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海水から水素を製造する高耐久性卑金属合金電極=筑波大など

2023年12月18日 05時40分更新

文● MIT Technology Review Japan

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筑波大学、名古屋大学、高知工科大学の研究グループは、海水の電解による水素製造に利用できる高耐久性卑金属合金電極を開発した。水電解による水素製造は、炭水を精製した純水を大量に消費するため、施設の設置場所が大量の淡水を取得できる場所に限られる。海水の電解による水素製造も可能だが、貴金属を使った電極が不可欠であり、コストが高いため普及していない。

筑波大学、名古屋大学、高知工科大学の研究グループは、海水の電解による水素製造に利用できる高耐久性卑金属合金電極を開発した。水電解による水素製造は、炭水を精製した純水を大量に消費するため、施設の設置場所が大量の淡水を取得できる場所に限られる。海水の電解による水素製造も可能だが、貴金属を使った電極が不可欠であり、コストが高いため普及していない。 研究グループはチタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)の9種類の低コストな金属(卑金属)で構成する高エントロピー合金を電極に採用。電極の製造には、産業界で一般的なアーク溶解法を利用し、9種類の金属のインゴットを融解させて合金を作成した。作成した合金を透過型電子顕微鏡などで調べ、9種類の元素が均一に混ざり合っていることを確認し、合金を板状に加工して、電気化学性能を評価した。 評価には海水を模擬した塩化ナトリウム水溶液と実際の海水を使用し、水電解中の劣化の原因となる電源のON/OFFに相当する加速劣化試験を試行した。その結果、6000回のON/OFFの後に塩化ナトリウム水溶液では97%の性能を維持し、実際の海水では92%の性能を維持することが分かった。太陽光発電利用時を想定した電源ON/OFF試験(1日1回ON/OFF、1年で365回ON/OFF)では、10年間以上電極の性能劣化がほぼ起こらないことが分かった。 高い耐久性を発揮する仕組みを解明するために、機械学習分子動力学法と第一原理計算を組み合わせたシミュレーションを試行した。反応中は電極表面が酸化するため、開発した電極の表面を酸化させて、塩化物イオンの吸着エネルギーを比較したところ、表面を酸化させた電極の塩化物イオンの吸着力は、参加させていない電極の半分以下となり、表面の酸化物が塩化物イオンの吸着力を弱めていることが明らかになった。 酸素発生が起こる触媒活性サイトであるNiやCoに塩化物イオンを吸着するように配置してシミュレーションしたところ、一部はNiやCoではなく、隣接したCrやOに化学結合を移動させることも分かった。これは、塩化物イオンがNiやCoと結合するよりも、CrやOと結合する方がエネルギー的に安定するためだ。 こうした結果から、CrやOなどの犠牲元素が表面に多く存在し、表面が酸化されている状況を作り出せば、塩化物イオンは犠牲元素との結合を優先し、その結果として触媒活性サイトが守られ、触媒性能を十分に発揮できるようになることが分かった。 研究成果は12月6日、ケミカル・エンジニアリング・ジャーナル(Chemical Engineering Journal)誌にオンライン掲載された。

(笹田)

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