半導体の材料を巡って、大きな動きがあった。
政府系ファンドの産業革新投資機構が26日、半導体材料大手JSRの株式の公開買い付け(TOB)を始めると発表した。
機構は、JSR買収のため投じる資金の総額について、約9040億円になる予定だとしている。
JSR側も同日、機構によるTOBに賛同する方針を正式に決めた。
JSRは、半導体材料のひとつ、フォトレジスト(感光剤)の世界トップ企業だ。
機構は、今回の買収を通じてJSRを非上場化し、「業界再編を機動的に推進する」と明確に述べている。
半導体の材料は世界シェア5割超を維持
このニュースを理解するうえで、まずは半導体市場における日本の現在地をあらためて確認しておきたい。
半導体材料は世界市場において、日本が強い分野だ。
半導体そのものについては、1990年代には日本企業が世界シェアの50%程度を占めていたが、現在は10%程度にまで地位が低下している。
一方で、電子情報技術産業協会(JEITA)の報告書『国際競争力強化を実現するための半導体戦略2022 年版』によれば、半導体材料は50%超、半導体の製造装置は30%程度のシェアがある。
その中でもフォトレジストは特に日本企業が強く、世界シェアは9割を占めている。
内訳をみるとフォトレジスト市場の9割を日本企業5社が分け合っていることがわかる。
- JSR=26%
- 東京応化工業=25%
- 信越化学工業=16%
- 住友化学=13%
- 富士フイルム=10%
- その他=10%
JSRは世界トップ企業だが、2位の東京応化工業が1ポイント差で追いかけている。
この5社がしのぎを削る市場について、産業革新投資機構は「業界再編を推進する」とはっきり言っている。
機構は要するに、JSRの買収を呼び水に5社の統合を進めたいのだ。
財務省総合政策課の職員が示唆していた再編
JSRも6月26日に開示した資料の中で、次のように述べている。
「次世代技術開発競争の激化に伴い、海外の半導体材料メーカーにおいては大型の合併・買収を通じた事業規模拡大によって競争力を高めている。国内にも有望なメーカーは多数存在するものの、合併・買収が進んでいない日本の半導体材料業界において国際競争力を強化するには、業界再編を志向した戦略的打ち手が必要」
2022年4月には、財務省総合政策課の職員が、同省の広報誌『ファイナンス』にコラムを寄稿し、「競争力の強化」の必要性を訴えている。
「半導体サプライチェーンと経済安全保障」という題がつけられたコラムは、フォトレジストなど半導体材料の市場における日本の優位性を示したうえで、次のように指摘している。
「立場を維持するには、各企業が業界内での競争力を維持し続けることと、国内生産が行われ続けることが重要である」
JSRの開示資料と財務省職員のコラムが述べている論旨は、ほぼ同じ文脈の中に位置づけられる。
フォトレジストは「ニッチ」
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