佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第247回
LE Audioの様々な魅力を楽しめるゲーミングヘッドセット
多機能なUSBドングルにも注目、「Creative Zen Hybrid Pro SXFI」を試す
2024年01月07日 13時40分更新
「Creative Zen Hybrid Pro」は、クリエイティブメディアが販売しているLE Audioに対応のワイヤレスヘッドホンだ。直径40mmのドライバーを採用し、ノイズキャンセリング機能を搭載。通話用のブームマイクも装着できるゲーミングヘッドセットである。
LE AudioやLC3/LC3plusコーデック対応のドングル
Creative Zen Hybrid Proには、付属品(USBドングルやブームマイク)などの違いで3モデルがある。価格はいずれもオープンプライスだが、直販価格はヘッドホンのみの「Creative Zen Hybrid Pro」が1万4800円。同Classicが1万9800円、同SXFIが2万2800円だ。
このうちClassicとSXFIには、LE Audioの送信ができるUSBドングル(USB Type-C接続)が付属する。現状、LE Audioで送信できるスマートフォンは限られているので、ドングルを使用してPCやスマートフォンから音を飛ばす仕組みだ。
付属するUSBドングルはClassicが「BT-L3」、SXFIが「BT-L4」と異なる型番で、機能も異なる。BT-L3は一般的なステレオ再生のみだが、BT-L4はクリエイティブの立体音響技術「Super X-Fi」(SXFI)もサポートする。耳を撮影することでパーソナライズが可能となり、専用アプリ「SXFI App」から接続して使用する。SXFIは送信側の機能のため、受信側は必ずしもクリエイティブ製品である必要はない。例えば、アプリ上にはアップルの「AirPods Pro」やボーズの「QuietComfort 20(QC20)」など多種のデバイスがリストアップされている。(編注:BT-L4はZen Hybrid ProのヘッドセットとLE Audioで接続するための付属品で、他製品との接続は公式にサポートされていません)
なお、SXFIの効果は、SXFI Appから送信可能な音楽ファイルのみに適用できる。「Apple Music」などの音楽ストリーミングサービスや「Amazon Prime Video」などの動画試聴には対応していない。つまり、SXFIアプリはパーソナライズ情報と対応ヘッドフォンの情報を元に信号処理をしていると思われる。
ゲーミングヘッドホンは低遅延の実現がポイントになる。ワイヤレスヘッドホンでは、専用ドングルと組みあわせ、2.4GHz帯の独自通信を用いることが多いが、Creative Zen Hybrid Proのポイントは、その実現のためにLE Audioを用いていることだ。LE Audioの遅延は通常50ms前後(60fpsで3フレーム程度の遅延)であることが多く、ゲーム用途ではやや足りない面もあるが、通信安定性をトレードオフにするなど実装によってはさらに低遅延にできるようだ。
以前インタビューした際、Bluetooth SIGのケン・コルドラップCMOは「仕様上はLE Audioでも20ms程度までの低遅延化が可能である」と語っていた。しかし、その場合は再送要求やバッファーの簡素化など通信安定性に目をつぶる必要がある。そこで低遅延モードを設けて通常モードと区別するわけだ。後述するように、Creative Zen Hybrid Pro付属のUSBドングルにもいくつかのモードを切り替えるスイッチが付いている。
USB-CのiPhoneやMacBookでLE Audioを体験できる
デモ機(Creative Zen Hybrid Pro SXFI)を使用してみた。使用中にハウジングが円状に光るのは、ゲーミングヘッドフォンらしいギミックだ。光の演出はなかなか良い。ドングルは「iPhone 15 Pro Max」とM2搭載の「MacBook Air」で利用できた。念のため、各OSのUIからBluetooth Classicのペアリングはしていない。確実にドングルを介したLE Audio接続である。
USBオーディオデバイス(スピーカー)として認識される。iOS 17の場合、「サウンドと触覚」→「ヘッドフォンの安全性」→「USBオーディオアクセサリー」で確認できる。macOS Ventura(13.x)であれば「システム設定」→「サウンド」だ。なお、macOSの「Audio MIDI」設定で確認すると、USBドングルは96kHz/24bit対応のオーディオデバイスとして認識されているのがわかる。
音楽を聴くと明瞭感があまり高くなく曇りを感じるが、楽器音自体は正しく端正に聞こえている。デモ機なのでエージングの影響もあるかもしれない。低音の迫力はかなりある。ドングルを外し、Bluetooth Classicでペアリングし直し、同じ音楽を聴いてみた。楽器音に歪み感が感じられ、音質が劣化して感じられる。やはりLE Audio(LC3コーデック)は、音質の向上における意義があると思う。
次にゲームアプリで試してみると、BGMや効果音の迫力がかなり感じられるので、ゲームサウンドを聴くには悪くないと思う。遅延はドングル経由ではかなり小さい。シューティングゲームでは、画面上の発射ボタンを押すのとほぼ同時に発射音が聞こえてくる。
面白いのはドングル側のスイッチを切り替えることでLE Audioのモードを変えることができることだ。ドングルのスイッチを押すことで「通常モード」「超低遅延モード」「ブロードキャストモード」を切り替えられる。
このブロードキャストモードとは、いわゆるAuracastのことだろう。いままでAuracastは受信側でしか試せなかったが、これで送信側も試すことができる。
Creative Zen Hybrid Proでブロードキャストモードに入るには、まずドングルのボタンを2回クリックしてLEDを白点滅にし、次にヘッドフォン側の電源ボタン(Bluetoothボタン)を2回クリックして、LEDが紫色に点灯していることを確認する。ブロードキャストモードから抜けるときは、先にヘッドホンの電源ボタンを2回クリックしてLEDが青色に点滅していること(ペアリングのリセット状態)を確認し、それからドングルのボタンを2回クリックする。一度接続が解除されるので、再度接続し直す。
1台の機器の音を複数のヘッドホンに送信できる
ブロードキャストモードを使用してみて興味深い発見が二つあった。
一つ目は音質がブロードキャストモードになると落ちるということだ。これは複数デバイスに送信する仕様上そうなってしまうのかもしれないし、本機種の実装によるものかもしれない。
二つ目は明示的に受信側(ヘッドホン側)でブロードキャストを選択する必要があるということだ。これはAuracastを受信するためには、単にLE Audioに対応するだけではなく、LE Audioのブロードキャストモードに対応していなければならないことを意味する。ちなみに、完全ワイヤレスイヤホンの「Aurvana Ace」はLE Audio対応だが、ユニキャストのみなのでBT-L4からのブロードキャストは受信できなかった。
これはなかなか注目すべきことではないかと思う。CEATECで体験したBluetooth SIGによるAuracastのデモ(Auracast Experience)では、イヤホンがずっとブロードキャストモードだったので気が付かなかったが、考えてみれば、ヘッドホン/イヤホン側にブロードキャストモードとユニキャストモードを明示的に切り替える仕組みがないと、電車内や空港などで流れているAuracastのアナウンスと手元のスマホ、どちらの音を聞くのかが決められない。なお、Auracastには“Advertise”というチャンネル選択の仕様がある。本機では見当たらなかったので、本来的なAuracastの仕様には沿っていない可能性があることを注記しておく(そもそもクリエイティブがAuracast対応をうたっているわけでもない)。
Creative Zen Hybrid Proは、低遅延化のためにLE Audioを搭載した興味深いゲーミングヘッドセットだと思う。今年はLE Audioの普及が徐々に進んでいくと思うが、反応にこだわるゲームユーザーが選ぶヘッドホンは現状、有線もしくは閉じた独自通信方式のどちらかになるのが普通だ。そんな中、Creative Zen Hybrid Proは標準的なLE Audioを用いたことで、将来的な可能性を感じられる機種になっていると思う。
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