4K UHD Blu-ray DiscやSACDに対応、欧米で人気のユニバーサルプレーヤー
OPPO難民に朗報、ディスク再生派の救世主? エミライがMAGNETARブランドの取り扱い開始
2024年02月19日 10時00分更新
エミライは2月19日、海外の新進ブランド“MAGNETAR”が開発したユニバーサルディスクプレーヤーを国内で取り扱うと発表した。取り扱う製品の価格や仕様の詳細は後日発表するとしている。
MAGNETARは高品位ディスクプレーヤー製造事業を行う中国のMagnetar Technology Shenzhenの自社ブランドで、2021年に深センで設立されている。“MAXMADE”や“MAXMADE AUTO”の名義で、20年以上の長きに渡り、日系企業のDVDディスクプレーヤーや車載機器のOEMを手掛けてきた企業グループの一員。高級ディスクプレーヤーを市場に提供するために立ち上げられたブランドだ。グループ会社の生産管理、品質管理、アフターサービスは共有。1万m2と広大な敷地に4つのグループ会社が居を構え、自社ビルは6棟保有(うち製造工場は2棟)。従業員数は約3000人だという。
MAGNETARブランドの最初の製品「UDP900」と「UDP800」は、昨年の“HIGH END Munich 2023”で公開し、海外での販売はすでに始まっている。米国、ドイツ、イギリスなど欧米での販売台数が伸びている状況だ。
ハイエンドのユニバーサルディスクプレーヤーをめぐる状況
海外ブランドの高級ユニバーサルディスクプレーヤーというと、OPPO Digitalの製品を思い出す人がいるかもしれない。先に結論を言うと、MAGNETARとOPPO Digitalとは、資本上も人的リソースの面でもまったく無関係のブランドだ。ただし、日本に限らず、各国の輸入代理店がOPPO Digitalの製品を扱っていた経験を持つなど、イメージがかぶる面もある。エミライも、もともとはOPPO Digital Japanとして、OPPO Digital製品の輸入代理店業務やローカライズ支援などを担当していた(2020年4月30日にエミライに事業譲渡/吸収合併)。
エミライの島幸太郎取締役は、「エミライはOPPO Digitalの市場撤退後も製品の修理などのサポート業務を継続してきたが、これも2023年9月に終了。OPPOの撤退が決まった直後から(その後の受け皿となる)高品質なユニバーサルプレーヤーをずっと取り扱いたいと考えていたが、適切なパートナー(ブランド)を見つけられていなかった」と話す。
2018年にOPPO Digitalが市場から撤退した背景には、映像ストリーミングサービスが浸透しディスクメディアを再生する需要が世界的に縮小していくという予測があった。これは正しく、島氏からも「日本でも2021年には有料動画配信メディアの利用率がパッケージ映像メディアを初めて上回り、最新の調査によればパッケージメディアの利用率は17.4%と減少傾向が続いている」という説明があった。その一方で、「17.4%という数字は無視できる数字ではなく、ディスク再生のニーズを改めて実感している」とも話す。
とはいえ、ユニバーサルディスクプレーヤーはライセンス契約や認証取得の手続きが複雑で、開発コストの負担が大きく、継続には一定の規模が求められる。SACD再生機能まで含む4K UHD Blu-ray Discプレーヤーの開発ができる企業は少ない。市場にある様々な映像/音声機器と連携し、様々な形態のソフトを再生する必要があるため、互換性や安定性の担保には、オーディオ機器とは比べ物にならないほど、お金と手間がかかる。その維持にはメーカーの体力が求められる一方で、そのリソースを割く企業は少ない。市場で現在目にするのは、主にエントリークラスで種類も限られた製品のみだ。
ハイエンド機では、主要なターゲットが愛好家やマニア層になるため、ただ開発/製造する能力があるだけではだめで、品質の追究やチャレンジ精神も求められるだろう。状況をさらに困難にしているのは、MediaTekなど、ディスク再生に必須のコントローラー(SoC)の供給元が新規開発を止めており、機能を追加したいと思っても、十分なサポートが受けられない状況である点だ。チップ側のプログラムを書き換えることすらできない状態のため、足りない部分はマニュファクチャーが自社で補っていく必要もある。
OPPOとの経験を生かし、日本市場特有の課題にも応える
こうした状況の中、MAGNETARは“卓越性の追究”をキーワードに、計器のように正確で精密、業界のベンチマークとなる製品を作ることを目指している。そして、顧客の視点に立ち、スムーズで快適な体験を提供する、芸術的な製品を生み出すことを目標に、OEMから自社ブランド製品の開発に踏み切ったブランドになっている。上述した通り、企業体としてはそれを支える規模も持っている。
エミライとしては、市場トレンドや開発環境の変化など困難な状況を向き合いながら、MAGNETARと協力し、高画質・高音質にこだわる、特に国内の顧客ニーズに、長期間向き合える製品の選択肢を提供したいとしている。「海外企業で日本語ができるスタッフもいないOPPO Digitalの製品が日本で受けた理由のひとつは、日本ユーザー向けに開発リソースを割けたことに加え、柔軟に仕様変更ができるハードウェアの仕組みを持ち、新しい規格や仕様に対応できる余力があった」と島氏は話す。OPPO Digitalは「内部のキーコンポーネントを選択するセンスとフィードバックを真摯に受け止める姿勢がある」ことに加え、「ローカライズへの強い意志」があったのだという。
MAGNETARは後発ということもあり、「OPPO Digitalの製品をよく研究している」というが、同時にエミライも過去にOPPO Digitalとの間で積み重ねた経験を踏まえた協力をしていく考えだという。単に製品を取り扱うだけでなく、パートナーとして日本向けにローカライズする際に必要な要望を積極的に投げかけているとする。
実際、日本向け製品のローカライズには半年を掛けているそうだ。OPPO Digital製品に搭載されていた日本語フォントを提供したほか、日本でしか販売されていないディスクの検証、エラーへの対策など互換性/安定性に関係する部分の協力や助言もしていくという。ローカライズに際しては、UIの表示領域に情報が上手く収まるような微調整なども必要になる。日本向け製品のファームウェアは日本専用の仕様でリリースされ、IDで管理して日本専用のアップデートが当たるそうだ。ここは並行輸入品との差別化要素であり、もともと日本語化されていたMAGNETARの製品を日本人の目で見ても違和感がないよう完成度を追い込んでいく作業とも言える。
デジタル機器の市場では、売上規模の縮小やサプライヤーの減少だけでなく、人件費の高騰、部品調達の困難さなどがあり、OPPOのユニバーサルプレーヤーが日本で受け入れられた10年前とは比べものにならないほど厳しい状況とも言える。そのため販売価格が高価になるのは否めないが、ディスクメディアは先鋭化していくなか、マニアの期待に応え、高品位で趣味性のある製品の開発に取り組もうとする姿勢がMAGNETARにはあるそうだ。島氏は「真打登場とまで言えるかはわからないが、これまで地道に黒子をやってきたブランドが手掛ける、歪みから飛び出したような製品」だと評していた。
MAGNETARには、生き残り戦略に取り組み、ディスクという資産を長期にわたって活用したいマニアに向けた取り組みをビジネスとして洗練させていくことが求められる。これはいばらの道であり、世代を重ねた改善が必要な、時間がかかる取り組みでもあるだろう。とはいえ、故障などの懸念も抱える少なくはないOPPO難民に手を差し伸べる製品となりうるかどうかには興味津々だ。