佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第240回
Bluetooh/Auracastの活用で手のひらスピーカーがワイヤレスPAになる
ワイヤレススピーカーを40台スタックしたら夢が広がった、シーイヤー「パヴェ」体験イベント
2023年12月03日 17時00分更新
シーイヤーは11月23日、「Cear Technology Conference 2023 CearLINK with Auracast」と題して、同社のワイヤレススピーカー「パヴェ」の複数接続デモンストレーションを公開した。
パヴェは独自技術「Cear Field」で仮想音源を作る点に特徴がある。また、BluetoothのAuracast技術をベースにした「Cear Link」にも対応している。デモは主に後者を応用した複数台リンク機能だ。
10月と同じ会場をいくつかのブースに分けて、1台、2台、3台、5台の展示をし、最後に会場全体で40台ものパヴェをリンクしたデモをした。パヴェ自体も製品版に近づいており、ボタンなどが改良され、筐体も改良。音質も向上しているそうだ。
リアルで広がりのある音を出すCeer Field
Cear Fieldの特徴は、単に音が仮想的に広がって聞こえるというだけではなく、楽器音の再現などに優れる点にあるという。一般的な仮想音源技術では、左右の音成分を明確に分けるため、クロストークキャンセルという処理で左右信号を取り出すが、原理的にS/N比が下がってしまう。結果、曇った音になりやすい。シーイヤーはそこに独自処理を加え、生楽器の音を再現できる音質にしたとのこと。また筐体のスピーカー配置などにも独自ノウハウがある。
手持ちのiPhoneに保存している音源を再生して確認したが、左右に両手を広げたほどの位置からベルやパーカッションの音などの楽器音が立体的に聞こえた。
Auracastを使ったデモ
2台のデモからが、Cear Linkのデモとなる。単体ではiPhoneを直接パヴェに接続できたが、Cear LinkではLE Audioの一部であるAuracastを用いるため、LE Audioに対応していないiPhoneやMacとは接続できない。そこで、Macで音楽ストリーミングを再生し、これにLE Audioの送信機として使うパヴェを接続。そこから、複数台のパヴェに音楽を流す形を取っている。これは以後のデモで共通するシステムだ。
2台の構成では、1台が左右のフロントスピーカー、もう1台が左右のリアスピーカーとしての役割を担う。フロントスピーカーの1台は仮想音源で前側の左右の広がりを作り、リアスピーカーも同様に後ろ側の左右の広がりを作る。つまり、2台で擬似的な4ch再生をするデモだ。
Auracastでブロードキャストする音源自体は2chのステレオ音源だが、受信側のパヴェがそこからフロント成分とリア成分を抽出する。いわゆるアップミキシングだ。内蔵するSoCの能力が高いためできる処理だという。
試聴してみると、1台で鳴らした場合はフロントスピーカーのちょうど両横から音が鳴るが、リアスピーカーもオンにするとそれが後ろ側に移動して、自分の左右から鳴っているように感じた。
3台の構成では、1台目がフロントスピーカーとヴォーカルなどを担当するセンタースピーカーを受け持ち、後ろにある2台目と3台目が、バックに流れる伴奏など左右の成分を増強する。中央の1台をわざとずれた位置に置くと、その方向からヴォーカルだけが聞こえてくる。
5台の構成では、それぞれがセンタースピーカー、左フロントスピーカー、右フロントスピーカー、左リアスピーカー、右リアスピーカーの役割を受け持つ5chのシステムとなる。これもセンターのスピーカーだけ手で持って動かすと、その方向に声が動くように聞こえる。たしかに音が分離されている。このシステムで自然の川の流れのASMR音源を再生すると、全周(スピーカーのない背後除く)から自然の音が聞こえるように感じる。
Dolbyのサラウンド音源には対応していないが、Dolby Surroundや360 Reality Audioなどの音源でもそれなりのサラウンド感が得られるのが面白い。これはMacでマルチチャンネル音源を擬似マルチの2chにし、Auracastを用いて飛ばして、各パヴェがそれを再度マルチチャンネルに構成して、自分の担当チャンネルだけを再生することになる。
現在はどのスピーカーがどの役割を担うかを、設定する必要があるが、将来的には置いた場所に合わせて役割を自動的に切り替えられるようことも視野に入れているということだ。
驚きを言葉では伝えきれない合計40台のデモ
最後に来場者が一旦会場から退出。全てのスピーカーと机の配置転換をして、会場の壁際に並べた40台ものパヴェで一斉に音を出すデモが披露された。これまでも興味深いデモだったが、実のところ一番感銘を受けたのはこのデモだった。驚いたのは、小さなスピーカーからなっているとは思えないほどの大音量で、音質もいいということだ。40台のパヴェが鳴り響いている部屋を歩き回っても、場所に依存せず均一な音が鳴っている。特に同期をとっているわけではないとのこと。モードは通常のステレオモードを使用しているということだ。
2回目の多数デモでは、あえて来場者がいる状況で少しずつパヴェを増やして音が大きくなるというデモを行った。同じ音質で徐々に音量(音圧)だけが増える。音の歪み感が少なく、1台のスピーカーの音量を無理に上げている音ではない。
これは一台一台のパヴェは余裕ある音量で再生しており、それを40台合わせて大きな音量にするため、歪みが大きくならないということのようだ。つまり、Auracastを用いたワイヤレス接続で、複数台のスピーカーを使ったPAシステムと同じ理屈であると考えられる。仮想的に振動板の面積を増やすことで、送り出しの音量は同じでも、音圧が上がる。一台一台は小さいので、大きなスピーカーにある箱鳴りがなく、音場の制御もしやすいとのこと。
この考え方を拡張すると、例えば右に10台、左に10台を組み合わせて、大型の2chスピーカーとして使うこともできる。さらにそのシステムから低音だけ取り出して10台で大きなサブウーファー同等のシステムを仮想的に作れるということになる。シーイヤーの村山氏は最後に、「計算上できるのは分かっていたが、実際に音を聞くと自分たちでも驚きだ」とコメントしていた。
複数台の「パヴェ」をリンクして得られる効果はマルチチャンネルの音場の生成と、高い音圧を得ることができる。そして、それを組み合わせることもできる。なかなか紙面ではこの驚きを伝えることは難しいので、また同様な機会があった場合にはぜひ参加して確かめてほしいと思う。
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