だが、その一方で、前山社長は、「私たちが果たす役割は、会計ソフトの民主化だけでいいのだろうか」とも自問自答する。
「多くの人が、『会計の作業は面倒くさい』と思うマイナスの発想を、会計ソフトによる業務の効率化によって、ゼロにしてきた。これを、ソリューションとして、36年間提供してきた。しかし、会計ソフトは、帳簿に記録して、決算を行い、税務署に申告書を提出するだけの役割でいいのか。弥生が実現してきた『会計ソフトの民主化』だけでは、もしかしたら、会計の本当の役割を提供できていないのではないか。会計のあるべき姿とはなにか。そこに対して自分たちはなにができるのか。どんな可能性があるのか。弥生が積み重ねてきた歴史を背景に、次の扉を開けていきたいと考えた」とする。
前山社長が辿り着いた答えは、「Democratization of Accounting」(会計の民主化)であった。
「弥生ユーザーの中心である中小企業や個人事業主が気がつくべき課題は、データ活用において、大企業との間に大きな差が生まれているという点だ。大企業には経理部があり、経営企画部門があり、毎日のように会計データを分析して、知恵を絞り、悩みながら、いまの立ち位置はどうか、競合に対する優位性はなにか、次の手はなにかといったことを考え続けている。会計データが、毎日、生きた形で使われている。これが会計のあるべき姿ではないだろうか」
中小企業の多くは、データ活用の専門家がいないし、外部コンサルタントに依頼しているケースもほとんどない。いや、そもそも蓄積されているデータ量が少なく、データを活用したり、分析したりといった発想そのものがないのが実態だ。
「会計自体を民主化するということは、すべての事業者が、会計を正しく理解することからはじめなくてはいけない。会計とは、決算をするだけのものではなく、そこから分析し、状況や課題を理解し、納得した上で、次のアクションを起こし、売上げの上昇、借入金の減少、コスト削減などにつなげ、利益をあげることである。会計をするということは、本来はそこまで踏み込むものである」
その上でこう語る。
「なぜ、これをやってこなかったのか。大きな反省である。これが、弥生が持つ、いまの問題意識である」。

この連載の記事
-
第606回
ビジネス
テプラは販売減、でもチャンスはピンチの中にこそある、キングジム新社長 -
第605回
ビジネス
10周年を迎えたVAIO、この数年に直面した「負のスパイラル」とは? -
第604回
ビジネス
秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは? -
第603回
ビジネス
日本マイクロソフトが掲げた3大目標、そして隠されたもう一つの目標とは? -
第602回
ビジネス
ボッシュに全株式売却後の日立「白くまくん」 -
第601回
ビジネス
シャープらしい経営とは何か、そしてそれは成果につながるものなのか -
第600回
ビジネス
個人主義/利益偏重の時代だから問う「正直者の人生」、日立創業者・小平浪平氏のことば -
第599回
ビジネス
リコーと東芝テックによる合弁会社“エトリア”始動、複合機市場の将来は? -
第598回
ビジネス
GPT-4超え性能を実現した国内スタートアップELYZA、投資額の多寡ではなくチャレンジする姿勢こそ大事 -
第597回
ビジネス
危機感のなさを嘆くパナソニック楠見グループCEO、典型的な大企業病なのか? -
第596回
ビジネス
孫正義が“超AI”に言及、NVIDIAやOpen AIは逃した魚、しかし「準備運動は整った」 - この連載の一覧へ









