デノンはアナログレコードプレーヤーのフラッグシップ機「DP-3000NE」を10月上旬に発売する。価格は38万5000円。
長年ターンテーブルを開発してきたデノンが久々に提供する高級機種。コンセプトは“深いアナログ体験を、より多くの音楽愛好者へ届けること”だという。
ダイレクトドライブ方式のターンテーブル
ダイレクトドライブ方式やS字型アームといった往年のデノン製アナログプレーヤーがもつ特徴を多く取り入れている。
駆動系は三相16極のDCブラシレスモーターと空間ベクトル・パルス幅変調方式(SV-PVM方式)を組み合わせ、省エネ(消費電力は4W)かつきめ細やかなトルク制御ができるようにした。33.3rpmの場合、起動から1秒以内に既定の速度に到達。ダイレクトドライブ方式の利点であるクイックスタートの特長を備えている。
SV-PVMはレコードのように回転速度が遅いモーターに適した制御方式で、非接触の光学センサーで回転速度を常時監視、結果をマイコンにフィードバックし、回転速度のばらつきを抑える。ソフト開発にも力を入れたという。
モーターの駆動に使う電源はスイッチング方式となっており、リニア電源回路で問題となるトランスの振動を避けられ、待機時の消費電力削減にも有利だという。電源回路に使用するコンデンサーは、サウンドマスターによる音質検討を経てオーディオ用の高音質パーツを選定している。
半世紀培った技術を現代によみがえらせる
振動対策に配慮した新型トーンアームも開発。自重で針圧を掛けるスタティックバランス型で、アームパイプはデノン伝統のS字型カーブ形状。有効長、オーバーハング、オフセット角などの要素を煮詰め、物理的な正確性を徹底的に追求。トラッキングエラーを最小化するためにカーブも入念に検討したという。
アームを始めとしたアナログプレーヤーの基礎的な考え方は、すでに1970年代に確立していたそうだが、それをどう進化させるかをテーマにした。膨大な数に上る、過去の設計図面を見直し、OB設計者の意見も直接ヒアリング。デノンらしいシンプルな外観でありながら、徹底的な高精度と調整のしやすさにこだわったという。
なお、白河工場に保管されていた設計図面の多くは、東日本大震災で消失してしまったが、開発者ができるだけ多くを集めて使用したという。
アルミ製のヘッドシェルは交換が容易なユニバーサル型で、重量は11g。カートリッジは別売で、デノン製のMCカートリッジ「DL-103」がベストマッチだが、他社製品も使える。標準のカウンターウェイトで最大16gまでのカートリッジに対応、さらに付属のサブウェイトの追加で最大26gのカートリッジを使用できる。
フォースキャンセラー(アンチスケーティング)はトーンアームの軸に機械的に接触しないマグネット方式とし、アームの感度に影響を与えにくした。
使用するカートリッジやマットの厚さに合わせて0~9mmの高さ調整も可能で、カメラのズームレンズに似た、使いやすい繰り出し構造となっている。アームパイプは詰め物やダンピングテープを使用せず板バネを使った接手でフローティング。周波数特性にピークやディップが出ないよう調整している。
アームには針を落とす/上げる操作をサポートするためのリフターも装備するが、多くのオーディオ愛好家はリフターを使わない。その使いやすさにもこだわったという。回転面(プラッター)の周囲は山の裾野のように斜めに落とした形状にし、邪魔にならず、場合によっては手を添えながらの針の上げ下げができるようにした。レコード面までの高さは32mmと低めにも設定できる。人によって異なるレコードを掛ける所作に合わせて自由に使えるようにした。
一枚板のキャビネット、制振性に関する配慮
直径305mmのプラッターはアルミダイキャスト製。制振のためにゴムではなく、異種金属を組み合わせている。まず鉄、亜鉛、ステンレスの3種に絞り込み、その中から3mm厚のステンレスを選択。約2.8kgと重量があり、回転の安定性に貢献。厚みやサイズは試行錯誤し、プラッターの裏側に銅メッキビスで固定している。開発に一番時間がかかった部分だという。
キャビネットもボックスタイプはやめ、ソリッドで重いMDFの1枚板とした。基板・モーター・配線などを取り付ける部分は1枚板をくりぬいている。フット部はアルミ、樹脂、フェルトを素材を使用。スプリングとラバークッションを組み合わせ、床からの振動を抑制するとともに、個別の高さ調整ができるようにしている。
内部配線もこだわりのひとつ。トーンアームからRCA端子までキャビネットに固定せず、かつ途中で5回ひねる“フリーワイヤー5回転ねじり”とした。
電源スイッチはなく、コンセントを差すと再生待機状態に入る。START/STOPボタンを押して回転を止めたあと、20秒間操作がないと0.03Wと省電力なスタンバイモードに入り、左側のPLAY/STOPボタンを押すと復帰する仕組み。回転速度は右側のボタンで33.3rpmと45rpmを切り替え、点灯するLEDの位置で速度を区別できる仕組み。78rpmにしたい場合はPLAY/STOPボタンと同時押し。78rpmでは両方のLEDが光る(33+45=78のため)。
サウンドはデノンHi-Fi機器が標ぼうする“Vivid & Spacious”サウンドを体現。サウンドマネージャーの山内慎一氏の監修のもと、物理的な正しさと感性の融合を目指した。上に述べたプラッターの制振材、ワイヤリングのほか、コンデンサー、電源用モーター、モータ用のデジタルラインなどに厳選したパーツを採用している。
本体サイズは幅500×奥行き394×高さ185mmで、重量は18.5kg。本体には着脱可能なダストカバー、シリコン製のマット、ドーナツ盤向けのアダプターなどが付属する。
いま敢えて、3000番台を冠する意味
デノンブランドの歴史は業務用機器の開発から始まる。ダイレクトドライブ方式のプレーヤーや「DL-103」に代表されるMCカートリッジはNHKを始めとした多くの放送局で採用された。国内放送局への納入占拠率は99.9%に達したほどだった。
民生用機器の投入は1970年代に入ってから。デンオン(当時)の放送局用ディスク再生装置が持つ、技術的な優位性、信頼性の高さを武器に、特徴的な形状のターンテーブル「DP5000」と、それをキャビネットに収めた「DP5500」を投入し、好評を博した。しかし、初任給4万6400円の時代に6万8000円という価格は高価だった。そこで、DP5000シリーズのエッセンスを維持しながら約4割も安価な「DP3000」を1972年、DP3000をキャビネットに収めた「DP3700」を1973年に投入し、爆発的なヒットとなった。
DP-3000NEは、空席だったプレミアムアナログプレーヤーのラインアップを埋めるとともに、初代3000シリーズの発売から約半世紀を経た原点回帰を目指した製品ということになる。
現在、デノンがラインアップしているアナログレコードプレーヤーは手軽な「DP-29F」(価格1万8700円)から、USBメモリー内蔵のフルオートプレーヤー「DP-200USB」(3万8500円)、本格的なフルオートプレーヤーの「DP-300F」(5万3900円)、スタイリッシュなデザインの本格的なマニュアルプレーヤー「DP-400」(6万7100円)、これにUSBメモリー機能を装備した「DP-450USB」(8万4700円)の5モデルがある。
DP-3000NEは、これまで培ってきた業務用アナログオーディオ機器の技術に基づいて、プレミアムアナログプレーヤーを作ることが目標。外観にはヘッドホンの「AH-D9200」で採用した竹キャビネットなども検討したそうだが、量産の難しさがあり、エボニーキャビネットのモダンで高級感のあるデザインが選択されたという。デノンでは「DP-500」や「DP-1300」といった木目調キャビネットを採用した機種もあったが生産完了となっていた。木製キャビネットの採用という意味でも久々の機種だ。
安定感があって正確な再生音
デノンの試聴室で実機のデモを聴いたが、非常に安定感が高く、正確かつS/N感の高い再生が可能な機種という印象を持った。デジタルソースの主流が物理メディアからストリーミングに移る中、アナログレコードへの回帰は進んでいる。日本レコード協会の調査を見ても、この10年で国内の出荷金額はほぼ20倍程度、数量もそれに迫る伸びを示している。
一方で、ハイエンドのオーディオ機器全般の高額化が進んでおり、特にアナログプレーヤーを中心にひととおりのシステムを組もうと思うとかなりの出費を覚悟しないといけない。ハイエンドになるとそれこそ天井知らずである。
デノンも「市場にはカートリッジだけで100万円を超すような製品も存在するが、それはデノンがやることではない。がんばれば手の届く価格帯で、深い体験が得られる機種を投入し、市場に問いたい」とする。キャビネット(台座)部分は“ダーク・エボニー(黒檀)を使用した突板仕上げ”。モダンで高級感のあるたたずまいになっている。
高音質盤の持つ魅力を存分に引き出す基本性能の高さ、所有感の高さなど、ハイエンドにふさわしい特徴を備えつつ、買うことをあきらめてしまうほど高価ではない。音楽の上質な体験を求める人のためのプレーヤーだ。