6月22日、データセンターを中心にしたデジタルインフラを手がける米エクイニクスは創業25周年を迎えた。7月10日には、日本法人であるエクイニクス・ジャパンが「2023年度事業戦略説明会」を開催し、2022年度の振り返りと、2023年度のビジネス戦略について説明した。
伸びしろのあるアジア 東京で15拠点目となる「TY15」も
エクイニクス・ジャパン 代表取締役社長 小川久仁子氏によれば、25年のなかでは、エクイニクスにとってビジネス成長につながった4つのトレンドがあったという。
1つ目は2000年代はじめのインターネット創世期で、Web、SNS、SaaSなどによるデジタル化が始まった時代。2つ目が2010年代のクラウド技術により、企業がデジタル化への変革を加速した時代。3つ目が2020年からのパンデミックがデジタル化の波をより一層と後押し、加速した時代。そして4つ目が、2023年からのAI技術が実用可能となり、それを使って一層デジタル化を加速する時代だという。
続いて同氏は、2022年から2023年前半における、グローバルでのデータセンター拡張の主なトピックを3つの地域に分けて説明した。
APAC(アジア太平洋)では韓国でハイパースケーラー向けのデータセンターであるxScale(エックススケール)の建設を発表し、シドニーでもxScaleを新たに開設した。さらに、インドネシア、マレーシアでの新しいデータセンターの建設も発表(2024年に開設予定)している。
「アジアパシフィックはもっとも経済的な伸び代が高いといわれており、そこに注力して、より一層拡充しているというのがアジア地域でのハイライトになる」(小川氏)
EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)では、西アフリカ(ナイジェリア、ガーナ、コートジボアール)で4つのデータセンターを買収し、アフリカに進出。南アフリカ(ヨハネスブルグ)でのデータセンター建設も発表している
Americas(北アメリカと南アメリカ)では、経済成長率の大きい南アメリカでの拡大に投資を行なう。チリで3つ、ペルーで1つのデータセンターを買収。コロンビアでデータセンター建設を発表している。
パートナーシップに関しては、VMware Cloud on Equinix Metalの発表、HPE GreenLake Private Cloudとの協業、Google CloudへのEquinix Fabricの拡張サービスが主なトピックだという。
国内のデータセンター拡充では、大阪のxScaleである「OS2x」の第2フェーズ拡張を完了したほか、都心型のデータセンターとして「TY-11」(東京)、「OS3」(大阪)の拡張も完了した。
都市型のデータセンターはユーザーからのニーズが高く、計画を前倒しして拡張しており、東京で15拠点目となる「TY15」(東京都港区)の新設計画も発表している。TY15は、2024年下半期の開設を予定しており、第1期では約1200キャビネット、完全稼働時には3700キャビネットの収容能力を備える。
「TY-15は品川キャンパスに存在する都心型のデータセンターで、TY-2からかなり近く、約1.5キロの位置になり、NEXT TY-2としてのポジショニングも期待されている非常に重要なサイトになります」(小川氏)
AIを実装するための4つの要件とは?
小川氏によると、同社のデジタルサービスを活用している顧客には、ビジネスモデルをデジタル化した次のステップとして、商取引をデジタルマーケットプレイスを通して行なうため、サプライチェーンもしくは企業間、R&Dとの接続など、相互接続しながらデジタルに参加していこうとする特徴があるという。また、デジタルの近接性を重視し、データの発生する場所に近いところ(OTとITを融合するエリアもしくは人口の多いところ)にインフラを配置する傾向もあるという。
そして、データやアプリケーション中心のデジタル時代にインフラと必要な要素として、同氏は「さらなる分散化」、「より柔軟なクラウドへの接続性」、「エコシステムのさらなる活用」、「オンデマンドへの高い需要」、「サステナビリティへの高い要求」の5つを挙げた。
「デジタルの近接性を強めていくと、必然的に分散化されたインフラが必要になる。また、クラウドへの接続性は今もマスト。また、エコシステムの活用、インフラをオンデマンドで提供できるケイパビリティ、サステナビリティの高さの5つが具体的にデジタルインフラとしてお客様から要望されている部分であり、私どもが提供する新しいデジタルインフラの役割になる」(小川氏)
これらデジタルインフラに求められる5つの要素を踏まえ、同氏は、2023年に注力する戦略として「AIとPlatform Equinixの融合」、「エコシステムの進化」、「サステナビリティの実践」の3つを挙げた。
小川氏は、これら3つの戦略の前提条件となるのが、同社が推し進めるプラットフォーム構想だと語った。
「一番重要なデータセンターをベースに、相互接続するためのインターコネクションサービスを使いながら、データセンターサービス、デジタルサービスを融合して、お客様が私どものプラットフォームの上で相互接続しながらビジネスを推進していただくために、プラットフォーム自身がマーケットプレイスになるというプラットフォーム構想でさまざまなサービス開発している」(小川氏)
事業戦略の1つである「AIとPlatform Equinixの融合」を進める上では、4つの要件が必要になるという。
1つ目は、扱うデータ量が膨大になるため、それを処理できるインフラ。2つ目はクラウドとの近接で、これは全世界に散らばったエンジニアが全世界にあるデータを、一度、アプリケーションでクレンジングしながら構造化していく必要があるため、エンジニアやエコシステムパートナーがデータに対してアクセスするためには、クラウドの近接性というのは重要なポイントになるという。3つ目は、AIが医療や自動運転で利用されることがあるため、低遅延であること。4つ目が自動化で、膨大なデータを管理する上では、スケールアウトできる自動化されたインフラを持つことが重要だという。
日本のサービスをグローバル展開していくエコシステム
続く「エコシステムの進化」について同社は、グローバルから日本という流れだけでなく、日本のサービスをグローバルに展開していく流れも推進している。
1つの例が、今年4月に発表した日立製作所との協業強化だ。この協業では、日立製作所が Equinixを活用して、環境配慮型ストレージソリューションをベースに、「EverFlex from Hitachi」としてハイブリッドクラウドソリューションをグローバル展開することをエクイニクスが支援する。
また、英オックスフォード クアンタム サーキッツ(Oxford Quantum Circuits)が、都内にある同社のデータセンター「TY11」を通じて、量子コンピュータをas-a-Serviceとして世界中の企業に商用提供することを発表した。創薬やリスク管理に関する開発、金融や先進製造業など幅広い分野において役立つことが期待されているという。
「日本からグローバルに発信していく新しいパートナーシップの形はなかったので、逆の形の新しいパートナーシップを締結した」(小川氏)
再エネ利用率は96%の進捗 サステイナビリティについても披露
サステナビリティでは、同社は具体的な数値目標を定めて推進しているが、7月10日には、その進捗もアナウンスされた。
2030年までに2019年比で炭素を半分する(スコープ1およびスコープ2)という目標の進捗は23%、再生可能エネルギーの利用率を2030年に100%にするという目標に対しては96%の進捗だという。
また、PUE値(Power Usage Effectivenes、データセンター全体の消費電力を、サーバーなどのICT機器の消費電力で割った数値で1に近いほど効率的とされている)は1.46で、前年比で5.5%改善したという。
建物の環境負荷を評価するWBLCA(Whole Building Lifecycle Analysis:全建物ライフサイクル評価)への取り組みも推進しており、昨年は10のデータセンターで適用した。新設したデータセンターのみ適用が可能となっているため、今後は新しいデータセンターはすべてこのライフサイクルの配下でアセスメントを進めていくことになっているという。
そのほか、未来のデータセンターに向けての実験も行っており、低炭素エネルギーの採用、高効率な空気冷却の実装と液体冷却の技術を使用した高密度化への移行、廃熱の再利用、水の効率化、建材の体積炭素削減、ハードウェアのリサイクルの優先順位付けといったサーキュラー・エコノミーの導入、ソフトウェアを使用したデータセンターのオペレーションの最適化や自動化を実施しているという。