皆さん、こんにちは!
規模改修工事のため長期休館中の横浜美術館。
休館中は、長い間、市民の皆さんに親しまれてきた、横浜美術館コレクション(所蔵作品)の魅力や休館中の活動、リニューアルに向けての取り組みなどをさまざまな切り口でご紹介します。
前回の記事はこちら
「アートでめぐる横浜18区」緑区編 木の「声」をきくー澄川喜一《そりのあるかたち》
※過去の連載記事はこちら
アートで暮らしに彩りを。ヨコハマ・アート・ダイアリー
横浜美術館コレクション×18区
さて、横浜美術館のコレクションの中には横浜市内18区と関連する作品があるのをご存じですか?
横浜の風景が描かれた作品、横浜出身の作家や横浜を拠点に制作活動にはげんだ作家の作品などを所蔵しています。
「横浜美術館コレクション×18区」では、これらの作品や作家についてご紹介します。
今回は、瀬谷区ゆかりの作家、島田四郎(1905-1986年)《少年笛を吹く》についてのご紹介です。
島田四郎《少年笛を吹く》
島田四郎は、瀬谷区に暮らし、アトリエを構えた画家です。
富山県に生まれ、県立工芸学校(現・富山県立高岡工芸高等学校)の工芸図案科を卒業した島田は、上京して西早稲田にあった日本美術学校に学び、21歳で油彩画家として歩みはじめました。そして旅先の静岡で、妻・みほと出会って所帯を持ちますが、やがて戦争の足音が近づきます。戦局が悪化するなか、従軍画家としてアッツ島への派遣を命ぜられますが、派遣前に玉砕の報を受けたため戦地に赴くことはなく、終戦を迎えました。
戦後は横浜の磯子に転居、そして1958年、53歳の時に瀬谷に終の棲家を求めました。島田はこの頃までに、写実に基づく安定感のある構図と明るい色彩の絵画で、画壇での存在感をゆるぎないものにしていました。またこの年から、神奈川新聞に連載された大佛次郎(おさらぎじろう)のエッセイ『ちいさい隅』の挿絵を14年間にわたって描き、広く親しまれました。
《少年笛を吹く》のモデルは、長女と長男。画室に差し込むやわらかな光と影の表現によって、人物の実在感をとらえています。島田は人物画に取り組む際、最後の仕上げまで常にモデルを前にして描いたといい、多くの作品のモデルは身近な人々です。のちに商業写真家となった長男の笙之介氏は、このとき小学校5年生。物静かだった父・四郎が芸術について家庭内で語ることはなかったそうですが、父のモデルを務めることは笙之介氏の日常の一環のようなもので、苦ではなかったといいます。門前の小僧さながらに、ポーズを取る合間に覗いた父のカンヴァスからいつしか学んだ形態のバランスや構成力が、若くして写真家を目指した自分の糧になっていったと、笙之介氏は回想します。
その10年ほど後に描かれた《なわとび》は、ずいぶんと趣が異なる作品です。この頃、戦後アメリカで生まれた抽象表現主義という絵画の潮流が、日本にも大きく影響を及ぼしました。その特徴の一つである、勢いのある筆で激しい動きを感じさせるような表現に取り組む画家も多くあらわれました。島田もまた、新しい表現を模索したのでしょう。島田は以前から、風景スケッチなどの水墨画の小品で、墨のほとばしるような素早く力強い筆づかいを実践していました。東洋の水墨画の理想とされる「気韻生動(きいんせいどう)」(生き生きとした生命感と風格に満ちていること)の境地を尊んでいたという島田は、水墨画の一気呵成(いっきかせい)の筆の動きを、油彩画に取り入れようとしたのかもしれません。
大佛次郎記念館が所蔵する《おんな ネコ》は、晩年の代表作の一つ。猫を抱く女性は、長男・笙之介氏の夫人です。長男の夫人が円熟期の画家のミューズ(創作意欲をかきたてるモデル)となり、洗練された女性像が数多く生み出されました。
横浜美術館スタッフが18区津々浦々にアートをお届け!
「横浜[出前]美術館」―「アートでめぐる横浜の街−瀬谷区編−」―
横浜美術館は、休館中の間、学芸員やエデュケーター(教育普及担当)が美術館をとびだして、レクチャーや創作体験などを横浜市内18区にお届けします。その名も「横浜[出前]美術館」!
18区の最後を飾る第18弾は、瀬谷区の横浜市瀬谷区民文化センター あじさいプラザに、エデュケーターによるワークショップ「シュールなおばけをつくろう!」をお届け!その様子をレポートします。
また講座参加者の皆さんに「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」をきいてみました。今まで知らなかった新たな魅力が見つかるかもしれません!
身近なものでフロッタージュに挑戦!
講座名:「シュールなおばけをつくろう!」
開催日時:2023年6月3日(土) 13時30分~15時
開催場所:横浜市瀬谷区民文化センター あじさいプラザ
講師:横浜美術館エデュケーター
対象:小学生とその保護者
参加人数:21名
会場となったのは、瀬谷区にある横浜市瀬谷区民文化センター あじさいプラザ。相鉄本線「瀬谷駅」の南口再開発で誕生した複合施設・ライフゲート瀬谷内に、2022年3月にオープンしたばかりの文化施設です。コンサートや発表会、リハーサル等の場に利用できる音楽多目的室、小規模な展示から絵画・写真・彫刻など広い空間での作品展示にも利用できるギャラリー、グランドピアノが常設される練習室などを備えています。今回のワークショップは、アート講座やサークル活動等の利用に適した会議室で開催しました。
会場のテーブルには、流木や葉っぱ、貝殻などの自然素材から、工具や文房具まで、材質も形も様々なモノが並んでいます。
今回挑戦するのは「フロッタージュ」。凸凹のあるものの上に紙を置き、鉛筆などでこすって凸凹の形状を写し取る技法です。いっぱい並んだモノが気になりますが、まずはエデュケーターの森さんに、フロッタージュのやり方を教えてもらいましょう。
森さんが選んだのは貝殻。紙の上からこすったら、こんな感じに。
基本的なやり方がわかったら、コインや葉っぱなど、フロッタージュしやすいモノからやってみましょう。黒の鉛筆はHBから3Bまでいろんな濃さが用意されているので、あれこれ試してみるのもOK。鉛筆の持ち方を変えるだけでも、絵柄の出方が違ってくるようです。
慣れてきたら、いよいよ他のモチーフに挑戦です。
森さんが用意した紙には、虫めがねがプリントされています。このフレームの中に、みんなが見つけた「面白いモノ」をフロッタージュしてみましょう。もちろん、スタッフが用意したモノは使い放題!
いろんなモノを選んでフロッタージュに挑戦中。うまく形が写し取れない素材もありますが、予想した通りにいかなかったり、何だか分からない絵が浮かび上がるのも、フロッタージュの面白さです。
フロッタージュした絵は、どんなふうに見えますか?あれこれ想像して、感じたこと、聞こえる音などを、虫めがね横の吹き出しに書いてみましょう。
ヒレのあるさかな?
せんぷうき? かお? 元の素材と関係なく、あれこれ想像がふくらみますね。
次はいよいよ作品づくりにチャレンジです。ミッションは「おばけ」!
いろんな形の型紙を用意したので、それを使ってもいいし、真っ白な紙に自由にフロッタージュするのもアリ。色鉛筆や目玉シールも用意されています。森さんたちがつくった「見本」も参考にしながら、カラフルで楽しいおばけをつくってみましょう。
お家から持って来たマスキングテープを使って、おばけづくりに挑戦中。どんなおばけができるか、楽しみです。
会場の椅子もフロッタージュ! 自由なアイデアを楽しんでますね。
おばけが完成したら、お気に入りの1枚を選んで、きょうだいや保護者の方と交換します。自分が受け取ったおばけは、どんなふうに見えますか? 名前を考えて、付箋に書いてみましょう。
名前をつけたら発表会です。
「ぐるぐるおばけ」「ジャングルから来たサバイバルおばけ」「クラゲおばけちゃんの妖精」などなど、いろんな「おばけ」ができました。
ところで、フロッタージュはどうやって生まれたのでしょう。
皆さんは、天井の木目や壁のシミを見て「顔に見える」などと思ったことはありませんか。フロッタージュを始めたと言われるドイツの画家、マックス・エルンストは、子供の頃に熱を出して寝ている時のそんな体験から、大人になってフロッタージュを思いついたそうです。そして身近にあるいろんなモノを写し取り、その断片を使って見たこともない生き物や宇宙までをもイメージさせる作品を残しました。
そんな無意識の世界を取り込んで作品を制作したのが「シュルレアリスム」の画家たちです。
これは、シュルレアリスムを代表する画家、ルネ・マグリットの《王様の美術館》という作品です。なんだか不思議な絵ですよね。
ちなみに、このタイトルを付けたのは本人ではありません。絵をみた友達に、タイトルをつけてもらったそうです。今日は、皆さんにはシュルレアリスムの作家たちと同じことを体験していただきました。
マックス・エルンストやルネ・マグリットの作品は、横浜美術館でも所蔵しています。リニューアルオープン後に展示される機会があると思うので、ぜひみにきてくださいね!
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、お客さまとスタッフの安全に配慮した上で実施しています。
18区の魅力発見! 講座参加者の皆さんにきいた「みんなに伝えたい!わたしの街のいいところ」
横浜のことを知っているのは、よく訪れたり、住んでいる方々!
講座参加者の皆さんの声から瀬谷区の魅力をご紹介します。
広い空に包まれる住みやすい街。
・高層建築物が少ないので、空が広く感じます。星もきれい。緑が多い(瀬谷区在住、40代)
・新鮮な野菜が手に入る(瀬谷区在住、30代)
・平地で駅前の開発が進んでいる。子育て支援が活発(旭区在住、40代)
・和泉川が自然と調和している 旧米軍基地が広い空き地で凧揚げできる(瀬谷区在住、40代)
――みなさんもぜひ瀬谷区を訪れてみてくださいね――
・緑区編「木の「声」をきくー澄川喜一《そりのあるかたち》」はこちら
・中区編「撮るのも撮られるのもひと苦労ー下岡蓮杖(しもおかれんじょう)《三人の少年》」はこちら
・泉区編「「繭」でつむいだ「造形詩」ー由木礼《けものたちはみな去ってゆく》」はこちら
・港北区編「現実の中の幻想的な一瞬、光と影を描く作家の代表作ー山本貞《地の光景》」はこちら
・保土ケ谷区編「今につたわる今井川のほとりの小さな社―亀井竹二郎が見た明治初期の保土ヶ谷宿」はこちら
・港南区編「夫婦そろって、は初の快挙! 共に高め合い、それぞれ築いた絵画世界」はこちら
・南区編「波間に浮かぶタコとカニ。確かな技術が可能にした三代井上良斎の自由な作陶。井上良斎(三代)《波文象嵌壺(はもんぞうがんつぼ) 銘「海」》」はこちら
・旭区編「絵からどんな歌がきこえる? 岡本彌壽子(やすこ)《幻(捧げるうた)》」はこちら
・都筑区編「波しぶきにこめられた、荒ぶる海のエネルギー。クールべ《海岸の竜巻(エトルタ)》」はこちら
・金沢区編「カラリストの真骨頂、色の魔法使い。高間惣七《カトレアと二羽のインコ》」はこちら
・戸塚区「幕末のイギリス人写真家・フェリーチェ・ベアトがみた戸塚。―カラー写真?絵画?どちらも違う「手彩色」写真とは―」はこちら
・青葉区編「中島清之が愛した青葉区・恩田町」はこちら
・栄区編「ステンレスと伝統的な漆芸の融合。新たな漆芸の可能性を追求する作家・赤堀郁彦」はこちら
・西区編「細やかな点描で、幻想的な世界を描く。田中惟之《港の博覧会》」はこちら
・磯子区編「消しゴムスタンプで「オリジナルのエコバッグをつくろう」。」はこちら
・鶴見区編「埋め立てが進む前の生麦の姿を捉えた、石渡江逸《生麦の夕》。黄昏時の下町風景にみる人々の暮らし」はこちら
この記事は下記を元に再編集されました
https://yokohama-art-museum.note.jp/n/naa6e55e34649
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