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細胞の飢餓状態における遺伝子発現制御の仕組みを発見=東大

2023年11月06日 06時22分更新

文● MIT Technology Review Japan

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東京大学の研究チームは、生物の体内でタンパク質を合成する装置「リボソーム」を作る遺伝子の発現スイッチが、栄養状態を感知する「TOR経路」によって制御される新たな仕組みを発見した。TOR経路は、がんの発生や老化と密接に関連しており、今回明らかにした仕組みを応用することで、がん治療や寿命の延伸に貢献できる可能性があるという。

東京大学の研究チームは、生物の体内でタンパク質を合成する装置「リボソーム」を作る遺伝子の発現スイッチが、栄養状態を感知する「TOR経路」によって制御される新たな仕組みを発見した。TOR経路は、がんの発生や老化と密接に関連しており、今回明らかにした仕組みを応用することで、がん治療や寿命の延伸に貢献できる可能性があるという。 研究チームはこれまでに、rRNAが転写されるゲノム領域(rDNA領域)が飢餓によって高度に凝集された状態(ヘテロクロマチン状態)となり、リボゾーム遺伝子の転写が抑制されることを見い出している。しかし、細胞が飢餓を認識した後、どのような司令を出してrDNA領域をヘテロクロマチン化するのはわかっていなかった。 同チームは今回、栄養シグナル伝達の司令塔の一つであるTOR経路に着目。TOR経路は外部環境の栄養が不足すると不活性化することから、TOR経路を人為的に不活性化できる変異体を用いて、十分な栄養があるときに強制的にTOR経路を不活性化した。すると本来転写が活発であるrDNA領域が「RNA干渉」を介してヘテロクロマチン化され、リボゾーム遺伝子の転写が抑制されることがわかった。 RNA干渉は、非コードRNAに由来する低分子二本鎖RNAが、相補的な配列をもつ領域にヘテロクロマチン関連因子を呼び込んで転写を抑制する仕組みである。さらに、rDNA領域だけでなく、リボソームタンパク質をコードする遺伝子領域においても、同様の結果を確認した。 一部のがん細胞ではヒトTOR経路が過剰に活性化していることや、リボソーム生合成が促進されていることが知られている。今回、TOR経路とリボソームの生合成に関わる新たな制御メカニズムが解明されたことで、新しいタイプのがん治療薬の開発につながる可能性がある。また、rDNA遺伝子のコピー数の不安定化が老化の原因となることが指摘されており、カロリー制限下ではrDNA領域がヘテロクロマチン化されることでコピー数が安定化し、細胞の寿命ひいては個体の寿命を延伸させるのかもしれないとも述べている。 研究論文は、セル・レポーツ(Cell Reports)誌に2023年10月31日付で掲載された

(中條)

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