2023年9月6日、情報システム部門向けのITデバイスとSaaS管理を提供するジョーシスは、シリーズBラウンドで総額135億円の大型資金調達を発表。発表会には、ジョーシス代表取締役社長CEOの松本恭攝氏が登壇し、資金調達およびグローバル展開、エンタープライズ領域への参入について説明。日本チームの新体制もあわせて披露した。
コロナ渦で課題のSaaS・デバイス管理で成長 大型資金調達でグローバル展開
ジョーシスは情報システム部門のオペレーションを自動化するクラウドサービス「ジョーシス」を提供している。ジョーシスはITデバイスの調達、キッティング、保管、廃棄、SaaSアカウントの発行、権限設定、削除・停止など、いわゆるIT部門のノンコア業務を効率化する。2021年9月にラクスルの一事業として立ち上げられたが、2022年2月からジョーシス株式会社として分社化されている。ラクスルの創業者であり、現会長の松本恭攝氏も現在は代表取締役社長CEOとしてジョーシスのビジネスにフルコミット。「とにかくジョーシス楽しい」と松本氏は語る。
ジョーシスは、コロナ禍で事業を立ち上げ、導入企業は開始2年で300社へ、ARR(年間経常収益)も1年間で10倍に増加している。これはユーザー企業の多くがコロナ禍にリモートワークを導入し、SaaSとPCの利用数が増えたという市場環境に起因するという。
Oktaの調べでは企業が利用する1社あたりのSaaSは24%増加し、PCの出荷も2割増しとなっているが、7割の企業では情報システム部門の人材が不足しているという状況。こうした管理の課題を解決すべく、SaaS Management Platform(調査会社ガートナーによる)という製品ジャンルが勃興しており、グローバルでは数多くのベンダーが覇権を争っている状態だ。ジョーシスはSaaS管理のみならず、ITデバイスの導入や管理までできる点が大きな強みとなっており、後述する通り、エンタープライズからの引き合いも強くなっているという。
昨年9月にはシリーズAラウンドで44億円を資金調達し、マクニカ、野村総合研究所、CTC、DIS、リコー、NTTコミュニケーションズなど事業提携パートナーも増えた。そして今回ジョーシスはシリーズBラウンドで135億円の資金調達に成功したことを発表した。既存の投資家であるグローバル・ブレインと新たに参加したグロービス・キャピタル・パートナーズをリードインベスターとして、全18社を引き受け先とする。今回の資金調達で累積資金調達額は179億円におよんでいる。「国内スタートアップではかなり早い時期での、大きな資金調達。プロフェッショナルの資金調達先にグロースを信じてもらった」と松本氏は語る。
今回調達した資金の利用用途の1つ目はグローバル展開だ。ジョーシスは同日グローバルリリースを発表し、アメリカ、カナダ、メキシコなどの北米、オーストラリア、シンガポール、東南アジア、韓国、台湾などのAPACで40カ国の展開を始めた。もともとジョーシス自体がグローバルチームで運営されており、プロダクト開発はシリコンバレー、開発はすべてインドで行なわれている。「世界標準の体制で開発されている。役員も半分は海外のメンバー」と松本氏は語る。
グローバル進出を目指す一方、最重要の市場はいまだに日本だという。「マザーマーケットである日本での成功をもって、グローバルに進んでいきたい」と松本氏はこだわる。
エンタープライズでのITガバナンスの崩壊を防ぐ
もう1つのエンタープライズ対応に関しては、今まで300人以下の中小企業をターゲットとしていたジョーシスを大幅に強化し、崩壊に瀕しているエンタープライズのITガバナンスを支援するという目的がある。
ジョーシスが1000名以上の情報システム部門に行なった調査では、ITデバイスの管理台数が1000台を超える企業では、約1/3はExcel管理また未管理で、管理の抜け漏れや管理台帳の分散が起こっている。その他、異動・退職があった従業員の利用料を払い続けていたり、デバイスの在庫の中に故障品が混ざるといったことが起こっているという。
また、SaaSも利用種類が10を超えると、半数以上の会社は一元管理ができなくなるという調査が披露された。契約状況を全社で把握できないだけでなく、同じようなSaaSが社内が複数で重複。また、退社済みの社員のアクセス権が残ったり、情報システム部門から隠れたシャドーIT化も進んでしまうという。
現在、ITガバナンスに課題を感じている企業は約6割に上っており、ITデバイスの台数やSaaSの利用が増えた企業では、特に課題を強く感じているという。そして、この課題感はジョーシスがターゲットにしていた300人以下の中小企業のみならず、大企業でも頭を悩ませていた。そして、多くの企業が「ITガバナンスの崩壊」の危機に瀕し、無駄なコストの発生、ITセキュリティの低下、コンプライアンス違反、シャドーITや対応工数の増大などに陥っている。松本氏は、「コロナ禍でSaaSが増え、テレワークで便利になったが、情シスがITを管理できなくなってしまった」と指摘する。
ITデバイスとSaaS管理の不備はなぜ生じるのか? これについて松本氏は「唯一の真実(Single Source of Truth)」であるマスターDBの欠如を挙げる。これに対して、ジョーシスではマスターDBを構築し、管理の一元化を実現する。社内すべてのSaaSとITデバイスを網羅し、つねに最新の情報を保ち、1つの窓から把握できるようにするという。
日本でのビジネス拡大とエンタープライズ対応強化のため、ジョーシスは新たに日本チームの新体制を構築。日本統括上級副社長としてOmniture、Cloudera、Boxなどの立ち上げを経験してきた高山清光氏、日本のセールスVPとしてIBM、オラクル、SAP、セールスフォースなどでソリューション事業を立ち上げてきた林幹人氏、そして日本でマーケティングVPとしてデルやパロアルトネットワークスでビジネスの成長を牽引してきた芹澤倫史氏がそれぞれ着任。外資系企業で経験を積んできた3人が日本企業であるジョーシスに参画し、日本でのビジネス成長とグローバル進出を目指すという。