日本はなんと恵まれた国なんだ
働かずに生活保護を受けながら、炊き出しなどを利用して食べるものを食べ、路上で自由気ままに暮らすという日常は、たしかに気楽なのかもしれない。そこで、「月7万円で不自由なく暮らせるなら自分にもできるのではないか」と想像を膨らませてみたが、少なくとも私には無理そうだった(当然の話かもしれないけれど)。
そもそも衛生面に耐え難いものがあるし、そうしたことを除いても、「地味でもいいからきちんと働いて、贅沢できなかったとしてもきちんとした家で暮らしたい」という欲求があるからだ。一般人としていたって普通の感覚だと思うが、長らくホームレスを続けていると(あるいはそれ以前からかもしれないが)、「これでいいや」というような感覚が大きくなっていくのかもしれない。
ただし、それも私の考え方でしかなく、もちろん違った生き方があってもいい。
「ホームレスはそこまで困っていないのだから助ける必要はない」と言う人がいれば、それは間違いだ。助けてくれる人がいるからこそ、この生活が成り立っているのだから。
ホームレスになったとしても、本人の気質によっては「健康的で文化的な最低限度の生活」を送ることができるこの日本はなんと恵まれた国なんだと私は路上で考えた。(「おわりに」より)
つまりそんな状況下で、どのような生き方を選択するか、その点については違いが生じても当然なのだ。
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ルポ路上生活國友 公司彩図社
筆者紹介:印南敦史
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。
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