印南敦史の「ベストセラーを読む」 第17回
『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(石井光太 著、PHP文庫)を読む
貧しい子どもに劣等感を植えつける、日本の“教育格差”問題
2023年12月21日 07時00分更新
日本の公立校で“教育格差”が深刻に
著者によれば途上国の子どもが学校へ行けない理由は、次の3点だそうだ。
1.家計が厳しく、子供が働かなければ生活が成り立たない。
2.学校の数が少なく、家から歩いて通える距離にない。
3.義務教育に当てはまらない子供がいる。(81ページより)
価値観も生活習慣も異なるとはいえ、多少なりとも情報は伝わってくるだけに、少なからず理解はできるのではないだろうか? では、日本ではどうだろう? この国ではほぼすべての人が義務教育を修了しているだけに、教育は行き届いているといえるはずだ。
過疎の集落にも学校はあるし、障害や病気を持つ子にも学習の機会は提供されている。そのため、日本の識字率は99%以上と世界最高水準だ。
なのに、そうした環境のどこに貧困が入り込むのだろうか? 言うまでもなくそれは、貧しい子どもたちが直面することになる「教育格差」だ。親が子どもにかける教育費に、親の所得や環境によって違いが生じるわけである。
高所得の家庭であれば、子どもに対して塾や習い事にお金をかける傾向があるが、低所得の家庭ではそれができない。そのため進学率にも明らかな差が出るし、当事者である子どもも、そうした現実を強く感じることにならざるを得ない。
その結果、日本の公立校には相応のチャンスが用意されているにもかかわらず、それを自ら捨ててしまう子どもたちが一定数いるというのだ。
なぜか。それは経済格差の中で子供たちの中に生まれる劣等感が深く関係している。貧しい子供たちは高所得家庭の子供たちと過ごし、競い合ううちに、持たざる者としての自分の立場を思い知らされるのである。(94ページより)
たとえば文部科学省の調べでは、公立の小中学校の生徒の約1%が給食費(小学校が月平均4477円、中学校が月平均5121円)を未納しているという。だとすれば、そんな境遇にある子たちが「うちの家は貧乏で恥ずかしい」「もう学校に行きたくない」というような否定的な気持ちを抱いてしまったとしても仕方がない。
また、富裕層の子どもが誕生日に高価なプレゼントを買ってもらっていたり、夏休みに海外旅行に行っていたり、最新のゲームやスマートフォンを持っていたりするのを目の当たりにすれば、貧困層の子どもたちは家庭環境の違いを痛感することになるだろう。
教育にしてもそうだ。富裕層の子どもは、小さなころから学校以外にも学習塾や英会話に通うなど、より高いレベルの教育を受ける機会に恵まれる。だが、貧しい子たちはそうもいかないので、本人たちの努力だけでは埋めることの難しい差が生じてしまうのは仕方がないことなのだ。
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