大阪公立大学、京都大学、武庫川女子大学の研究グループは、インクジェット・プリンター技術を応用してがん細胞に薬剤を送り込むことに成功した。従来は細胞に針を通すか、細胞に高電圧をかけて細胞膜構造を不安定にしてから送り込む手法が一般的だった。
大阪公立大学、京都大学、武庫川女子大学の研究グループは、インクジェット・プリンター技術を応用してがん細胞に薬剤を送り込むことに成功した。従来は細胞に針を通すか、細胞に高電圧をかけて細胞膜構造を不安定にしてから送り込む手法が一般的だった。 研究グループはまず、1秒間に1000回の連続高速吐出が可能で、1滴をピコリットル単位で制御できるインクジェット・システムを用意。蛍光標識したウイルス由来の膜透過性ペプチドをインクジェット・システムに入れ、ヒト子宮頸がん由来細胞に吐出し、細胞内へ移行する様子を観察した。その結果、液滴の吐出スピードが上がるほど、細胞膜を通過しやすくなり、細胞内への移行効率が高まることが分かった。また、細胞膜を損傷することなく液滴の分子が通過し、細胞内に到達するという。 続いて研究グループは、がん細胞を細胞死させるPAD(Pro-Apoptotoc Domain)ペプチドをがん細胞内部に送り込むことを試みた。PADペプチドだけでは細胞内への移行効率が低いため、PADペプチドに膜透過性ペプチドを結合させて、インクジェット・システムでがん細胞に吐出した。その結果、PADペプチドが高い効率でがん細胞内部に到達し、細胞死を誘導することに成功した。さらに、分子量がおよそ15万にもなる巨大分子である抗体も、膜透過性ペプチドとインクジェット・システムを利用することで、がん細胞内部に高い効率で到達することも明らかになった。 研究成果は10月5日、ACSアプライド・マテリアルズ・アンド・インターフェイシズ(ACS Applied Materials & Interfaces)誌にオンライン掲載された。細胞膜内への送出が困難だった薬剤の治療での利用が可能になるほか、顕微鏡手術中に狙った細胞群に薬物を送り込む用途などが考えられるという。(笹田)