■キスマーク付きのピンク色マザー
今でこそピンク色のPCケースやゲーミングデバイスが数多く流通していますが、今から23年前の2000年にピンク色のマザーボードがあったことに驚きます。
「AX3S Pro」の日本限定かつ2000枚限定モデルで、愛称は“Sweet Kiss”。パッケージも基板も見事にピンクで、ひときわ目を引く存在でした。
当時は、PC内部を見せる文化はなく、PCケースにマザーボードを収めてしまうと、そのピンク色はもう拝めません。販売店では、奇抜な色を見て「世も末だね」と辛辣な感想を漏らすスタッフがいたくらい異端な製品でした。
20年先の自作PC業界を見据えて(いたかどうかはわかりませんが)ピンク色のマザーボードを出荷した勇気には脱帽です。
そのうえ、基板だけでなく外箱までピンク色なマザーボードは、筆者が知る限りこのSweet Kissだけ。しかも外箱の窓から基板が覗けるなんて親切すぎます。デザインが凝っている現在のマザーボードこそ、基板が直接見える外箱にしたほうが、存在感が増して売上につながると感じます。そういう意味でもAOpenから学ぶことは今でも多いでしょう。
■真空管アンプを搭載
サウンド機能に真空管アンプを採用した“変態”マザーボードがTubeシリーズです。パッケージに同梱されている真空管をマザーボード上のソケットに差し込むと、アナログチックな柔らかいサウンドが楽しめます。
デジタルの塊であるマザーボードにおいて、アナログのデバイスを組み合わせるという奇抜な発想がウケました。真空管の規格が6922だったので、好きな6922互換の真空管に差し替えてサウンドを楽しむマニアもいました。
この製品がすごいのは、真空管アンプをマザーボード上に配置するために、PCIスロットの本数を減らしたことです。スペック重視の現在では、スロットを削ってまでギミックを搭載するなんて、なかなかできることではありません。
しかも、扱いに手間がかかる真空管をあえて採用し、それを製品に同梱したことも称賛に値します。これが「真空管は自分で好きなの買ってね」だったらヒットしなかったでしょう。AOpenは、こういう英断ができるメーカーだったのです。実際マニアの間では、今でもTubeシリーズは語り草になっています。
PC内部を見せる現在のPCケースでは、かなりインパクトがある見た目に仕上がることでしょう。今だからこそ復活してほしい製品です。
さまざまな機能をテンコ盛りにする現在のトレンドからあえて外れて、なにかを削除してでも目玉機能(たとえばアナログラジオや温度で色が変わる塗料などはどうでしょう?)を搭載する意気込みがあれば、似たりよったりの現在のマザーボードから大ヒット製品が生まれる可能性があるかもしれません。
■遊び心のあるギミックは昔も今もウケる!
このように時代を先取りした製品をいくつも輩出したAOpenが、自作PC向けマザーボード事業から撤退したことが悔やまれます。AOpenの奇抜なセンスにようやく時代が追いついてきた感じがあります。
“変態”マザーボードというとASRockの独壇場のようなイメージがある人も多いと思いますが、実はASRockに負けず劣らずAOpenも“トンデモ”マザーボードメーカーだったのです。
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