牛丼ではなく、他のメニューで個性を感じ取る
アスキーグルメのモーダル小嶋です。以前、吉野家と松屋の「違い」について書きました。今回は、吉野家、松屋だけでなく、さらにすき家も比べてみます。
いずれも、それなりに違いがあるといえばあるものの、気にしない人にとっては「そんなに変わらないだろう」というところかもしれません。一方、そういうところをあえて比較するからこその面白みもある……という意見もありましょう。
「吉野家と松屋の違い」を聞かれたら……についてはこちら
「吉野家と松屋の違いを(海外の人に)聞かれたら、どう答える?」という問いに対して、筆者なりにいろいろ考えた記事です。
以前の記事では牛丼(松屋は「牛めし」)を比較したわけですが、今回はカレーです。「え? 牛丼チェーンでカレーを比較?」と思うかもしれませんが、そもそものルーツを辿ると、牛丼はどうしても“似てしまう”のではないかと思うのですよ。
たとえば、松屋の創業者である瓦葺利夫氏は、かつて吉野家の築地店に通っていたというエピソードがあります。吉野家が新橋に店舗を構える際に、瓦葺氏を誘ったという話まであるんですね。その縁で、松屋の1号店が江古田にできたときは、食材の卸は吉野家と共有していたとか……。
一方、すき家の創業者である小川賢太郎氏も、吉野家で働いていたことがあります。ゼンショーとして出店した弁当店の営業がふるわなかったことを受け、吉野家で働いていたことをヒントに牛丼店の営業を思いついたそう。
よって、それぞれのチェーンの歴史をたどると、「牛丼は(ルーツを考えると)似てるんじゃね?」となりそうですよね。そこで、どのチェーンにもある、牛丼ではないメニューということでカレーなのです。順に見ていきましょう。
牛肉をのせてパワーアップする
「牛丼チェーン」のカレーらしい吉野家
吉野家の「牛黒カレー」(589円)は10月2日より販売開始。2022年9月末まで販売していた牛黒カレーがリニューアルしたとうたっているものです。
強烈にフルーティーというわけでも、飛び抜けたスパイシー感があるというわけでもないのですが、前に出てくる要素がない分「バランスが良い」という仕上がり。甘すぎず辛すぎずといったまとまりはあります。
ただ、具(トッピング)をのせて完成するテイストにまとめているような感じも受けるのですよね。何かが突出した味のバランスというより、肉の脂や、そこから溶け出る旨味を受け止める土台にすることを意識している。
単体ではちょっと物足りなさも感じるかもしれませんが、「バランスがよい」と評することもできるかなと。トッピングをしてもらうことが前提……というよりも、「牛丼の具材をのせるとパワーアップする」ような仕上がりではないでしょうか。
「牛丼チェーン」のカレーとして、模範解答のようなメニューです。カレーとしてのクオリティーをある程度担保しつつ、牛丼の具をのせると、さらに良い感じになるわけです。
カレーとしての質は高いが
トッピングが悩ましい松屋
松屋のカレーとしてチョイスしたのは「松屋ビーフカレー」(並盛580円)。牛バラ肉を丸ごと煮込み、スパイシーでありながらほろほろになるまで煮込まれたという、牛肉がポイントになっています。
純粋にカレーとしての完成度としてみれば、これが一番かもしれないです。どっしりしたコクがありますし、牛バラの脂もしっかり出ています。ごろごろと肉が入っているわけではないのに、満足感もそれなりにある。
ところがこれ、具材とかを乗せるとトゥーマッチな印象にもなるんですよね。カレー自体がしっかり……というよりは“どっしり”した味なので、牛肉やハンバーグなどを追加すると、口の中に広がる味が濃すぎるというか。要素が多すぎるというか。
たとえば「ビーフカレギュウ」(並盛830円)にすると、牛めしの具の旨味がいまいち伝わってこない面もある。カレーの味が立っているだけに、バランスとしては「ん?」となる部分が個人的には感じられます。
カレー単体としての完成度を高めていった結果、むしろ牛めし(牛丼)の具材や他のトッピングなどをそれほど必要としなくなった。もちろん、大きめの牛肉がもっとたくさん入っていれば……とも思いますが、価格面で考えるとそれはぜいたくかも。もともと定食屋で、カレーにも力を入れていた、松屋らしい作り込みといえましょう。
シンプルがゆえに
トッピングの土台として万能のすき家
最後に、すき家の「牛カレー」(並盛720円)。これがまた、吉野家や松屋と比べるとおもしろいんですよね。
すごく簡単に言うと、シンプルなんです。吉野家のカレーよりもシンプル。サラッと口当たりがよいのですが、吉野家よりスパイスやトマトは抑えめ。そしてコクや後味も、松屋よりあっさりです。
じゃあ物足りないかと言うと、そういうわけでもない。具材をのせたときにハマるんです。牛肉をのせると、カレー自体がやや無個性な分、プレーンな味の土台がしっかり具材を支えるわけです。個人的には、松屋よりはもちろん、吉野家よりも「牛肉」のトッピングが活きてくるようなカレーだと思います。
ただ、カレー単体としてみると、ちょっと弱い。尖っている部分がなく、まろやかといえばそうかもしれません。しかし、牛肉のダシが出ているものの、吉野家のようにスパイスやトマトの「溶け込んでいる」感がない。地味といえば地味かも。
すき家もそれをわかっているのか、具材が大きな「ほろほろチキンカレー」や、デミグラスソースのかかった「デミバーグカレー」など、具材のボリュームに振った限定メニューが多い印象があります。シンプルながらトッピングの土台として万能のカレーを目指しているのかもしれません。
というわけで、3つを食べ比べると、それぞれのチェーンの「違い」が見えてくるような気がしませんか? 看板の牛丼の具を活かしつつも本体の完成度も高めようとする吉野家、カレーとしてのクオリティーを追求するかのごとき松屋、あくまで土台としてバランスを取るために味をプレーンにまとめる印象を受けるすき家……。
これらのように、看板のメニューではなく、それ以外のメニューにこそチェーン店の個性が出るときがあります。たとえば回転寿司チェーンなら、寿司ではなくラーメンなどのサイドメニュー。焼肉チェーンならデザート、といった具合です。
みなさんも、「チェーン店の違い」を考えるときは、いつもは頼まない(けれども、各チェーンが用意している)メニューをチェックしてみるといいかもしれませんよ。
モーダル小嶋
1986年生まれ。「アスキーグルメ」担当だが、それ以外も担当することがそれなりにある。編集部では若手ともベテランともいえない微妙な位置。よろしくお願いします。