画像クレジット:AP Photo/David Rising
9月下旬から10月上旬にかけて開催された「アジア競技大会」で、eスポーツが初めて公式競技として採用された。中国チームは金メダルを獲得し、従来のスポーツ以上の盛り上がりを見せているが、中国政府はジレンマを抱えている。
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
それはおそらく、史上最高の賞金がかかったモバイルゲームの対戦だった。中国の杭州で9月26日の夜、中国とマレーシアから参戦した男性10人がステージに座り、それぞれ食い入るようにスマートフォンを見つめていた。アリーナの観客席には4000人以上が詰めかけ、成人して間もない選手たちに声援を送った。オンライン配信やテレビを通して観戦した視聴者は、数百万人に達した可能性がある。13分後、中国チームが勝利して金メダルを獲得。アジアで最高のスポーツ評価を得たのである。
この様子は、10代のゲーマーにとっては夢であるとと同時に、親たちにとっては最悪の悪夢ともいえるものだった。しかし、現実である。2023年9月23日から10月8日の日程で実施されたアジア最大規模のスポーツの祭典「アジア競技大会」で、eスポーツは史上初めてメダルを獲得できる公式イベントとなったのだ。 7種目のeスポーツゲームで20カ国以上が競い合った。
私が驚かされたのは、eスポーツの試合が、アジア競技大会の伝統的なスポーツよりも多くの関心を集めていることだ。開催されているすべての競技の中で、需要が急増したために競技場のチケットが抽選式で販売されたのはeスポーツのみだった。eスポーツの全試合で抽選観覧客は500万人を超え、チケットの当選確率はそれぞれ0.5%だった。
アジアに長期間滞在したことがなければ、これは驚くべきことかもしれない。
「はっきりしているのは、アジアが現在、eスポーツを牽引する地域であるということです」と、ゲーム分析会社のニコ・パートナーズ(Niko Partners)でリサーチおよびインサイト担当ディレクターを務めるダニエル・アーメッドは述べる。「私たちの過去の調査では、アジアのゲーマーは欧米のゲーマーと比較して、達成、挑戦、コミュニティと並び、競争からより大きなモチベーションを得ていることが分かっています」。
間違いなく、中国はeスポーツのリーダーである。実際、ニコ・パートナーズの市場調査によると、中国は世界最大のeスポーツ市場であり、同カテゴリーにおいて世界的な業界売上高の34%を占めているという。アジア全体の売上高比率は53%である。
中国では、eスポーツは他の人気スポーツと同じ方法で運営されており、それは長い間変わっていない。地域クラブがあり、各クラブにホームスタジアムがある。業界は異なるレベルの能力で競うトーナメント戦によってプレイヤーを評価でき、プレイヤーは生計を立てることも可能になる。近年、スタープレイヤーはセレブのように市場に売り込まれており、カルト的なファン集団を引き込んでいる。
同業界の人気が高まるにつれ、そのファン層は、eスポーツファンとして人々が思い描きそうな集団を超えて拡大している。中国政府が支援する業界団体の中国音像与数字出版協会(CADPA)の2022年の調査によると、eスポーツでは、35歳から44歳までの集団と24歳未満の集団にほぼ同数のファンがいる。女性と地方出身者がそれぞれ、ファン層の44%と36%を占めている。
その背景とは?
この人気の一部は、いくつかの大手テック企業に起因する。たとえば、ビデオゲームは以前からテンセント(Tencent)にとって稼ぎ頭であり、収益のほぼ3分の1に貢献している。アジア競技大会の7つのeスポーツ競技のうち、4つはテンセントが開発したり、販売したりしたゲームだ。
もうひとつの重要な要因は、中国でのモバイルゲームの台頭である。コンピューターやゲーム機を持っていない人々がeスポーツにアクセスできるようになったのだ。現在、中国のeスポーツ大会の50%以上がモバイルゲームに重点を置いているとアーメッドは言う。テンセントのような企業は今、ディズニーや任天堂のようなブランドからモバイルゲーム制作を依頼されている。
こうした動きのすべては、中国政府がeスポーツに対して抱える深い矛盾をよそに起こっている。同政府は、国家威信の源としてeスポーツを称賛しながらも、インターネット依存症の要因として軽蔑しているのだ。
その一方で中国政府は、高等教育におけるeスポーツの発展を推進してきた。企業を助成し、競技会場を建設し、さらには高等教育におけるeスポーツ専攻を認可してきたのである。上海や深センを含むいくつかの都市は、中国だけでなく世界的なeスポーツの中心地になろうと競っている。
しかし、中国政府が未成年者のゲーム対戦に特に強硬な姿勢をとっていることについては、以前の記事でも取り上げたとおりだ。18歳未満は、ゲームできる時間が毎週3時間に制限されている。「この規制はプレイ時間に影響を与えましたが、若者がライブ配信プラットフォームでeスポーツに参加するのをやめたわけではありません」とアーメッドは言う。ブルームバーグの記事によると、中国政府はビデオゲームとインターネット依存症への懸念を理由のひとつとして、アジア競技大会でeスポーツ競技ライブ配信の制限さえ実行した。
この制限は、eスポーツチームが人材を見つけたり、選手を鍛えたりする方法により大きな影響を与えている可能性がある。他の競技者と同じく、プロのeスポーツプレイヤーは通常10代前半からトレーニングを開始する。そのため、中国政府は未成年者をゲームから遠ざけることと、国際舞台に有力なチームを出場させることの間で避けられないジレンマに直面する(アジア競技大会でeスポーツに参加した中国人選手の平均年齢は20歳である)。
中国政府の紛らわしい立ち位置は、おそらく業界の発展を妨げる最大の障害となっている。eスポーツは、中国にとって主要な文化の輸出を実現し得るものだ。若者の間での激しい人気は、リーチと収益を得られる現実的なチャンスがあることを意味する。さらに、国際オリンピック委員会は先月、eスポーツ委員会を立ち上げたばかりである(ただし、オリンピックがeスポーツを正式に認定するまでにはまだ長い時間がかかるだろう)。とはいえ、今のところ大半の中国の親たちは、進んで子どもを学校から連れ出し、eスポーツのトレーニングキャンプに参加させるようなことはしないはずだ。
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1. ウクライナ人兵士らは中国製の愛好者向けドローンを戦闘兵器に変えた。しかし中国はドローンの輸出を制限し始めているため、他の場所からの調達が必要になるだろう。(ニューヨーク・タイムズ紙)
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3. 米国国務省は新しい報告書で、中国が偽情報や検閲のテクノロジーに「かつてないほどのリソース」を投資していると非難している。一方で中国は、同報告書について「それ自体が偽情報」であると訴えている。(CNN)
4. 米国のティックトック(TikTok)従業員は、中国から来た幹部が親会社であるバイトダンス(ByteDance)からの影響だけでなく、有害な職場文化も持ち込んだと述べている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
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6. 女性の権利は、中国のソーシャルメディアでは近年最もホットな話題になっている。しかし同時に、最も検閲されている話題の一つでもある。(レスト・オブ・ワールド)
→日本のフェミニストであり社会学者の上野千鶴子は、結婚と出産への抵抗によって中国での名声を急上昇させた。彼女の著作は中国に直接関わるものではないため、検閲を免れている。(AP通信)
7. インドネシアは、ソーシャルメディア・アプリ上でのeコマースを禁止した。これはティックトックにとっては悪い知らせである。eコマース機能を切り離すために、同社には1週間の猶予が与えられた。(CNBC)
中国の高齢者向けスマホで大規模マルウェア被害
中国南西部の警察による捜査で、高齢ユーザーの携帯電話1400万台以上を侵害した大規模なマルウェアのネットワークが発見された。中国では、拡大文字を使い、機能を簡略化し、より手頃な値段を付けた特殊なタイプの携帯電話が高齢者の間で人気が高い。中国メディアのザ・カバー(The Cover)によると、何百万台というこれらの携帯電話にマルウェアが搭載されており、「モバイルニュース」「セイフ・ウェザー」「システム・リマインダー」などの有料サービスへ自動的に登録するようになっている。月額1ドルからの低料金だが、合算すればユーザーにとってはかなりの出費となる。
四川省の警察は、携帯電話の製造業者と協力してデバイスのマザーボードに直接マルウェアを埋め込んだ、4つの犯罪集団を見つけ出した。携帯電話が利用者に購入されると、犯罪者はデバイスを遠隔操作してメッセージで「Y」と返信する。そしてプレミアムサービスに同意した後、そのメッセージを自動的に削除する。高齢のユーザーは必ずしもテクノロジーに精通しているわけではない。そのため、電話料金が上昇し続ける理由に気づいたり、理解したりすることは難しいかもしれない。警察によると、犯罪組織は合計で1500万ドル以上の不正利益を得ているという。
あともう1つ
アジア競技大会で韓国のチームは、オンライン・バトルゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」の決勝戦に勝利した。この優勝チームは金メダルを獲得しただけでなく、韓国では義務となっている18カ月間の兵役を免除された。この種の措置は従来、韓国のイメージアップへの貢献を評価して、オリンピックでメダルを獲得した選手やアジア競技大会の金メダル勝者に認められてきたもので、eスポーツ選手が含まれるのは初めてである。しかし、このニュースに異議を唱える人々がいる。BTSのファンである。ファンたちは、韓国の文化輸出についてはアイドルたちの方が役立ったにもかかわらず、国際的な名声の絶頂期に兵役に就かなければならなかったと指摘する。