画像クレジット:AP Photo/Vincent Yu
米国の経済措置は中国のテック企業にとって大きな制約となっている。そうした中、ファーウェイは最新の自社開発5Gチップを搭載したスマホを販売開始し、米当局や業界に衝撃を与えた。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
11月15日、中国の習近平国家主席はサンフランシスコで米国のジョー・バイデン大統領と会談し、軍事問題や貿易などについて協議した。習国家主席が米国を訪問するのは、6年ぶりのことだ。
それにしても、2017年以降、本当に多くの出来事があった。米中が友好的だった時代は終わりを告げ、貿易戦争、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック、テクノロジー競争、さまようスパイ気球など、挙げればきりがないほど波乱に満ちた展開を見せてきた。
このような状況のなか、中国の通信・テック企業であるファーウェイ(Huawei)は、険悪化する関係の象徴的な存在となった。同社は、国家安全保障上の懸念から厳しい監視を受け、制裁措置の対象となった初めての中国系テック企業のひとつである。実際、米国が現在、米中テック戦争で繰り広げている制裁措置の多くは、ファーウェイの牽制に成功したことに端を発している。(半導体をめぐる戦いについて詳しく知りたい方は、私が書いたこちらやこちらの記事を参照していただきたい。)
しかし、それでファーウェイが屈したと考えるのは早計だろう。実際、それとは程遠い。今年8月、米商務長官ジーナ・レモンドが中国を訪問したのと時を同じくして、ファーウェイは何の公式発表もなく、突如として新型フラッグシップスマホ「メイト60プロ(Mate 60 Pro)」の販売を開始し、世界に衝撃を与えた。
この件における最大の驚きは、同社が2020年以降、5Gチップの調達や中国国外のチップ工場との提携を禁じられていたにもかかわらず、このスマホが最新の5Gチップを搭載していたことだった。そのため、米国政府の規制当局や対中強硬派の人々は、パニックに陥った。この比較的高度な技術が用いられた7ナノメートル半導体チップは、同社が何らかの手を使って制裁をかいくぐったことを証明するものだったからだ。
しかし、本当にそうなのだろうか?チップを分解した研究者たちは、このチップは全面的にファーウェイが開発し、中国で製造されたものだと結論づけた。
私は、今回実際に何が起こったのか、そしてチップなどのテクノロジーをめぐる現在も続く競争にとって、このことが広義には何を意味するのかを理解したいと思っていた。そこで先日、コロンビア大学で電気通信とチップ設計を研究するハリシュ・クリシュナスワミ准教授に話を聞いた。
結論から言うと、Mate 60 Proは製造面におけるファーウェイの飛躍的な前進が形になったもので、それによって同社は再びスマホの世界にカムバックできた。「制裁措置を理由に、同社が主力企業ではなくなったと決めつけるのは明らかに誤りです」と、クリシュナスワミ准教授は語った。
中国の研究者や企業にとって5Gチップの設計は必ずしも難しいものではない。そのため、ファーウェイが自身の研究所で5Gチップを開発することはさほど困難ではなかっただろう、と同准教授は説明した。それよりもはるかに大変なのは、5Gチップを消費者向け製品に搭載できるよう、高品質で安価に大量生産することだという。
最先端の5Gチップの製造は、「工学的に極めて大掛かりな試みであり、それを成功させることが可能な企業は非常に限られています」とクリシュナスワミ准教授は説明する。これまでに5Gモデムチップの製造に成功した企業は、クアルコム(Qualcomm、米国)、メディアテック(MediaTek、台湾)、サムスン(Samsung、韓国)、ハイシリコン(HiSilicon、ファーウェイ傘下のチップメーカー)など、ほんの一握りだ。自社製5Gチップの開発は、インテルやアップルのようなテック大手でさえ、現在のところ失敗に終わっている。
そのため、米国の制裁措置によってファーウェイ製スマホ向けのチップの供給が禁止されると、同社はハイシリコン1社に頼るしかなくなった。
しかしこの制裁措置によって、ハイシリコンは、製品の製造や試験に不可欠な工場(半導体業界では「ファウンドリ」または「ファブ」と呼ばれる)の国際的なネットワークからも切り離された。以前ハイシリコン向けにチップを製造していた台湾のチップファブであるTSMCは、2020年からチップの供給を停止している。
これにより、ファーウェイの選択肢はさらに狭まった。中国のファブに頼るほかなかったが、それはコストと時間のかかる選択だった。「ファブでチップを設計した後、何らかの理由でそのチップが調達できなくなって別の企業に乗り換えた場合、再設計、品質評価、量産化のプロセスだけで少なくとも3年はかかります」と、ファブと深いつながりのあるチップ企業のオーナーでもあるクリシュナスワミ准教授は指摘する。
ファーウェイの状況をさらに厳しいものにしたのは、中国のチップファブものちに制裁下に置かれ、最先端のチップ製造テクノロジーに一切触れることができなくなったことだ。
そのため、ファーウェイが今年、新型5Gチップを搭載したスマホの製造を開始した際には、同社が制裁措置による売上高の激減に対処しながらも設計の見直し、中国のファブへの移行、新型チップの製造、量産体制の整備を瞬く間に成し遂げたことに業界全体が驚いた、とクリシュナスワミ准教授は語る。「ファーウェイはこうした能力を持つことを、実に見事に証明してみせました」。
実際、国外からの投資を最小限に抑え、中国のファブで独自の5Gチップを製造しているというニュースが報じられて以降、同社は多くの中国国民にとって国の誇りとなっている。ファーウェイの件は、彼らにとって米国の制裁措置が必ずしも狙い通りに効果を発揮しないことを示す一例となった。制裁によって、中国企業は適応せざるを得なくなり、製造拠点を中国に戻し、出遅れたテクノロジー分野で巻き返しを図らざるを得なくなる。しかし、それが最終的には、中国にとって有利に働くこともある。
しかしながら、浮かれるのはまだ早いかもしれない。ファーウェイが再びハイエンドスマホ市場で競争力を得るには、他にもクリアしなければならない数々の障害がある。
「どんな企業でも、自身の生存を証明、すなわちチップが入手できたことを示した後は、それを大量に調達し、時間とともにコストを引き下げることができるかどうかが、長期的な成功の鍵を握るのです」とクリシュナスワミ准教授は言う。
ファーウェイは今、現実を突きつけられている。新機種の発売から数カ月が経った今でも、消費者がスマホを入手するのが非常に困難であるという事実によって、国内の熱狂は失われてきている。供給不足で何カ月も入荷待ちになっているのだ。実際、11月の中国のブラック・フライデーに相当する時期では、売れ筋のスマホはやはりアップルとシャオミ(Xiaomi、中国ブランド)の製品だった。
結局のところ、ファーウェイがスマホ市場で主導権を再び握るには、クアルコムやサムスンに負けじと、より安価で高品質なチップを安定的に製造する必要があるが、それを実現するのは至難の業だ。米国のチップ制裁網は着実に拡大・強化を続けており、これまでは辛うじて不可能ではなかったにせよ、将来的にはさらに厳しい状況が予想される。
バイデン大統領と習近平国家主席の会談でよほど驚くような進展がない限り、米中関係の厳しい冬は何年も続くかもしれない。その場合、ファーウェイをはじめとする中国企業には、この先もまだまだ多くの闘いが待ち受けているだろう。チップ製造において障害をひとつ突破しただけでは十分とは言えないのだ。
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中国関連の最新ニュース
1.習近平国家主席はバイデン大統領との会談前に、サンフランシスコで米国のビジネスリーダーらと会食することを望んでいた。ホワイトハウスはこの申し出を拒否し、習国家主席の訪問日程をめぐる長い応酬はその後も続くのだった。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
2.中国のある大学は昨年、監視カメラメーカーのハイクビジョン(Hikvision)を起用し、スマートキャンパス・プロジェクトを立ち上げた。これには、ラマダン期間中に断食をすることを選んだ少数民族の学生に対して警告を発するシステムも組み込まれている。(IPVM)
3.ファーウェイは、現在使用禁止となっているアンドロイド(Android)システムの代わりとして、自社独自の「ハーモニーOS(HarmonyOS)」を開発中だ。中国のテック企業各社は、ハーモニーOSを理解している開発者を急きょ募集している。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)
4.ネパール政府は、不和を助長し社会の調和を乱しているとして、「ティックトック(TikTok)」の禁止を決定した。(ネパリ・タイムズ)
5.中国のホビー用ドローンがウクライナ戦争で大量に使用されたことを受け、イスラエル軍では現在、自国の戦争で使用するためのドローンの備蓄を進めている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
6.米国連邦議会では、主要なステーブルコイン「USDT」の発行元であるテザー(Tether)と米国政府との取引を阻止しようとする超党派法案が新たに提出された。同社の親会社が香港に拠点を置いているのが理由だ。(コインデスク)
7.バイドゥ(Baidu:百度)は、エヌビディア(Nvidia)製のA100チップの代替としてファーウェイ製のAIチップを1600個、サーバー用として発注した。このことは、中国企業がコンピューティング能力の制約にどう対処しているかを示している。(ロイター通信 )
8.中国の大手ゲームストリーミング・サイトの創業者が警察に拘留されている模様だ。プラットフォーム上のポルノやギャンブルコンテンツの捜査と関連していると考えられる。(フィナンシャル・タイムズ紙)
スマホを振ると広告が開く? 最新手法に苦情殺到
今年、中国のスマホユーザーの多くが、新手の広告に悩まされることとなった。自分の意思に関係なく、スマホを振っただけで、eコマースアプリが自動的に開くというものだ。
この現象は、最近のスマホに搭載されているジャイロスコープセンサー機能を逆手に取った最新のマーケティング手法であることが判明した。この機能は通常、歩数をカウントしたり、道順を探索したりするために使用されるものだ。昨年末、中国のテック企業数社が、動きを検知した際に新しくアプリを開く方法に関して、技術仕様の業界基準を打ち出した。この基準がたちまち広告スパムに転用され始めたことで、苦情が殺到している。中国系出版社であるタイム・ファイナンスによると、アップルはこの問題を認識し、今月からこうした広告を禁止するよう中国の人気アプリ企業数社に指導したという。しかし、これだけの措置で追随するアプリを阻止できるのかはわからない。
あともう1つ
ある旅行者が中国のホテルの自室に出前を頼んだが、一向に届かない。やがて、彼は助けを求める電話を受けた。料理を運んでいたロボットが転倒して起き上がれなくなってしまったのだ。いずれはロボットが世界を支配する時代が来るのかもしれないが、幸いなことに、まだ先の話だろう。
I’ve been thinking a lot about this 朋友圈 lately… the guy ordered delivery to the room at a hotel, called down and concierge said it had already been sent up, but eventually he gets a call from the delivery robot asking for help… #china #robotwars pic.twitter.com/Miy6Ibyvku
— Elyse Ribbons 柳素英 (@iheartbeijing) November 7, 2023