは10か所以上のお城が1つのアプリで楽しんでいただけるようになっています。
こちらは姫路市の置塩城です。置塩城は、播磨の守護である赤松惣領家の城で、播磨最大級の山城なのですが、今は山に登っても建物はなにもありません。秀吉に攻め滅ぼされてしまったので。
でも、ええRを使えば山全体に渡る城郭を拡大・縮小したり、グリグリ動かして楽しんでもらえます。城の中心の二の丸には屋敷があり、南側には白砂利が敷き詰められた枯山水の庭があるんです。立岩は残っているので、ARと見比べて楽しんでもらうという趣向です。
オオタニ:庭があるということは、住んでいたということですか?
本岡:いざとなったら籠もるという山城ではなく、生活の痕跡がけっこう残っているんです。
オオタニ:なるほど。でも、写真や絵図が残っている江戸期のお城ならともかく、中世の西播磨の山城なんてなかなか資料探すのは大変じゃないですか? 地元の古文書をひっくり返すみたいな話になるんでしょうか。
本岡:おっしゃる通りです。特に西播磨の山城の大半はそういった資料の少ないお城です。だから、依頼を受けて、着手するまではけっこう時間がかかりました。「どうしようか、考え続けて頭真っ白」という状態もありました。地元の市史や城史を探ったり、学芸員さんに話を聞いたり、発掘調査されている場合は、掘り出された遺構を調べることもありました。
山城の場合、全面的な発掘調査は難しいのですが、部分的にでも発掘調査されていれば、生活を知るための証拠が出てきます。たとえば、三の丸と目されている付近で備前焼が出土し、そこにイノシシの肉の痕跡が残っていたら、食料貯蔵庫があったのかなあと。当然、その横には台所があり、井戸もありそうだといった感じで、少しずつ集めていけば根拠にはなります。
オオタニ:単純に完成図を渡されてそれをCGにしているわけではなく、フィールドワークまでやるんですね。ITスキル、妄想力、調査力も必要で、なにより好きじゃないとできない仕事ですね。
本岡:依頼されているお仕事でもあるので、「なぜここに櫓が?」と言われたときに、「いやあ、なんとなくノリで……」というわけにもいかないので(笑)。
山城はいかに現地の地形を再現するかが大きな鍵なのですが、最近は航空レーザー測量が使えるので、10センチ単位の細かいメッシュで測量できます。リアルな山の地形を再現できるので、それだけでもワクワクします。
松永久秀の信貴山城もやらせてもらったのですが、あそこは二つの峯があるんですよね。最初に作ったと言われる天守や、奥の松永屋敷と呼ばれる広大なスペースも再現させてもらいました。
アプリは主役じゃない 地元の歓迎やオフラインでの臨場感もセットで
オオタニ:そもそも西播磨はどういうきっかけでスタートしたのですか?
本岡:兵庫県と岡山県の間にある西播磨って、姫路城を見た人がそのまま岡山にフルーツを食べに行ってしまうので、観光的にはすっ飛ばされてしまうエリアなんです。でも、西播磨は山城が多いので、これをなんとか活かせないか?ということで、お城好きの首長と盛り上がった結果、各市町村のお城をAR化するプロジェクトになりました。置塩城もこのうちの1つです。
オオタニ:地元とがっつりタッグを組んだプロジェクトなんですね。
本岡:はい。西播磨の山城へGO は「西播磨山城復活プロジェクト」というプロジェクトの一部で、ほかにもいろいろな施策が展開されています。たとえば、山城の整備。「ここだけは見せたいから」ということで、山城エリアの一部の木を伐採したり、切った木でベンチを作ったりしています。また、アプリは地元ボランティアのガイド育成や実際のガイドにも使ってもらっています。デジタルやオンラインの施策に加え、地元を巻き込んだオフラインでの施策まで含めてのプロジェクトになっています。
オオタニ:行政だけではなく、地元の人たちを巻き込んでいるのが素晴らしいですね。
本岡:少なくともこの西播磨では、「自分たちのお城によく来てくれたね~」という感じで、地元の方々も歓迎してくれます。隣のおじいちゃんも、この取り組みを通じて、すっかりお城に詳しくなったので、「次は、いっしょに城に登ろう」と言ってくれます。地元が元気になったという意味では、成功と言えるのではないでしょうか?
オオタニ:観光施策と言うよりは、地元でコミュニティを作るという話かもしれませんね。
本岡:あと、これは西播磨に限らずですが、アプリは主役ではありません。あくまで主役は現地とそこを説明した地元の歴史館や博物館。そこに興味を持ってもらい、現地に誘導するのが私の役割だと思っています。
だから、つねづね「現地に行かないと使えないアプリではダメ」とは言ってます。現地に行きたくなるアプリに仕上げて、足を運んでいただくのが重要。だから3DCGで城郭をグリグリいじるのは、どこでも楽しめるコンテンツ。メインコンテンツだと思いますし、実際に多くの方に利用してもらっていると思います。
オオタニ:なるほど。みなさん手元で動かしたいんですね。
本岡:その上で、現地の二の丸に行くと、さらに門番が見られるとか、いかにも鉄砲で撃たれそうだとか、臨場感を得られるコンテンツを楽しめるようにします。「有名な武将が当時見た眼下の合戦の風景はこれですよ」みたいな感じです。
オオタニ:具体例はありますか?
本岡:南北朝期、足利尊氏が後醍醐天皇に敗れて、九州に逃げる際、勅命を受けた新田義貞の軍を、赤松円心が播磨で食い止めたという史実があります。そのとき、数万に上る新田軍が眼下に押し寄せる様を、眼下を見下ろした写真にCGで制作した押し寄せる大軍を合成した画像で見てもらいました。
オオタニ:うわあ、それは南北朝ファンにとっては胸アツすぎますね!
本岡:街の中にある平城ならともかく、山城の場合、現地の地形はそんなに大きく変わりません。現在も見える風景は近いので、当時と同じような体験が可能なんです。
あと、去年やらせてもらったのが、三好長慶の高槻城なんですけど、こちらは発掘調査自体をゲーム感覚で体験できます。三好長慶は戦に強いだけではなく、文化的な素養も高かったので、硯や中国の陶磁器などが出土しています。だから、本丸を歩きながら、アプリを使うと、ザクザクと遺物が掘り出せます。お子さんも楽しんで、宝探しできるんです。遺物には説明も付きますので、遺物からお城の特徴や歴史が学べます。
目指せ全国の城郭のAR化 石高も増やしたい
オオタニ:こうして案件が増えてきたということは、自治体がお城という観光資源に気がつき始めたということですよね。そういえば小田原城や上田城に行ったときも、たいそうなVR・ARコンテンツありました。
本岡:ただ、たいていは作っておしまいなんです。予算を消化したら、そのままメンテナンスを考えず、プロジェクト終わりというところもありますね。
そんな中、日本三大山城と言われる奈良県の高取城のプロジェクトは継続的です。ここは私が最初にAR化させてもらったお城で、置塩城と同じく、山の上に石垣しか残っていません。そもそもマイナー過ぎて、観光客が誰も来ない。だから、そもそも城を知らしめることが目的でした。
ここはアプリに加え、パンフレットを作らせてくれたんです。自治体の作るお城のパンフレットなんて、通常はA4ペライチか、折りたたみくらい。でも、このパンフレットは12ページに渡る立派な冊子で、しかも無料で配っています。
オオタニ:出版社の人から見ても、それは太っ腹ですね。
本岡:今も半年に1回くらいの頻度で増刷して、累計で12~13万部くらい配っているはずです。「アプリもいいけど、パンフレットは素晴らしかった。多くの人たちが読んでくれています」と今もご評価いただいてます。パンフレット作成は決して得意分野なわけではないですけど、ありがたいお声だなあと。
オオタニ:みんなが知らない城をデビューさせるなんて、城郭ファン冥利に尽きますね。今後の本岡さんの野望についても教えてください。
本岡:実は個人的に日本全国の白地図を持っており、お仕事をもらったところは色を塗っています。
オオタニ:完全に「信長の野望」ですね(笑)。
本岡:ちょっとお見せしますが、黄色は県単位でお仕事をいただいているところ、赤は市町村単位のお仕事です。青はここ半年くらいかかっている新規案件です。最近は、長野県や群馬県に足がかりができています。
オオタニ:昨年、長野県に旅行に行ってきたのですが、現地の博物館とか見ると、山城って本当に現地の地形をうまく利用して作られているんですよね。武田氏や真田氏が数々の戦いを繰り返した場所だし、長野県全体で城めぐり作ってほしいです。
本岡:個人的にはちゃんと石高も付けており、この半年で20万石増えています(笑)。
オオタニ:実績が石高単位なんですね(笑)。
本岡:見た目や外観だけじゃなく、やはり歴史的に重要な戦いや出来事があったところはやりたいですね。
オオタニ:楽しみにしています。ありがとうございました!