印南敦史の「ベストセラーを読む」 第12回
『おとな六法』(岡野武志、アトム法律事務所 著、クロスメディア・パブリッシング)を読む
波平さんの毛を抜いたら何罪?
2023年11月16日 07時00分更新
波平さんの毛を抜いたら「傷害罪」の可能性
たとえば、こういった質問が登場したりする。
サザエさんの波平さんが大切にする1本の髪の毛を抜くのは犯罪ですか?(44ページより)
突拍子もない質問のようにも思えるが、他人の毛を抜いた場合は、傷害罪に問われる可能性があるらしい。
なお傷害罪とは、他人にケガをさせた場合に問われる犯罪のこと。もしも波平さんが大事にしている髪の毛を引き抜いたとしたら、「毛根の近くの血管や頭皮を傷つけた」として傷害罪が成立する可能性があるというのだ。いわれてみれば波平さんに限らず、喧嘩をした人間が相手の髪の毛を引っぱって抜いたりしたら、いかにもそれは傷害罪っぽい。
波平さんはこれまで数々の髪の毛との別れを経験し、残ったあの1本の髪の毛を大切にケアしてきたわけやん。そんな波平さんの気持ちを考えたら、もしおれが検察官なら絶対に許せないし、何とかして傷害罪で起訴したいって考えるやろな!(46ページより)
考えられることはそれだけではない。仮に波平さんの1本の髪の毛を「抜く」のではなく「ハサミなどで切った」としたら、暴行罪に問われる可能性もあるのだという。暴行罪とは他人に暴力をふるう犯罪のことで、傷害罪との違いは「相手がケガをしたかどうか」。要するに波平さんの場合、「ハサミで切られた」ことが「暴行された」ということになることも考えられるということだ。
実際にあった裁判例では、女性の髪を切った場合に暴行罪、女性の髪をすべて切ったり剃ったりした場合には傷害罪に問われたケースがあるのだそうだ。つまりそうした裁判例を踏まえると、波平さんの髪の毛を切っただけなら暴行罪に当てはまるわけである。
そもそも、波平さんが大事にしている髪の毛を抜いたり切ったりするなどということ自体、モラル的に絶対やってはいけないことでもあるのだから。
結論 髪の毛を抜いたら、傷害罪になる可能性がある。
要点1 傷害罪は、人にケガをさせたら成立する。
要点2 毛を引き抜くと、毛根の近くの血管や頭皮を傷つけたとして、傷害罪になる可能性がある。
要点3 毛を抜くのではなくハサミで切った場合は、暴行罪になる可能性がある。
(47ページより)

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