佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第208回
高いノイズキャンセル性能の裏にある、イヤーチップの独自性
ソニー渾身の完全ワイヤレス「WF-1000XM5」ファーストインプレッション
2023年07月30日 17時00分更新
高いノイズキャンセル性能とイヤーチップの関係性
実機も試せた。小型化は見た目から実感でき、M4より本体もケースも小型化している。M5のケースはスリムになっただけではなく、正立するデザインになっている。これはワイヤレス充電に対応するためだ。ワイヤレス充電対応の完全ワイヤレスイヤホンはケースが大きくなりがちだが、WF-1000XM5はポケットに入れて持ち運ぶことも考えられていて、なかなかバランスのいい設計だと思えた。
WF-1000XM5がユニークなのは、イヤーピースを外してノズルをのぞくと増設されたフィードバックマイクを確認できる点だ。このため、通常はノズル部をふさぐダストカバー(ワックスカバー)はイヤーピース側に移っている。このことから、イヤーピースは実質専用に近いものになるので、イヤーピースを替えようと考えている方は注意してほしい。また、イヤーピースは少し外しにくいと感じた。これは慣れかもしれないが、容易にノズル部が露出しないように固めの作りにしたのかもしれない。
小型化の恩恵を受け、装着感はかなり優れていると思う。シェルの形状も良い。ただ、最近の完全ワイヤレスイヤホンはノズルを耳穴に入れ込むいわゆるカナルタイプが装着感の点から敬遠されて、耳穴を広く塞ぐだけのものが多くなって来た傾向がある。開発の方の話では「ノイキャンとの兼ね合いでこうした」ということだった。
確かにパッシブ状態での遮音性もなかなかいいと思う。おそらく新しいイヤーピースが優れているためだろう。WF-1000XM5では、まず自分に合うサイズのイヤーピースを正しく選ぶことが必要だ。例えば、私はふだん、Lサイズを使用することが多いが、WF-1000XM5を試聴する際にLサイズを装着すると、低音が多すぎて中域にかぶってしまう傾向があった。そこでイヤーピースをMに下げてみると全域が晴れ上がるようにクリアな音再現となった。開発者が意図したサウンドもおそらくはこれだろう。
慣れたiPhone 12 Proを接続して、いつも聴いている曲を試聴した。
全域でバランスが取れた音だが、低音はタイトでパンチ感も十分にあって躍動的だ。振動板は大きめだが、緩慢に動くのではなく、きびきびと素早く反応している。楽器音の歯切れもいいと思う。細かい音をよく拾うし、高音域のベルの音も美しい。SHNTIのヴォーカル曲では、声の明瞭感が良く、左右の広がりもよく聞こえた。バックの楽器の音も鮮明だ。Kate Wadeyのジャズヴォーカルでは声の質感に加え、ベースサウンドがふくらまずに聴こえるのもいい。
高音質化処理のDSEEなどは使用しなかったが、基本的な音質はなかなか優秀だと思う。非常に細かい音を抽出し、場の雰囲気を伝えるので、DACに相当する部分が優れているのだろうと考え、統合プロセッサーV2とノイズキャンセルプロセッサーのQN2eのどちらがDACとして機能しているのか聞いてみた。開発者の回答は、QN2eがDACの機能を担当し、24bitの精度を持つということだ。V2はDSEEなどデジタル関連の信号処理のみを担当するという。WF-1000XM4の統合プロセッサーV1では、DACもワンチップに統合していた。WF-1000XM5ではアナログ部分を外に出したという見方もできるだろう。各チップの機能を単純化することで、Vシリーズチップの高性能化も容易になるのかもしれない。
LDACやLE Audioに対応するXperiaを所有するユーザーはもちろんだが、iPhoneユーザーも十分に楽しめる高音質に感じた。ほかのモデルとも比較しようと思っていたが、さすがに時間がなく無理だったので、容赦いただきたい。WF-1000XM5は完成度が高いモデルだが、ソニーはすでにその先も見据えているのではないか。そう考えながら、私は会場を後にした。

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