“攻め”の生成AI活用をする企業ほど“守り”のAIガバナンスに注目
PwC、AIガバナンスの道筋を示す政府「AI事業者ガイドライン案」を解説
2024年02月05日 10時00分更新
AI活用の自主的な取り組みを支援する「AI事業者ガイドライン案」の基本理念と指針、どう活用するか
続いて、PwCコンサルティングのディレクターである橋本哲哉氏より、2023年12月21日に公表されたAI事業者ガイドライン案の詳細とその対応、今後の展開について解説された。
日本には、AIに関する3つのガイドラインが存在している。総務省が主導する「AI開発ガイドライン」および「AI利活用ガイドライン」、そして経済産業省が主導する「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」だ。
AI事業者ガイドライン案は、この3つを統合し、日本における統一的な指針を定めることを目的としている。単純な統合ではなく、生成AI等の新技術や諸外国の動向も加味したアップデートを図っており、「今後、日本におけるAIガバナンスのスタンダードになることが期待されている」と橋本氏。
本ガイドラインは、本編と別添に別れており、本編では“どのような社会を目指すのか”という基本理念と、“どのような取り組みを行うか”という指針が示されている。一方の別添では、“具体的にどのようなアプローチで取り組むか”という実践方法が提示され、事業者の具体的な行動へつながることが想定されている。
また、ガイドラインでは、AIの事業活動を担う主体を、AIライフサイクルにおける役割を考慮して、AI開発者、AI提供者、AI利用者の3つに区分している。なお、業務外利用者とデータ提供者はガイドラインの対象外としており、後者に関しては、データを受け取る側が責任を担うという形で整理されている。
ガイドラインの内容に関して、まず本編の第2部“基本理念と原則”においては、内閣府が主導する「人間中心のAI社会原則」を土台に、“人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)”“多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion)”“持続可能な社会(Sustainability)”の3つの価値を基本理念として尊重している。これらは、技術の発展や海外動向などが変化していく中でも普遍的な考えだとうたわれている。
加えて、AIの事業活動を担う主体における共通の指針として、①人間中心、②安全性、③公平性、④プライバシー保護、⑤セキュリティ確保、⑥透明性、⑦アカウンタビリティ、⑧教育・リテラシー、⑨公正競争確保、⑩イノベーションの10項目が挙げられている。
「このひとつひとつは、決して新しいものではないし、記載されている内容についても大きく異を唱えるものではない。ただし、この指針を基として、各主体が重視するべき事項が整理されており、最も重要な土台となる考え方。ステークホルダー全体で、共通化して、認識していくことが重要」と橋本氏。
AIガバナンスの構築についても触れられ、こちらは経済産業省の「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン」を継承したつくりとなる。
ここでは、イノベーションの創出やSociety 5.0を実現するためには、経営層のリーダーシップのもとでアジャイルガバナンスを構築することが重要だとうたわれている。
本編の第3部から5部に関しては、各主体に応じた重要事項が記載され、前述の共通の指針において何を重視すべきかがプロセスごとにまとめられている。例えば、AI開発者における、データ前処理学習のプロセスにおいては、適切なデータ学習は“安全性”の指針に、データに含まれるバイアスへの配慮は“公平性”の指針に対応しており、重要事項を満たすと共通の指針が満たせるよう整理されているのが特徴だという。
また、ガイドラインの別添については、事業者の取り組みを実現するためのTipsやツールが織り交ぜられ、AIシステム・サービスやAIによるリスクの具体例、AIガバナンスの構築における実践のポイントなどがまとめられている。本編の各主体の重要事項に対する解説も示され、具体的な手法を確認できる。
別添には“チェックシート”および具体的なアプローチのための“ワークシート”も用意されている。橋本氏は、「ガイドライン案はどの業種や業態であっても有効な汎用的なものとなっているため、実際の事業に有効活用していくためには、 チェックリストで各主体の取り組みを確認し、ワークシートに落とし込んでいくことが重要」とガイドラインの活用方法を示す。
最後にAI事業者ガイドラインの展望について、「法的拘束力こそないが、日本における統一的な見解を示すことができた意義は非常に大きい」と橋本氏。これまで企業ごとにさまざまなガイドラインを参照してきたが、このガイドラインをベースにしながら、今後の法令や監査の検討が進んでいくことが期待されるという。