「聖地」で満たす大人の探求心
「盆栽って結局何が楽しいの?」って人、その答え、すべて「さいたま市大宮盆栽美術館」にあります
提供: さいたま市
そもそも、盆栽の見方が分からない
とはいえ、初心者には肝心のその魅力の見分け方が分からない。そもそもの正しい鑑賞法さえ分からないのだ。確かにパッと見ただけで、美しいな、素敵だな、とは思う。しかし、そんな感覚的な見方で良いものなのか?
──その魅力の見分け方、盆栽の正しい鑑賞法というものがあるんでしょうか? アート作品のように、印象的に好きだな、素敵だな、と思えればそれで良いという感じですか?
田口「ではこちらのパネルの写真を使ってご説明しましょう。こちらは大宮盆栽美術館が所蔵する盆栽のなかで、もっとも高価な鉢の一つで”日暮し”という五葉松の写真です」
──パネルでですか。ホンモノは見られないんですか?
田口「こちらの鉢は、普段は展示されていないんです。実物を見られるのは、1年のうち、特別な何日かだけになりますね」
──どこかの仏像の御開帳みたいですね。
田口「そうですね(笑)。目玉展示の一つということで、この鉢が見られる日だからと、わざわざ来られる愛好家の方もいらっしゃいます」
大宮盆栽美術館のコレクションは多く、季節に合った展示が心がけられ、すべてが常設で見られるわけではないのだとか。現在、どの盆栽が公開されているかは、ホームページのコレクションページで確認できる。お目当ての盆栽があるのであれば、事前にチェックしてから行くといいだろう。
田口「では盆栽の基本的な鑑賞の仕方ですが、まず、盆栽には表と裏があります。どちらが表か裏か分かりますか?」
──表・裏ですか。まったくわかりません(キッパリ)。
田口「盆栽を見るには、3つのポイントがあります。一つはどっしりした幹のフォルムです。この幹がちゃんと見えるのが表で、幹を鑑賞するために、手前に枝がこないように手入れされているんです」
──確かに! 幹の前には枝がないですね。
田口「逆に、幹の後ろ側には、奥行きを出すように枝が伸びています。これが裏になります。そして表と裏を確認するもうひとつのポイントは、横から見てみることです。横からよく見ると、表に向かってお辞儀をするように、枝ぶりが前かがりに整えられているんです。盆栽は、床の間などに飾って客人をもてなすためのものでもあるので、こうして頭を垂れてお迎えしているわけです」
──ほんとだ! だんだん、わかった気になってきました。でも、幹が複数ある盆栽もありますよね? こう根本から枝分かれしたみたいなものとか。
田口「その場合は、メインになる1本を決めて、そのメインの幹をいかに引き立たせるかというように育てていくわけです」
──あー、アイドルグループのセンター的な感じなんですね。分かりました。では、次のポイントお願いします。
田口「次のポイントは根の張り具合です。根はその盆栽の生命力の象徴で、狭い盆器の中で必死に根を張ろうとして、それが地上に隆起して現れたものは”根張り”と呼ばれます。これが四方八方に伸びた形を”八方根張り”と言って、しっかり土をつかんだ理想的な根張りとされています」
──そういえば、盆栽の土って、なんかもこもこしてますね。こうして根が盛り上がっているのがいいんですね。
田口「最後の一つは、枝ぶりと葉の美しいバランスです。先ほども申し上げたように、盆栽には表と裏があり、表から見たときに、理想的に見えるように形を整えていきます」
──その盆栽の剪定には、流儀というか決められた型みたいなものがあるんですか?
田口「そうですね。それが樹形と呼ばれるもので、いくつかの形に分類されます。よく見るオーソドックスな樹形は、根本からまっすぐ天に向かって幹が伸びている”直幹(ちょっかん)”、幹に変化のある”模様木(もようぎ)”といったものです」
──なるほど、分かりました。どっしりした幹、しっかりした根、美しい枝ぶりと葉ですね。覚えました。
ところで、こちらのパネルには”盆器”の解説がありますが、どんな鉢に植えられているかはお値段と関係はないんですか?
田口「もちろん、盆器もその盆栽に見合ったものを選ぶ必要がありますが、盆器には盆器でまた歴史があって、例えば中国の古い時代の鉢などは、それ自体に大変な価値があったりします。しかも、古いものだと壊れてしまうかもしれない。ですから、すごく立派な盆栽と言えども、ものすごく希少な盆器が使われるというわけではないんです。希少な盆器は、盆栽としてではなく、盆器そのものが価値ある美術品として扱われることが多いんです」
──もう一つついでに、その隣に”水石”というものを解説したパネルがありますね。これはなんですか?
田口「”山水景石”といって、山や川などの自然を感じさせてくれる石を、盆栽のように鑑賞するための美術品のことです。”山水”はご存知ですよね。お寺などにある、水の流れを砂利で表現して、石や樹木などで自然の景観を表現した庭園のことです。盆栽や水石は、あの山水を盆の中に収めたものなんです」
──要するに、盆栽というのは、お盆の中に作ったミニチュアの景色を楽しむ趣味ということですか?
田口「その通りです! ですから、盆栽の樹形は、自然に生える樹木の様子を再現するように仕立てられるものが多いんです。そして、もうひとつ覚えておいていただきたいのが、”盆栽は正面の下から見る”、ということ。小さな鉢などは上から見下ろしてしまいがちなんですが、下から覗き込むように見上げることで、まるでその樹がそそり立つ山にいるような視点で鑑賞することができるんです」
──なるほど~! 面白いですね。ミニチュアづくりと聞くと、プラモデルやジオラマづくりの経験者なら途端に親近感が湧きますね。
田口さんがあまりに淀みなくこちらの質問に答えていただけるものだから、あれやこれやと矢継ぎ早に質問してしまったが、実はこれ、まだ観覧コースに入ってすぐの「プロローグ」での解説。ここまでですでに取材時間は30分を有に超えてしまっている。先を急がねば。