「たてもの」と「まち」のイノベーション第21回

原点は渋沢栄一。社是は「論語と算盤」

清水建設がイノベーション拠点のどまんなかに「旧渋沢邸」を置いたワケ

文●ASCII 漫画●ほさかなお

提供: 清水建設株式会社

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床柱のCTスキャンとAI外壁、天井、消火施設などで新しい姿に

鳥越 同じ部屋の床柱もとても貴重な木で。これまでは南天だと言われていたんですが、江東区から東京国立博物館に依頼してCTスキャンにかけてもらった結果、沈香の香木だとわかりました。

── へぇー。さぞ香りがよかったでしょうね。

鳥越 この床柱には手彫りの細工がしてあるんですが、その手彫りした柄を平面に開き、資料館の外壁に転写しています。画像データをAI処理して複数のパターンをつくったうえで、「もし建物の外壁一面を清水喜助が彫ったらこうなるだろう」という想いを建物に刻む試みもしています。

写真:清水建設

写真:清水建設

── なんと、「AI清水喜助」じゃないですか!

鳥越 これもまた「温故創新」ですね。昔の原点を新しいイノベーションで、というつながりを持っています。もうひとつ言うと、オフィスの上部は、継手部分の「への字」のパーツを3つのパーツでつくっているんですが、まんなかを継いでいる手法は「金輪(かなわ)継手」という旧渋沢邸の骨組みで使われた継手を使い、それをロボットで加工しています。

── あえて昔の継手手法を使ったと。

鳥越 過去の手法をロボットの力で再現することで、これだけの本数ができているわけですね。人の手でやると不可能なことを近代の力で再現したというつながりもあります。

── 面白いですねえ。

若林慎司氏(以下、若林) 旧渋沢邸では、AIによる消火設備も採用しています。カメラが不審火を検出し、AIで自動的に放水するいうものです。

── へぇーっ。これまでの消火設備とはどう違うんですか。

若林 白川郷にあるような放水銃だと建物を壊してしまうんですよね。また、一斉に放水するのですぐに水がなくなっちゃう。こちらはAIが火災だと判定した部分にだけ、扇状のやさしい水を、軒天井から壁にかけるようになっています。木造は燃え広がりが早いので、消防車が来るまでの初期消火が最も大切といわれており、その社会のニーズに応えるシステムなんですね。炎や人の不審な動きの検知と判定をカメラとAIが担っているのも新しいところです。旧渋沢邸は前面に水盤があるんですが、その下に循環によってきれいに保たれた140トンの水が入っており、放水しても建物を汚さないようになっているのですよ。

清水建設株式会社 総務部 若林慎司 上席マネージャー

── なんとなんと。サイボーグっぽいですね。

若林 そうですね。人の目に頼らず進化の著しいカメラによる画像処理とAIを組み合わせ限られた水で効果的な放水をして、建物を損傷しないように守るという仕組みになっています。

写真:清水建設

── 実はハイテクだと。

若林 とてもハイテクです(笑)。

── ほかにも旧渋沢邸には工夫があるんですか?

若林 建物内部の隠れたところに4本の鉄骨を建てて、その中に独立型の油圧式エレベーターを付けました。バリアフリー化を図るとともに、その鉄骨で地震の横揺れを防ぐような工夫をしています。明治期の建物は当然いまの耐震基準には合っていませんが、こうした工夫によって、木造ながら現行の耐震基準の1.5倍になっているんです。

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