【ピラティスインストラクターの健康的ラーメンライフ♪】第24回
北海道帯広市『衆來』今はなき名店の味“すっかいラーメン”を追い求めて。新たな形で蘇る帯広のソウルフード
2023年09月01日 17時00分更新
今回は、関東を飛び出し、筆者の故郷・北海道帯広市のラーメン店『衆來』にやってきた! 店主の国本和真さんは、80年も地元で愛され、やむなく閉業した名店の味を惜しむ声に一念発起し、2016年8月6日に『衆來』をオープンした。国本さん自身も幼い頃から慣れ親しんだ“すっかいラーメン”。大好きなその味を目指し、守り続けたいという思いをこめて、今日もラーメンを作る。ちょっとクセのあるラーメンは、一度食べたら忘れられない味だ。
子供の頃から大好きだった名店の味“すっかいラーメン”を目指して
国本和真さんが、そのラーメン店に通うようになったのは、物心ついた頃から。親に連れられ、親戚ぐるみで通うほど、大好きなラーメンだった。国本さんの身内だけでなく、多くの常連客が足しげく通い、帯広のソウルフードと呼ばれていたほどだ。
あるとき、その店がやむない事情で閉業することになった。数年が経ち、その店を惜しむ声が上がるなか、当時は会社員だった国本さんはある決意をした。もともと懇意にしていた店主の家まで行き、「作り方を教えてほしい」とお願いした。「おやじさんもお店を引退して何年も経ってたので、修業とかではないんですけど、大まかに使っていた材料とかを教えてもらって、仕事の合間に家で自作を始めたんです」と国本さん。
目指す味に近づけようと試行錯誤しながら1年後、2016年8月6日に『衆來』をオープンした。「おやじさんや周りの人に試食してもらって、みんなが美味しい、懐かしいねって言ってくれて。100%ではないですけど、周りからもいい反応があったので、思い切って始めました」。開店したときは一切宣伝をしなかったが、少しずつお客さんが来始めて、口コミで徐々に『衆來』の名は広まっていった。
厨房と客席が近く、注文を聞くうちに国本さんは常連客の好みを全部覚えていったそうで、「なんも言わなくて出てくるラーメン屋」と言われていた。店主と話をするのを楽しみにしている人も多かった。大勢の人が『衆來』のラーメンを求めて並ぶようになった頃、「お客様をお待たせしないように、そろそろ大きな店舗に移ろう」と国本さんは思った。2019年8月6日、19条南5丁目の春駒通りから、4kmほど南へ上った閑静な住宅街の一角に移転し、新たな『衆來』を築いた。
以前より広い店内に客席や小上がりも増やし、券売機も導入した。お客様との会話は少し減ったが、集中してラーメンを作れることで、その味はどんどん磨かれていった。しかし、移転の翌年、「これからだっていうときにコロナ禍で、一番苦しかったですね。それでもなんとか苦しみながら乗り越えて、ようやく落ちついてきました」と、国本さんはこれまでの苦労を語った。
リニューアルで自家製麺が北海道産の小麦に。塩もさらに美味しく!
『衆來』のすっかいラーメンの根幹となるスープ。毎朝、スープを炊くときに、前日の残ったスープに豚骨や煮干、昆布など新しいスープの材料を継ぎ足して炊き上げる。いわゆる九州の豚骨ラーメン発祥の“呼び戻し”に近い技法で、酸味のある独特のすっかい味が出来上がるわけだ。
それをずっと継ぎ足し継ぎ足し炊き続けて創業から7年、すっかい味にさらに深みが増している。こちらが、いま国本さんが作る最高の一杯だ。
麺顔を眺めているだけですっかい味を思い出してしまうほど、一度食べたら忘れられない味わい。スープをひとしきり味わったら、次は自家製麺だ。まるでうどんのように白っぽい太麺は、かん水控えめで打たれている。もちもちとした食感ながら、それがうどんじゃなくちゃんとラーメンの麺として、すっかいスープを受け止める。
実は、2023年3月からラーメンをリニューアルしたばかり。リニューアルのメインは、ラーメンの要、自家製麺だ。
「今まで外国産の小麦を使ってたんですけど、北海道産の小麦に変えたいと思ったのが、リニューアルのきっかけです。というのも、うちの常連さんに小麦を作っている農家さんが多くて、十勝の製粉工場に小麦を卸して小麦粉を作ってるんですね。できるだけ地産地消で、地元の小麦を使いたいと思ったんです」。保存料を使わず、毎日作り立てのフレッシュな麺が、道産小麦でさらに美味しく進化した。そこには、地元の農家を応援したいという思いが込められている。
もうひとつリニューアルで変わったのが「しおラーメン」。このすっかいラーメンは、しょうゆが一番人気で、『衆來』でも注文の9.5割がしょうゆ。国本さん自身も子供の頃からしょうゆラーメンが好きだったというように、しょうゆラーメンしか頼まない人が多いほどだ。早速、リニューアルで変わったところを尋ねてみると、「塩のカエシをもう少しこだわって作りたいなと思って。鰹やホタテ貝柱の出汁を入れたり、試行錯誤しながら塩だれを変えました」。国本さんこだわりの塩だれで仕上げたラーメンがこちら。
国本さんのこだわりは、ちゃんとお客様にも伝わって、しおラーメンを頼む人が増えたという。実は、筆者もリニューアルしてから、しおラーメンばかりリピートしている。「もともとは、ずっとしょうゆが好きだったんですけど、いまではしおのほうが好きですね」と、国本さんも満足の仕上がりだ。
新しいものを創りあげる挑戦と、変わらず守り続けたいもの
リニューアルした自家製麺の小麦本来の風味を味わってほしいと、新たに「魚介つけ麺」がメニューに加わった。
つけ麺のいいところは、麺だけの味も楽しめることだ。つけ汁に浸ける前にまず一啜りしてほしい。真っ白な縮れ麺がプルンと跳ねる心地よい食感と、小麦本来の風味が味わえる。つけ汁は、さらっとしてるけど鰹の濃厚な旨味たっぷり。啜ると麺に旨味がのってくる。縮れのついた太麺は、もちもちと食感もよく、噛むごとに麺の美味さが増す。毎朝打つフレッシュな麺だからこその味わいだ。
リニューアルに合わせて、チャーシューは低温調理に、海苔なども変えた。国本さんとお母さん、数名のスタッフで作り続けるなか、「限られた人数で安定した質のものを提供するためには、いろいろ変えていかないといけない部分もある」と国本さんは考えた。
しかし、変わらないものもある。仕込みから3日かかるというシナチクだ。
「前日から塩漬けの短冊シナチクを水でうるかして塩抜きします。翌日、スライスして薄っぺらくなったら、パスタマシーンのような機械で細くしていくんです。これがすごく時間がかかるんですよ。移転前は、お母さんが家に持って帰って、夜な夜な手で割いてました。3日目に、醤油で煮込んで味を入れたら、お湯を捨てて完成です」。教えてくれたのは、接客をメインに国本さんを支えるパートナーの詩緒里さん。機械が導入されたとはいえ、手間隙かけて作るシナチクは、今も変わらない味だ。
皮から手作りのワンタンも変わらないもののひとつ。こちらもお母さんの手作りだ。「麺を作るときに、皮も作るんですね。朝、スタッフよりも早く来て、お母さんが一人で作り立ての皮でひとつひとつ包んでくれるんです。だから、私はお母さんのワンタンだと思ってます」と詩緒里さん。
詩緒里さん自身も、子供の頃からこの名店の味が好きで、お店に入ったそうだ。根強いファンが多く、今でも噂を聞きつけて訪れ、「すごい感動して帰って行かれて。ついこの間も2回目来てくれたんです」と、嬉しい出会いがまた増えていく。
近隣は競合店ひしめくラーメン激戦区。その中で人気を誇る『衆來』が、さらに新しいメニューにも挑戦していくという。「メニューを増やしたり、やりたいことはいっぱいあるんです」。そのひとつとして、一昨年から始めた夏限定メニューが「冷やし中華」だ。
『衆來』のラーメンはクセがあるというか、好き嫌いがはっきり分かれる味。「うちのラーメンが苦手なお客さんも来ていただけるようなメニューも作っていきたいですね。この麺を活かして、油そばとか、まぜそばとか、若い人にも喜んでもらえるようなものを。でも、基本の味は変わらず維持しながら、新しいのも取り入れていきたいと思ってます」と、まだまだ意欲的な国本さん。その陰では、リニューアル時も「夜な夜な試作を繰り返してがんばってきたんですよ」と、側で見てきた詩緒里さんがこっそり教えてくれた。
『衆來』のラーメンは、美味しいだけじゃなく、懐かしく、あったかい気持ちになる味。帯広に来たら必ず食べたい味だ。月日が経つにつれ、少しずつ熟成していき、いずれ唯一無二の『衆來』の味になる。刻々と移り変わる味だからこそ、いま味わってほしい。
衆來 (SYU RAI)
北海道帯広市西17条南37-1-2
月・木・金11:00~14:30、17:00~20:00
火11:30~14:30
土・日・祝11:00~15:00、17:00~20:00
水曜休
※新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策により、営業日・営業時間・営業形態などが変更になる場合があります。臨時休業など、詳しくはお店の公式Instagram(https://www.instagram.com/ramen_syurai/)をご確認ください。
大熊美智代 Michiyo Okuma
ラーメン大好きなフリーランス編集者・ライター。ピラティスやヨガのインストラクター、ヤムナ認定プラクティショナー、パーソナルトレーナーとして指導も行なっており、美容と健康を心がけながらラーメンを食べ歩く日々。ラーメンの他には、かき氷、太巻き祭りずし、猫が好き。
本人Twitter @kuma_48_kuma
Instagram @kuma_48anna